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         *** 労務屋の労働雑感 ***

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       平成14年01月10日発行 通巻129号
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       <<< 「雇用春闘」「賃下げ春闘」はじまる >>>

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 きのう(9日)、連合は春闘の拡大戦術委員会を開き、今次春闘の基本方針
を確認したそうです。ベア要求目標の設定は見送り、「雇用春闘」との位置づ
けのもと、各組織が「雇用維持」を協定化することを目指すこととしているそ
うです。一方の日経連は、明日(11日)に臨時総会を開催し、春闘の方針を
まとめた「労働問題研究委員会報告」を発表する予定ですが、報道によれば、
「ベースアップは論外であり、定昇の凍結や見直しまで踏み込むべき」との見
解を示しているとのことです。たった今入ってきたニュースでは、日経連の奥
田会長はきょう(10日)の記者会見で、「今年の春闘は『賃下げ春闘』だ」
と発言したということですから、やはり定昇を割り込む事態を想定しているの
でしょう。連合の方は、ベア目標は見送りとはしたものの、定昇は従来どおり
取り切りということで「現行の賃金カーブを維持する」としていますから、こ
こでは労使の対立は鮮明です。ということは、今年の春闘は、賃上げに関して
は労組が定昇を死守できるか、すなわち「賃下げ」を回避できるかということ
が第一の焦点となり、「賃下げ」を呑まざるを得ない場合においては、何らか
の形で経営から「雇用保障」の言質を得ることができるかどうかが第二の焦点
になりそうです。ちなみに、これに関しては日経連の奥田会長も、やはり今日
の記者会見で「個別労使の事情によるだろうが、方向性としては歓迎する」と
発言したそうですから、とりあえず交渉のテーブルには着くという姿勢を示し
ていると云えそうです。
 こうした中で、主要産別も春闘の方針を次々と打ち出していますが、こちら
は個別産業の事情を反映して、さらに厳しい内容となっています。
 まず、相場形成に大きな影響力を持つ金属産業ですが、金属労協は要求基準
1000円の方針を打ち出したものの、大手4単産のうち、電機と鉄鋼はベア
ゼロ、自動車と造船重機がそれぞれベア1000円と分かれました。
 電機はベア要求を見送ったほか、雇用維持協定についても特段目立った要求
はないようです。電機の場合、すでに雇用の維持を前提としたワークシェアリ
ングの検討が先行しており、制度化が視野に入っている企業もありますので、
ここで改めて雇用維持協定を議論するまでもなく、ワークシェアリングについ
て合意することができれば、それが事実上の雇用維持協定になるということに
なるのでしょう。
 鉄鋼は今年は隔年春闘の当たり年になるわけですが、ベア要求を断念して、
これ以上は希望退職などの雇用削減を行わないという「雇用安定協定」の締結
を求める姿勢を早々に打ち出しました。驚かされたのは、今年だけではなく来
年のベアについても要求を断念する方針を示したという点で、これは2年連続
のベアゼロを交渉前から容認するということになるわけですから、労組として
どれほど苦渋の決断であったかは想像するにあまりあります。これは、それだ
け「雇用安定宣言」に力を入れているということの現れなのでしょう。経営サ
イドは、鉄連の千速会長が消極的な姿勢を示すなど、今のところ見通しははっ
きりしませんが、なんらかの前進を期待したいところです。
 自動車は業績格差が拡大していますが、自動車総連は「自動車産業の位置づ
けにふさわしい賃金水準を実現し、デフレを食い止める」ということで、ベア
1000円の要求基準を打ち出しました。現実の問題としては、金属産業の中
でなんとか業績を確保している自動車すらベア要求を見送ったのでは、今次春
闘のリード役が不在になってしまうという、労働サイドの戦術的なニーズもあ
ったのでしょう。とはいえ、部品メーカーの中には単価の引き下げなどで支払
能力が乏しい企業も多く、はたして産別内の足並みがそろうかどうかは微妙な
ところです。また、目立たないところですが、「自動車産業にふさわしい賃金
水準」という理屈を持ち出してきたことは大いに注目されるところです。この
理屈自体は、以前から「自動車は他産業に比べて賃金水準が低い」ということ
で、賃上げが必要な根拠の一つとしては掲げられてきましたが、この時期にこ
れをメインの根拠とすることは、かなり違った意味を持ってくる可能性がある
からです。つまり、日経連はすでに、わが国では賃金水準が産業・企業の生産
性格差を適正に反映していないと主張しているわけですが、その理屈でいけば、
自動車産業は生産性の高い産業の代表であり、したがって他の産業よりも賃金
水準が高くてもいいということに、確かになるわけです。労組が賃上げの根拠
で日経連の主張に乗ったというのも面白いのですが、これを賃上げの主な根拠
とする以上は、より生産性の低い他の産業は、自動車に追随して賃上げしては
ならない、という理屈になるはずです(これまた経営サイドがかねてから主張
していることです)。すなわち、自動車総連としては、理屈の上では横並びの
賃上げを否定し、春闘の相場形成役(パターン・セッター)としての役割も放
棄する、ということになりかねません。もちろん、現実には今年も金属産業が
まず3月13日にトップを切り、その中でも自動車が最初に回答を引き出すと
いうパターンは崩れないでしょうが、考え方の理屈としては、最初に回答を引
き出しはするが、リーダー役となるわけではない、ということになるはずです。
 造船重機は、造船部門の統合を軸とした業界再編が動いており、昨年の中間
決算は大手6社が軒並み赤字決算となるなど業績も不振ですが、通期では業績
が改善傾向にあることから、「ベア要求を見送る理由はない」とのことでベア
要求に踏み切りました。これまた、金属労協が有額の要求基準を決めた以上、
大手4単産でベア基準を設定するのが自動車だけというわけにはいかない、と
いう組織の事情があるのでしょう。そうなると、業績的には自動車の次は造船
重機ということにはなりますが、しかし、業績は改善しているとは云っても自
動車に比べればかなり厳しく、要求基準は決めたものの交渉は相当困難なもの
となりそうです。
 その他、ゼンキン連合と金属機械が統合してできたjamは、連合同様に統
一要求基準の設定を見送りました。jamの動向で目立つのは、ワークシェア
リングに関連して「時間あたり賃金の切り下げは許さない」という姿勢を鮮明
にしているところです。中小企業では、すでに時間あたり賃金がカットされる
ような形で労働条件の切り下げが行われている企業も多いという実態があるこ
とから、傘下に中小企業を多数抱えるjamとしては、まずはとにかくこうし
た実態の拡大を食い止めたいとの意向があるのでしょう。その他、電力総連や
情報労連といった影響力のある大手が次々と統一要求基準の設定を見送ってい
ますし、ゼンセン同盟も部会の判断に委ねるという方針を示しています。
 さすがに、主力産別がこれだけ軒並みベア要求見送り、あるいは統一要求基
準設定の見送りを決める中では、連合としても強引にベア要求目標を設定して
も意味がないと判断せざるを得なかったのも致し方ないところでしょう。雇用
の維持を最重点に、「雇用春闘」との位置づけを明確化したことは、戦略とし
ても、あるいは指導力という面からも、適切な判断かも知れません。
 このところ、春闘の性格が賃上げ一辺倒から多様なテーマの議論の場へと変
容する流れが進んでいるわけですが、それにしても、相当多くの労組がベアを
要求せず、したがって賃上げの議論も、まったく行われないということはない
にしても、メインテーマではなくなるというところまで来たというのは、やは
り大きな転換期を迎えたということができるのではないでしょうか。2月上旬
には金属労協主要労組の要求が提出され、現実の交渉そのものもスタートする
わけですが、回答日まで、いったいどんな内容の議論でどんな成り行きをたど
っていくのか、例年になく目の離せない春闘になりそうです。

  (1月14日は「成人の日」のため、配信をお休みさせていただきます。
                 次回は1月17日に配信する予定です)
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