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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成14年07月04日発行 通巻179号
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        <<< 年次有給休暇を取得させるには >>>

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 今回は、再度経産省の「休暇制度のあり方と経済社会への影響に関する調査
研究委員会」の「休暇改革は『コロンブスの卵』」というレポートを材料にし
て、年次有給休暇について考えてみたいと思います。前回はこのレポートの経
済効果・雇用創出効果の試算が過大であるという内容でしたが、今回はいかに
して年次有給休暇の取得を促進するか、についてです。
 報告書は「年次有給休暇がとれない背景には、制度の不備と企業や個々人の
慣習・意識・休暇の受け皿と言った環境要因が相互に影響しあうという『悪循
環』が生じている」と主張します。具体的には、「交代要員の欠如等から休暇
もとれない多忙な環境であったり、休暇をとることに対する遠慮や躊躇が生じ
る」ことや「労働者の意識として、年次有給休暇を取らないことが『勤勉』」
や『会社への貢献』として評価される考え方や、職場の同僚との横並び意識な
どが強かった」ことに加えて、学校の休みの問題や余暇インフラ・サービス供
給の問題などがあり、これらが「悪循環」を形成してきた、といいます。その
うえで報告書は、制度面での整備と、環境面・意識面での整備が必要だとして
います。
 企業の人事労務管理に関する部分だけをとりあげると、具体的には、制度面
の整備としては「年次有給休暇取得に使用者が積極的に関与する仕組み」が必
要であるとして、「使用者が労働者の希望を聴いて事前に個人毎の『年休プラ
ン(最低1労働週以上の連続した休暇をふくむ)』を策定する制度」をつくる、
「年次有給休暇取得状況の労働基準監督署への届出」を制度化する、企業独自
の「私傷病休暇制度」を設ける、などがあげられています。意識面の整備とし
ては、企業に「休暇の完全取得や代替要員の確保を組み込んだ事業計画の立案
や、年間休暇計画の策定、および年次有給休暇時期の調整、代替要員の確保な
どに対応する組織体制づくりなど、本格的な『休暇管理』を進める」ことを求
める一方、働く人にも「年次有給休暇を病気などの目的で使わず本来の目的に
使用する、横並びの意識や休み方をやめる、『計画的に働き・計画的に休む』、
家族や地域の生活を重視するといった価値観の醸成を進める」ことを求めてい
ます。あわせて、学校の長期休暇を分散化して休暇の分散化を進めるとの提案
もされています。
 しかし、これで本当に年次有給休暇の取得が進むのでしょうか。
 報告書によれば、今回実際したアンケート調査では、年次有給休暇がとれな
い理由として「休みの間仕事を引き継いでくれる人がいないため」が42%、
「仕事の量が多すぎて、休んでいる余裕がないため」が38%と高率を占めてい
るとのことです。その他多かった回答としては、「病気や不意の事態に備えて、
残しておきたいため」22%、「勤務先に有給休暇制度がなかったり日数が少な
いため」20%、「勤務評価等への心配から休暇を取りにくいため」18%と続い
ています。残りの理由は複数回答にもかかわらず一桁台なので、この5つが年
次有給休暇が取得されない大きな理由であるということになりそうです。
 たしかに、10人、20人といった小規模の事業所では、忙しいとか、休みの間
交替できる人がいない、というのは切実な問題かも知れません。あるいは、生
産ラインのような仕事では、仕事は待ってくれないので忙しい時期には休めな
いということは起きるでしょう。とはいえ、従業員が500人、1,000人といった
規模の企業で、本当に「忙しい」「代わりがいない」ということがあるのでし
ょうか。年次有給休暇の取得が少ないと言っても、それは20日とか30日とかい
う日数ではなく、せいぜい数日の話です。一年中、仕事を上司に任せて数日の
休みを取ることもできないほど忙しい、ということが本当にあるのでしょうか。
ましてや、ホワイトカラーの職場であれば、かなりの程度自分の裁量で業務の
調整がきくはずです。よく言われる話ですが、風邪をひいたり怪我をしたりす
れば、数日の休みを取ることがあるはずです。病気で休めるなら年次有給休暇
で休めないはずがありません。年次有給休暇の取得率が低くても、新婚旅行で
は1週間、2週間休むという職場も多いようです。
 あるいは、「忙しい」「人(代替要員)がいない」と言いますが、そもそも
経済が低迷し、需要が足りない時期に「忙しい」というのも変な話です。実際、
企業としてみれば、大企業を中心に依然として人員の余剰感が大きいというの
も事実です。たしかに、ここ数年は取得率も取得日数も低下傾向で、リストラ
の進展で人員が減っていることをうかがわせますが、それでも、取得率も取得
日数もバブルの人手不足期を上回っています。むしろ、現業部門を中心に稼働
率の低下を年次有給休暇の取得に振り向けて雇用を維持している企業も多いは
ずです。
 こう考えると、代替要員とか休暇管理とかいった企業サイドの問題より、働
く人の根本的な意識の問題が大きいように思います。もちろん、本当に忙しく
て休めない、という部分もあるにしても、「休めない」ではなく「休まない」
「休みたくない」という部分がかなり大きいのではないでしょうか。休めない
理由として最多を占めた「仕事を引き継いでくれる人がいない」は、本当は
「引き継ぐのがいやだ」「休んでいる間に他人にとってかわられるのではない
か」「引き継いだ人は頑張ったということで高く評価され、自分は休んだとい
うことで低く評価されるのではないか」ということではないでしょうか。「仕
事の量が多すぎて」というのは、その背後に「仕事が多いのがうれしい」「ヒ
マだと思われたくない」、したがって休みたくない、という気持ちがないでし
ょうか。「能力主義、成果主義だから、休暇の取得は評価とは関係ない」とい
うのが今ではほとんどの企業の建前でしょうが、働く人としてはそれを心から
信じることはなかなかできないでしょうし、成果主義が強調されることは、一
面では休暇を取らずに働いてより多く成果を上げたいというインセンティブと
しても働くでしょう。こうした意識の問題を放置したままでは、いくら代替要
員を確保して、カレンダーにマルをつけてみたところで年次有給休暇の取得は
進まないのではないでしょうか。
 それではどうすればいいか。簡単な話で、休みたくないから休まないのであ
れば、強制的に休ませればよいのではないでしょうか。わが国では、年次有給
いわゆる「国民の祝日」が15日(5月4日をふくむ)あり、米国の10日、英国
の8日と較べてかなり多くなっていますが、これもなるべく休ませようという
意図のもとに増やされてきたものでしょう。
 ドイツやフランスでは、年次有給休暇は労働者の権利ではなく、使用者の義
務とされているそうです。そのかわり、時季指定権は使用者にあり、実態とし
ては労働者の希望なども聞きながら時季を決めているようです。「いつ休むか
わからない1週間の休み」と「あらかじめ時季が指定できる2週間の休み」の
どちらが企業経営に負担になるか?考えてみる値打ちはあるのではないでしょ
うか。年末年始、ゴールデンウイーク、夏季の年3回、一斉に設備を止めて一
斉に休むのではなく、使用者が計画的に休暇を平準化し、年中無休で設備を稼
動させた方が合理的だというケースも多いのではないでしょうか。
 年次有給休暇のうち、一部は労働者の自由時季指定として残し、残りの大部
分は使用者が年度はじめに個人別休日として指定してしまうものとして、その
取得を使用者の義務とする、というアイデアはどうでしょうか。もちろん、指
定にあたっては労働者の希望を聴取することとし、学校の長期休暇(分散化さ
れた)に配慮するようにするわけです。その一方で、管理職や基幹的なホワイ
トカラーについては、裁量労働と年俸制の世界の中で、年次有給休暇という概
念もなくしてしまうということもこれとセットで考えるべきでしょうし、病気
休暇制度や、病気のための年次有給休暇自由指定部分の積み立て制度などもあ
わせて考慮する必要があるでしょう。
 もちろん、労働者の権利を使用者の義務とする以上は、それにともなうコス
トアップ分は賃金を引き下げることも基本的に容認されなければなりません。
とりわけ、本当に「忙しい」「代わりがいない」小規模事業所などでは、その
必要性は高いものと思われますので、公費助成によって段階的に引き下げてい
くなどの措置も考えられるでしょう。逆に、吸収力の大きい大企業には賃金の
引き下げを認める必要性は低いかも知れません。
 こうしてしまえば、誰もが決まっただけ休むわけなので、休んだことによっ
て評価が不利になるとか、周囲よりヒマであると思われるとかいったことを心
配する必要はなくなると考えられます。企業は休ませることが義務ですから、
働く人としても自分が休んだときに誰かが仕事を引き継げるようにしておくこ
とが企業に対する貢献であるということになるでしょう。それでも、忙しがり
たい人は休むのをいやがるかも知れませんが、抵抗感はだいぶ小さくなるでし
ょう。
 おそらくは、経産省の報告書が言うような、企業に新たな負担や配慮を求め
るような方法だけでは、いくら旗を振ってもはかばかしい成果は上がらないも
のと思われます。働く人が「年次有給休暇を取りたくない」と考える理由には
かなり根深いものがあり、容易に変えられないものであるとすれば、むしろ発
想の転換で、まずは無理にも取得させて、「形から入る」という方法の方が有
効ではないかと思います。報告書も、非常に遠まわしながら、できるものなら
そうしたい、というニュアンスを示しているようにも感じます。これは、企業
のコスト面に配慮すれば、決して無理な話ではないと思いますので、ぜひとも
踏み込んでみてほしいものだと思います。

                 (次回は7月8日に配信する予定です)
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