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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成14年01月24日発行 通巻132号
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 日経連の「労働問題研究委員会報告」が発表されて、さっそく連合などが批
判のコメントを発表しています。
 連合の批判は、「需要過小と言いながら解決策を示していない」「雇用重視
というわりには雇用問題が後を絶たないではないか」「『雇用を維持・確保す
るために、これまでにない思い切った施策』として『ワークシェアリング』を
言うなら、その前にこれ以上失業者を出さないという経営責任を果たす『当た
り前の施策』を徹底すべき」など、揚げ足とり・言いがかりの域を出ないもの
が多いという印象です。また、「労働側の協力・努力に対する成果配分や社会
的水準到達のための格差是正などについて、きちんと交渉するという当たり前
の姿勢こそ尊重されなければならない」など、日経連がマクロ的に述べた見解
を個別労使の問題にあてはめて批判してみたり、中長期的なワークシェアリン
グについて報告書が「オランダモデル」とは言っていないにもかかわらず「い
わゆるオランダモデルとはまったく別のものと言わざるを得ない」といった的
外れの批判もあり、全体に見るべき指摘はありません。まあ、交渉ごとなので
すから、なにより即座にカウンターを繰り出すことが大切だ、という駆け引き、
呼吸の部分もあるのでしょう。それにしても、「日経連は、個別企業の生き残
りのためのなりふり構わぬ行動に歯止めをかけ、マクロの立場から合理的な行
動をとるよう指導すべきである。」という主張には思わず首を傾げてしまいま
した。これは、カルテルをやれ、ということなのでしょうか。それにしても、
世の中の議論では、「マクロの立場から合理的な行動」といったときに、それ
は「一時的に失業が急増しても、淘汰されるべき企業は整理せよ」という意味
だ、という「構造改革論者」もまた多い、というか、むしろ主流かも知れない
わけですが。
 さて、ついでに全労連の批判コメントも見てみたのですが、基本的にはいつ
もどおりの「財界・大企業はけしからんから労働者保護の規制を強化せよ」と
いう範囲の繰り返しにとどまっています。そして、相も変わらず、「全労連が
昨年12月に発表した『検証・大企業の連結内部留保』では、日本を代表する
主要20社だけを見てもリストラ『合理化』を進めながらこの1年間で内部留
保を2兆6千億円以上も上積みし、内部留保総額は実に国の財政の半分にあた
る36兆円以上も溜め込んできている」として、「中小・零細企業や労働者・
国民の犠牲の上に大企業の高蓄積が行なわれている実態が一目瞭然」、すなわ
ち、これを原資として、賃上げのみならず、発注単価の引き上げや、企業増税
による大衆減税が可能であるとの見解を示しています。
 この論調は、全労連が設立以来主張しているもので、それ以前の統一労組懇
も主張していました。このところの論調を単純化すれば、要するに、大企業の
内部留保は主にバブル期の「ためこみ利益」であり「隠し利益」である、これ
をほんの数%取り崩すだけで、全労連の主張する大幅賃上げが可能である、と
いうことでしょう。その原資を確認しようという「検証・大企業の連結内部留
保」も、毎年作成され続けていますが、これまでの単独決算による集計(した
がって、名称も「検証・大企業の内部留保」だった)を、今年から連結重視の
グローバル・スタンダードにあわせて?連結での集計に変更したということで
す。ちなみにこれは内部では「ビクトリーマップ」と通称されているようで、
こちらも今年から「新ビクトリー・マップ」に改まったとのこと。内容的には
企業の財務諸表をまとめただけのものですが、同様のものを各都道府県の地方
組織も作成しているということですから力が入っています。しかもこの論調、
さすがに最近は言わなくなったものの、かつては連合も一定の同調を示してい
たのです。
 しかし、本当に内部留保の取り崩しで大幅賃上げが可能なのでしょうか。
 この「内部留保」というのは、バランスシート上の別途積立金を中心に、そ
の他の準備金等も加えて数字を大きくしたもののようです。別途積立金は、株
主総会の了承を得て、将来の企業経営のために積み立てるもので、先行きの投
資などの原資となるものです。そういう意味では、本来従業員に配分すべきも
のではないわけですが、逆に言えば資本家と労働者との間の配分の問題である
とも言えることになるのでしょう。一方で労働分配率は年々上昇しているとい
う事実はあるわけですが(計算によっては違う結果も出せますが)。
 そう考えれば、たしかにバランスシートの数字上では可能なように見えるわ
けですが、現実には無理が大きい、むしろ暴論に近い内容だと思われます。
 なにより、内部留保はバランスシート上にはたしかに数字で出てきますが、
現実にはそのほとんどが土地・建物・設備や中間在庫などの形で保有されてい
るということがあります。これらは容易に換金できません。最近ではキャッシ
ュフロー重視の経営ということがよく言われるわけですが、それにしても別途
積立金に比較できるほどのキャッシュを持っている企業はごくごく例外的な存
在でしょう。内部留保の数%は、キャッシュフロー残高の数十%に相当すると
考えておく必要があり、それを失うことは企業経営に甚大な影響を与えるでし
ょう。
 そして、それを超えて内部留保を取り崩すということは、生産設備などが縮
小するということであり、すなわち事業を縮小するということに他なりません。
それは雇用の減少にもつながることになります。「数%の取り崩しで」と言い
ますが、内部留保を減らしていけば、それはすぐに10%を必要とするように
なります。たしかに、一度であれば大幅賃上げは可能かも知れません。いった
い全労連は、一度、あるいは数回「大幅賃上げ」をかちとれば、賃上げ要求を
やめるとでも言うのでしょうか。
 さらに、内部留保はただ遊んでいるばかりとは限りません。時には準備金を
取り崩さなければならない場面も出てくるのであり、それに備えて経営を安定
されるのが準備金の役割です。極端な話、今の銀行が積み上げている貸し倒れ
引当金を原資にして賃上げせよとはいくらなんでも主張できないのと同じこと
です。むしろ、平成7年版労働白書も指摘したとおり、企業の財務体質の改善
が雇用の安定に寄与した効果の方を評価すべきではないかと思います。
 企業業績もおしなべて苦しい中で、普通に考えればありえない話ですが、ネ
ット上などを見るとけっこう見かけることも事実です。「国家予算の半分にも
相当」などという感情論ではなく、実態をふまえた議論を望みたいものです。

                (次回は1月28日に配信する予定です)
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