===================================

          *** 労務屋の労働雑感 ***

+++++++++++++++++++++++++++++++++++
        平成14年12月05日発行 通巻199号
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

          <<< またもや雇用の政労使合意 >>>

===================================

 昨日(4日)の政労使雇用対策会議で、「雇用問題に関する政労使合意」と
いうものができあがったそうです。前回(11月26日)の会合での首相の指
示を受けてのものだとか。基調としては、昨今一段と厳しさを増している雇用
情勢に対して、政労使が一致協力して対処していこうということで、時宜を得
た重要な取り組みであるといえるでしょう。
 とりわけ、「政府はこの合意に基づき、補正予算および平成15年度予算の
編成ならびに関係法律案の提出など早急に必要な施策を樹立し実施する」と、
予算措置をともなう政府の対応を行うことが明記されており、具体的なアクシ
ョンを起こすことを念頭においた内容となっています。
 内容を見ると、まず第一に雇用の維持・確保ということで、経営サイドは雇
用の維持・確保にこれまで以上に最大限の努力を行う、労働サイドはコスト削
減やワークシェアリングも含めた就業形態の多様化に協力し、雇用維持に必要
であれば労働条件の弾力化にも対応するとなっています。これは、昨年10月
発表された、労使(当時の日経連と連合)による「『雇用に関する社会合意』
推進宣言」とほとんど同一の内容であり、雇用情勢の改善が進まない中で、労
使の雇用維持策がかなり手詰まりに近い状態であることを伺わせます。
 今回は政労使の合意ということで、行政の役割も書き込まれており、雇用の
維持・確保に関しては、労働保険の効率化・重点化とともに、労使の取り組み
を支援するとなっています。
 そのほか、第二に、就職促進策として、民間人材を活用した就職支援の強化、
ハローワークの機能改革、構造改革や創業支援などによる新規雇用の創出、雇
用保険制度改革があげられています。また、即効性のある施策として、緊急地
域雇用創出特別交付金の増額もあげられています。このあたりはもっぱら行政
の役割が中心になり、労使はそれに協力するということになるでしょうか。
 さらに第三として労働市場改革があげられており、規制改革や労働法制の見
直しなどが列挙されています。
 こうしてみると、内容的にはそれほど目新しいものはないように思われます
が、細部を見るといろいろと注目すべき記述をふくんでいます。
 まず、雇用の維持・確保に関しては、経営サイドが「最大限の努力」として
いるのに対して、労働サイドはワークシェアリングも生産性向上もコスト削減
も、さらには労働条件の弾力化までも明記させられています。特に、この「弾
力化」というのは、さすがに連合としては「賃金の引き下げ」とか「労働条件
の切り下げ」とかは言えないということでこの表現になっているわけで、意味
するところは雇用維持のためには賃下げやむなしということでしょう。これは、
昨年の「推進宣言」では「賃上げについては柔軟に対応する」となっており、
今年春の「ワークシェアリングに関する政労使合意」でも「所定労働時間の短
縮とそれに伴う収入の取り扱い」ということで、時間単価は下げないというこ
とになっていたのと較べても、さらに一段踏み込んだものとなっています。
 一見して、労働サイドが一方的に譲歩したかのように見えますが、今回の合
意文ではそのあとに「労使は、労働時間管理など、労務管理上生じうる個別的
問題については協議を尽くして問題解決にあたる」との一文がさりげなく織り
込まれています。これは要するにサービス残業の問題を指していることは明ら
かでしょう。実際、連合はこれを特に重視しており、来春闘の闘争方針でも、
サービス残業防止の協定化を共闘課題として掲げています。掲げてはいるもの
の、現実に経営サイドがこの協定化の交渉に乗ってくるかどうかはかなり疑問
と思われる状況であっただけに、ここで行政をも交えた「政労使合意」という
形でこの問題について「協議を尽くして問題解決にあたる」という言質をとっ
たことは大きなポイントといえるでしょう。「個別的問題について」という文
言まで入っていますので、経営サイドとしては、これを個別労使でなくナショ
ナルセンターの話だと弁解するのも難しいでしょう。現実には個別企業にはサ
ービス残業についての労使交渉には消極的なケースも多いでしょうから、この
一文が入ったのは日本経団連としては「してやられた」のかも知れません。
 また、政府の役割として、「雇用保険制度の効率化、重点化」ではなく「労
働保険制度の効率化、重点化」となっているのも目につくところで、これは最
近言われているように労災保険まで含めて見直しを行い、企業の負担の軽減を
はかるべきという趣旨でしょう。後段にも「労災保険料率も併せて検討する」
との記述があります。これについては、労災はそもそも使用者の無過失責任で
保険料も全額企業負担なのですから、本来なら労災保険の安定的運営という観
点から労働サイドは批判的であるべきだろうと思いますが、雇用保険への一般
財源投入といった点では労使は一致しているだけに、ここは大きな問題ではな
いとして看過したのかもしれません。なお雇用保険の保険料率に関しては、厚
生労働省は今年10月に続くさらに一段の引き上げを画策したものの、現時点
では他省庁などの反対もあって頓挫しているわけですが、この「合意」の文面
では「制度の安定的運営を確保するために必要な保険料率の水準については、
景気の自動安定化装置としての機能も考慮しつつ検討する」と、簡単にはあき
らめないぞという姿勢で、なかなかしぶといところを見せています。
 同じように、労働市場改革の部分においても、規制改革、法制見直しに触れ
たあと、しっかりと「中高年者の再就職が容易になるよう現行の慣行の見直し
を検討する」と書き込んでいます。これは要するに企業の求人の年齢制限をや
めろということでしょう。現実にはそもそも求人が少ない中で、文面上年齢制
限をやめたところで中高年の再就職がはかばかしく進むわけでもないでしょう
が、厚生労働省としては意を通したということなのでしょう。
 さらっと読むと、あるいは通り一遍の内容に読めてしまう文章のようであり
ながら、なかなか多くの意味がこめられており、まとめあげるにあたっての政
労使三者の折衝もたいへんだったのではないでしょうか。
 こうした取り組みは、最近では1999年の旧日経連と連合による「雇用安定宣
言」がはじまりで、その後政府が加わったり、春闘のテーマとなったりするな
ど、かなりの広がりを見せています。残念ながらこの間雇用失業情勢は一段と
悪化しており、こうした取り組みの限界も感じざるを得ないわけですが、雇用
不安がパニックに陥るのを防ぐという意味でも地道な努力が求められていると
思います。なんとか現状をもちこたえつつ、労働需要の改善をすすめていくこ
とが重要ではないでしょうか。

                (次回は12月9日に配信する予定です)
===================================

◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」
 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され
 ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801

◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、
 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す
 る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。
 
◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。
 http://www.roumuya.net/mm/backn.html

◆登録・解除は、次のページからお願いします。
 http://www.roumuya.net/mm.html

◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、
ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。

◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com

◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載
 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。

◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま
 せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、
 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。

===================================

メールマガジンにもどる
バックナンバーのインデックスにもどる