|
=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成14年01月31日発行 通巻134号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 従業員のネット参加と労務管理 >>> =================================== 時事通信ニュースによれば、先週(22日)、内閣情報調査室の参事官が、 勤務時間中に役所のパソコンでネット上の掲示板に株情報を書き込んでいたと いうことで、内閣官房付事務官に降格、減給2ヵ月10分の1の処分を受けた そうです。上司二人もそれぞれ厳重注意と訓告処分を受けているようです。 今や情報収集やコミュニケーションのツールとしてインターネットは仕事上 なくてはならないものになりましたが、その私的利用については、服務規律の 問題だけではなく、企業防衛の面からもかねてから議論があるところであり、 決して新しい問題ではありません。米国では、アダルトサイトへのアクセスを 理由に解雇されたなどの事例が有名になっていますが、わが国ではそこまで厳 格な管理はなされていないものと思われます。多くの企業においては、例えば 私用電話などとの類推で、電子メールと同様に、基本的にはインターネット端 末の私的利用を禁止しつつも、社会通念上許容できる範囲内については黙認す るという対応を取っているのが実態でしょう。一歩進んで、アダルト関係など の特定ワードを含むサイトへのアクセスを禁止するシステムを導入している企 業も増えているようです。また、企業によるアクセスログの監視についても、 電子メールの検閲と同様、かなり広く容認されていると言えるでしょう。 そうした中で発生したのが今回のケースということになります。ある意味で 典型的な事例とも言えると思いますので、これを材料に、労務管理面から改め て考えてみたいと思います。 報道などから今回のケースを整理してみると、事実関係としては、当事者は 45歳の内閣府参事官であり、ヤフーをはじめとして、ネット上の複数の掲示 板に株取引情報を書き込んでいました。書き込むだけではなく、現実に株取引 を行っていたことも事実ということで、書き込みの内容もかなり生臭いものの ようです。書き込みの多くは自宅など職場外から行われていたようですが、職 場からの勤務時間中の書き込みも少数ながらあり、またその内容を見ると、職 場からのアクセスはひんぱんに行われていたようです。この事実に対して、公 務員の職務専念義務違反ということで、今回の処分になったわけです。 その一方で、当事者は課長クラスであり、公務員倫理法で定める株取引報告 義務の対象にはなっておらず、また、業務は一般的な経済分析であって、イン サイダー情報に接しうる立場ではなかったということで、こちらに関しては問 題はないということのようです。 よく知られていることですが、ネット上の掲示板などに書き込んだりした場 合はもちろん、単にあるサイトにアクセスしただけでも、リモートホストの情 報などを得ることができることから、どこからの書き込みか、どこからの閲覧 かを特定することは困難ではありません。今回のケースも、掲示板上に官邸の リモートホストが残っていたことが、発覚のきっかけになりました。そして、 高級官僚によって、一部は官邸から株取引(しかも、「空売り」のような国民 に印象の悪い内容を含む)の書き込みが行われたことが、公務員の信頼を失墜 せしめたわけです。 民間企業でも、同様のケースは考えられます。たとえば製薬会社の社員がド ラッグの掲示板に書き込んだり、自動車会社の社員が暴走族のサイトで発言し たり、電力会社の社員が原発反対のサイトに参加したりすることは、企業にと って顧客の信頼を失墜するなどの損害につながりかねません。 もちろん、社員がネット上でどのような発言をするかは基本的には自由であ り、とりわけ、会社の外での発言を制約することはできません。しかしながら、 社員としての自覚を欠く行為が会社に損害を与えたのであれば、それは十分に 懲戒処分などの対象となるでしょう。重きに失してはいけませんが、このよう な行為が発覚した場合に、しかるべき処分が行えるよう、就業規則類を整備す るとともに、現実にも厳正な対応を取ることが必要です。それ以上に重要なの は、社員に「ネット上での発言は必ずしも完全に匿名ではなく、特に職場から の発言は、企業名を特定できる」という事実をしっかりと周知徹底し、迂闊な 行動を予防することでしょう。 そういう意味では、今回「職務専念義務違反」という、いわば別件逮捕的な 処分が行われたことについても、疑問がないとは云えません。今回のケースで 問題なのは、服務中に掲示板を閲覧し、書き込んだことではないでしょう。こ れが処分の対象になるなら、たとえば服務中に友人からの私用のメールを閲覧 して、呑み会の誘いに返信する、といったことでも降格処分の対象になってし まいます。「疑わしい行為によって公務員の信頼を失墜せしめた」という本来 の理由に対して処分するのが公正な態度ではないでしょうか。 さて、フェール・セーフという観点からは、前述のような職場の端末からの アクセス制限や、あるいは、技術的に可能なのかどうかわかりませんが(たぶ ん可能なのだろうと思いますが)、職場の端末からの掲示板への書き込みをで きなくしてしまう、という対応も十分に考えられるところです。しかし、現実 にこのようなアクセス制限が行われている企業で働く人の意見を聞いてみると、 情報を取りたいサイトにアクセスできないということが頻繁に起こり、その都 度アドレスを特定して禁止を解除するのが極めて煩雑だという話を聞きます。 生産性のことを考えれば、機械的なアクセス制限には限界がありそうです。 しかも、アクセス制限をしたところで、悪意のある人はそれを逃れるような 方法を考えるということは、最近のウィルスの悪質さを思い起こせば容易に想 像できることです。話は脱線しますが、今回のケースも、いわゆる「掲示板荒 らし」が共産党に密告したのが発端になって、赤旗が悪意ある記事にし、朝日 が追随したという形で話が大きくなっています(この経緯については、この掲 示板の管理人の方がご自身のサイト上で公開されていますが、この「荒らし」 の行為は、快適にネットを利用したいというわれわれの期待から見るときわめ て悪質です。しかし、悪質かつ不愉快な荒らしによる密告が発覚の発端である ことが、違反行為を免責するものでないこともまた事実です)。結局のところ、 従業員の一人ひとりが、このような悪意の第三者の存在を前提として、ネット へのアクセスや発言にあたっては十分に慎重な行動を取るように啓発、徹底す ることが必要になりそうです。 こうした観点から今回のケースを考えると、やはりはなはだ軽率な行為だっ たと言わざるを得ないと思います。ネット上で発言したことが問題なのではな く、その内容がいかにもまずかったということです。今回のケースとの比較で 思い出されるのは、やはりまだ最近の話ですが、偶然にも同じ内閣府参事官の 枝廣直幹氏が、作家の村上龍氏の主宰するメールマガジンに、自民党に対して 批判的な内容の投稿をしたということで問題になった事件です。これは大物政 治家のかなりの不興を買い、赤旗や朝日だけではなく各紙がそれなりの扱いで 報道しましたが、枝廣氏が特段処分されたという話は聞きません。これは結局 「株取引」と「政策決定プロセス」という内容の違いによるものでしょう。 もちろん、高級官僚だから株取引をしてはいけないというわけではなく、ま た、今回のケースでは、倫理法の報告義務違反があったわけでもなく、インサ イダー取引の疑いもないという総務官室の見解も出ています。しかしながら、 さまざまな官僚の不祥事が起こっている中で、一般国民が高級官僚の株取引を どう見るか、残念ながら現状では明らかではないでしょうか。自身のインサイ ダー取引や、インサイダー情報の提供の有無ではなく、その疑いを持たれるだ けですでに十分に問題となることは、そんなに想像に難くはないと思われます。 45歳のキャリア官僚、しかも指定職としては、いかにも軽率な行動だったと 思われてなりません。いずれにしても、ネットは衆人環視の場であり、また、 過去ログなどの形で証拠が残ることも多いわけですから、発覚したときに何が 起こるのかは事前に十分考えておくべきだといえるでしょう。たしかに、この ようなわずらわしさを離れ、身の上を隠して、自由に自分の嗜好をめぐって意 見交換ができれば楽しいだろうことは間違いありませんし、そういった社会的 な寛大さがあってもいいと思います。しかし、現実のネット世界はそうではな いことも悲しい事実なのです。 今回のケースは、赤旗主導のせいか、あるいは他にも大きな論点があったせ いか、あまり大きな問題にはなりませんでした。おそらく、参事官氏もしかる べき「謹慎」を経て名誉回復?がはかられるでしょう。しかし、改めて従業員 のネット参加をめぐる労務管理について考えさせられる事例であったことも事 実だと思います。 (次回は2月4日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/ の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |