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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成14年03月11日発行 通巻145号
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          <<< 内部文書はなぜ洩れる >>>

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 鈴木宗男代議士と外務省をめぐる一連の疑惑が連日報道されています。北方
四島支援事業をめぐる入札関与疑惑については、外務省の内部文書、しかも機
密扱い文書が外部(日本共産党)に流出しました。これらの書類に関しては外
務省としても内部のものである可能性を否定できず、かなり有力な証拠となっ
ているようです。さらに、きょう(11日)の鈴木代議士の証人喚問では、今
度は民主党議員が別の内部文書(やはり機密扱い)を示して追求したとのニュ
ースが入ってきました。
 いずれも内部告発である可能性が濃厚ですが、なにも外務省に限ったことで
はなく、最近では民間でも随所で内部告発が続出し、それによって不祥事が明
るみに出るケースが相次いでいます。
 雪印食品をはじめ、ぞろぞろと出てきた牛肉産地偽装事件も、そのほとんど
は内部告発であると言われています(雪印食品と高松市の「カワイ」について
は報道でも内部告発とされています)。食肉に限らず農産物についても、熊本
で韓国産トマトを八代産に、宮崎でも中国産ゴボウを国産にといった偽装事件
が次々に明るみに出ています。実態として「業者間のうわさや内部告発以外に
偽装行為を知る手だてがないのが実情。行政の権限を強化しても、職員が全食
品の産地表示を監視することには限界がある」ということなのだそうで、ウワ
サもほぼ内部から出ているのでしょうから、こうした悪事が露見するのはかな
りの確率で内部告発と言えそうです。海外でも、最近の超大物企業不祥事であ
るエンロン事件も、ワトキンス副社長による内部告発がきっかけで露見したと
報道されているようです。
 このような事件は、企業の危機管理の問題として非常に考えさせられるもの
があります。もちろん、悪事や不祥事が隠しとおせないことを問題視している
わけではありません。悪事や不祥事が起きること自体が最大の問題ですが、こ
れを別にしても労務管理上の問題は二つあり、ひとつは機密情報の流出が起き
ていること、もうひとつは問題が「内部告発」という形で表面化したことです。
 そもそも、刑事訴訟法第239条2項は「官吏又は公吏は、その職務を行う
ことにより、犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と定
めていますので、犯罪の内部告発はむしろ「義務」にあたる(罰則規定はない
ようですが)ことになるのだろうと思います。今回の外務省の事件でも、仮に
鈴木議員の関与が犯罪にあたるものである(のかどうかよくわかりませんが)
とすれば、それを内部告発することは当然ということになります。しかし、そ
れが機密文書の漏洩を当然に正当化するかと言えば、それは疑問です(告発の
あとの捜査であれば機密文書も証拠として押収できます)。また、今回の場合、
疑惑が事実であるとすれば、仮に犯罪にあたらなくとも内部告発するのはむし
ろ自然で健全であると考えられると思いますが、この場合はなおさら機密文書
を流出させてよいものかどうかは疑問があります。
 外務省としてもこの事態を重視して、22日には同省幹部が「極めて深刻な
問題」「公務員の倫理上の問題もある」とした上で「文書流出の経過を調査の
上、場合によっては責任者を処分するとともに、文書管理の在り方を見直す」
との考えを示したそうです。文書の内容はともかくとして、機密書類が流出し
たことに対しては当然の反応と言えるでしょう。さらに、これに関連して自民
党の古賀誠氏も、「官僚の守秘義務はどうなっているのか。どこまでが守秘義
務の範囲なのか、きちんとしないととんでもないことになってしまう」と述べ
て、守秘義務厳守の必要性を強調したそうですが、これも一応の正論と言える
ものと思います。3月11日に民主党議員が提示した内部文書がいつの時点で
流出したのかはわかりませんが、これが22日以降であったとすると、機密保
持の面でも外務省の規律は地に落ちていると言わざるを得ません。特に、国益
に大きな影響のある中央官庁、しかも国際的に情報戦争、諜報戦が繰り広げら
れている外交の舞台をあずかる外務省で、機密情報の管理がこれほどずさんで
あるというのは大問題というべきです。
 ちなみに社民党は「公務員、民間人にかかわらず公益のために内部告発を行
った人に不利益な扱いはしてはならない」「不利益な扱いに対しては損害賠償
請求ができる」という趣旨の「内部告発者保護法」を制定すべきとの見解を発
表したそうです。一見一理ありそうですが、内部告発のために機密文書を外部
に漏洩した場合を想定して、これを不利益に取り扱ってはいけないという趣旨
だとすれば、いかにも行き過ぎた保護であると言わざるを得ません。「公益の
ために」と称して秘密を暴露されてしまったら、後から「公益のためでもなん
でもなかった」ということが判明したとしても取り返しがつかないからです。
 さて、もうひとつの問題点は、事件が内部告発によって発覚した、という点
にあります。たしかに、不祥事が組織ぐるみ、会社ぐるみで行なわれていたと
すれば、いかに管理がしっかりしていたとしても簡単には発覚しないでしょう
し、仮にこれに問題意識を持った人がいても、上司に訴えて解決する問題では
なくなっている可能性が高いでしょう。とはいえ、そのようなケースでも、た
とえば人事部署であるとか、労働組合であるとか、なんらかの苦情、あるいは
相談の受け皿、窓口を準備しておくのが労務管理の基本です。不祥事は起こさ
ないことが最も重要ですが、万一起きてしまったときの対応も同様に重要です。
具体的には、企業が自ら不祥事の発生を公開し、謝罪し、必要に応じて回収や
交換などの対策を講じ、再発防止策を発表することで、企業としてのダメージ
を最小限にとどめることができるわけです。こうした的確な対応を可能とする
ためには、なにより不祥事の発生を即時に内部的に把握できることが必要です。
もみ消すためではなく、いち早く公開する(不祥事が拡大せず、小規模なうち
であれば、公開もより容易でしょう)ために、苦情処理、相談受付窓口が必要
になってくるのです。
 ところが、こうした受け皿、窓口が準備されていたにもかかわらず、外部の
マスコミや政党などに告発が向かってしまうというのは、労務管理の機能不全
が起こっているということに他なりません。端的に言えば、人事部署や労働組
合に対する信頼感、ひいては企業そのものに対する信頼感が失われているとい
うことです。
 さらに言えば、企業に対する信頼感は、不祥事や内部告発に限らず、機密管
理全般について重要であると云えるでしょう。企業を信頼し、働きがいをもっ
て働き、正当に報われているという実感のある従業員が意図的に機密漏洩する
ということはまず考えられません。会社生活に満足して退職した人や、互いに
納得の上で円満に退職した人も、悪意をもって機密漏洩することはおそらくな
いでしょう。機密を売り渡したり、悪意をもって暴いたりといったことは、必
ずどこかに不平不満を持っている人が行なうものです。処遇や待遇に対する不
満や、雇用に対する不安、あるいは退職時の経緯に納得していない、こうした
事情による会社への不信感が機密漏洩を招くといって差し支えないのではない
でしょうか。
 もちろん、不平不満を完全になくすということは不可能です。しかし、従業
員との信頼関係を大切にする労務管理を行なうことは、生産性の面だけではな
く、機密保持といった点においても大いに有効ではないかと考えるものです。

                (次回は3月14日に配信する予定です)
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