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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成14年03月07日発行 通巻144号
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 2月28日、偶然にも労働時間をめぐる事件の判決がふたつ出ました。
 ひとつめは、東急電鉄の駅員2人が、始業前と終業後に行っている点呼など
が労働時間に当たるとして割増賃金の支払を求めた事件で、東京地裁は原告の
主張を一部認め、未払い賃金の支払を命じる判決を言い渡したそうです。会社
は「点呼は労使の信義則に基づき駅員の協力で実施している」と主張したもの
の、判決は「点呼は体調や勤務の心構えを上司が確認するもの」であり、「使
用者により強制されていたと認められる」として、始業前の1分間、終業後の
20秒間について労働時間と認定しました。いっぽう、やはり原告が「業務上
の連絡などが行なわれている」などとして労働時間として認定するよう求めて
いた朝の点呼の前の4分間については、「全員が集合して実施されるよう求め
られているとは認められない」として労働時間にはあたらないとの判断となっ
たようです。なお、原告は慰謝料100万円の支払も求めていましたが、判決
は「社会通念上許容できないほど違法性はない」と退けています。
 このような、始業前に行なわれる更衣や点呼、あるいはラジオ体操などにつ
いては、就業規則上労働時間とはしていない企業が多いわけですが、労務担当
者にとってはけっこう気持ちの悪い問題です。裁判例を見ると、「業務上必要
不可欠な更衣については労働時間とする」とした例があるほか、「事実上使用
者の指揮命令下にあるか」「事実上参加が義務付けられているか」などといっ
た観点から個別に判断しているようです。労働時間にしてしまえば労務担当者
としてはすっきりするわけですが、現実に付加価値を生んでいる時間とはいえ
ないことも事実なので、そうそう何でも能天気に労働時間とするわけにはいき
ません。
 まあ、今回の場合は、要するに始業前には整列してあいさつしてから勤務に
つき、終業時もいったん集合してから解散するということでしょうから、ぜひ
そうしなさいという会社の指導があったのであれば、労働時間であるとする判
断も合理的かも知れません。
 とはいえ、東急電鉄の「あいさつの域を出ないものであり、あまりにもわず
かな時間で管理しがたい」との主張も現実としては大いにうなずけるものがあ
ります。「対応は判決文を見て検討」とのコメントが出ているようですが、現
実的な解釈としては、「あまりにもわずかな時間」でもあり、就業規則上点呼
を始業直後に行なう、と変更することになるのでしょうか。
 もうひとつの事件は最高裁判決で、宿直勤務の仮眠時間が労働時間と認めら
れるかが争われていた大星ビル管理事件で、仮眠時間も労働時間との判決が出
ました。判決は、「仮眠時間が労働時間に該当するかは、使用者の指揮命令下
に置かれているかで客観的に決まる」とした上で、仮眠中であっても警報や電
話などに直ちに対応しなければならず、会社の指揮命令下にあり、労働からの
解放が保障されていない」と判示しています。
 この種の判決としては初の最高裁判決ということで、マスコミなどでも大き
く取り上げられましたが、この事件に関してはすでに地裁、高裁とも「仮眠時
間は労働時間にあたる」との判断を下していますので、さほどの驚きはありま
せん。そもそも、こうした労働実態については労働基準法は特に監視・断続業
務の定めをおいているわけですから、それに従って労基署の許可を受けるのが
筋というもので、敗訴も致し方ないところでしょう。被告会社の方も、「労働
時間についての解釈の違いはあるが、労働協約、就業規則の正当性について会
社の主張を入れた判断が示された。判決が指摘する労働基準法上の問題につい
ては、よく検討したい」という冷静なコメントを出しており、労働時間性につ
いて敗訴することは織り込み済という感じがします。
 もちろん、仮眠というのは多くの部分は現に睡眠していて就労していないわ
けですから、企業経営としてはその時間帯に通常の勤務時間と同じ賃金を支払
うことはできないことは常識的なわけで、これには他にきちんとしたやりよう
があるわけですから、それに従うのが通常の考え方というものでしょう。
 さて、これらの判決の内容自体はまずまず常識的なものといえると思うので
すが、驚かされるのは命令された支払金額の低さで、特に東急電鉄事件のほう
は、なんと「約3万7000円」です。原告は二人ですから、一人当たり1万
3500円ということになります。
 それというのも、労働時間として認められたのが始業前の1分と終業後の2
0秒の一日80秒というわずかな時間、しかも人数は2人です。期間は96年12
月から98年11月の2年間ということですが、その合計に金利を載せても37,000
円にしかならないというのもうなずけます。まあ、これだったら東急電鉄も支
払って厄介払いするのが得策かも知れません。もっとも、訴えそのものは、1
日計5分20秒を労働時間と主張したうえで未払い賃金は約15万円、それに
慰謝料計100万円も求めていましたので、それなら一応115万円、一人約
60万円にはなります。
 大星ビル管理事件は、最高裁は二審の五十数万円という金額計算を差し戻し
たのでまだ確定していないのですが、一審判決の支払命令が300万円弱です
から、金利も乗ってまあこれに近い数字にはなるでしょう。原告団は10人な
ので、ひとり30万円弱という計算になります。
 東急事件は比較的早く判決が出たほうだろうと思いますが、それでも3年か
かっています。3年間争った結果が1万3500円です。大星ビルの方は、昭和63
年に訴訟が始まっており、差し戻しですからまだ決着していません。今年中に
決着したとしても、約15年にわたって、30万円弱を争ったということになりま
す。
 ここに労働裁判のいくつかの問題点が見られるように思います。まず第一に、
とにかく時間がかかりすぎるということです。一応、正義のためという建前は
立派なものであるとしても、数万円から数十万円のことを数年から十数年も争
うということはあまりに労力のかけすぎです。企業のサイドは、担当者も次々
と交替しますし、賃金を受けている仕事なのですから、一人ひとりの負担はさ
ほどのものではありません。しかし、原告は交替するというわけにはいかない
のですから、長期間にわたる訴訟の負担たるや相当なものがあるでしょう。も
っと短期に、簡便に解決がはかられるための対策を考える必要があるでしょう。
 第二は、第三者の介入が多いということです。これほどまでに時間がかかる
というのは、和解などによる解決がはかられにくいというところにも大きな原
因があります。今回の2事件がどうかは別問題として、一般論として労働裁判
は、そもそも本人はそこまでの気がなかったにもかかわらず、相談に行った先
の労組や団体、法律事務所などに勧められて訴訟に踏み切るケースが間々見ら
れます。そして、いったん訴訟となると、どこからともなく「支援者」が集ま
ってきて抜き差しならなくなってしまうことが多いようです。こうした「支援
者」は政治的な意図をもっていることも多く、当事者の利益よりは、勝訴を通
じて政治的意図や自らの利益をはかりたいとの考えがあるため、当事者が和解
などの方法で早期の解決をはかろうとすることを好まないからです。
 もちろん、第三者の介入は一定の限度において自由ですし、政治的な意図を
持つことも善悪の問題ではありません。しかし、結果として当事者にとってあ
まりに不幸な結果を招いているように思います。勝訴ならまだしも、その保証
があるわけではありません。そして、仮に勝訴して、支援者に祝福されてその
時は達成感を満喫したとしても、失われた長い月日は決して戻ってはこないの
です。

                (次回は3月11日に配信する予定です)
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