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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成15年06月16日発行 通巻219号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< デフレと失業 >>> =================================== 6月5日付の日本経済新聞朝刊「経済教室」に、新美一正日本総研主任研究 員の「失業減へ緩やかインフレ」という興味深い論考が掲載されています。デ フレが雇用にもたらす悪影響をわかりやすく示しています。 内容を簡単にご紹介しておきますと、日本のフィリップス曲線(インフレ率 と失業率のトレードオフ曲線)は、インフレ率が約1%を下回る領域にかなり 明瞭な屈曲点があり、インフレ率がそれ以下の水準では傾きがほぼ水平になる という非線形な形状をしているといいます。したがって、この領域ではわずか のインフレ率の変動が失業率を大きく振幅してしまう危険性があり、政策当局 は失業減のためにはゼロインフレではなく、ある程度ゼロから離れたインフレ 率の実現を目指すべきであるという政策的な示唆が得られるそうです。そして、 失業のもたらす大きな弊害を考えれば中央銀行が物価安定と引き換えに失業を 無視することは正当化されないとして、下限を1〜2%台とするインフレ目標 を設定し、上限より下限を重視することを提言しています。実務感覚からも非 常に納得のいく論考であると思います。 5月30日に発表された平成15年版国民生活白書も、デフレが雇用に与え る悪影響を述べています。内閣府のホームページに掲載されている白書の要約 版では、それが「製品の値段が下がっているために売上高が減少しているし、 コストを下げようと思っても、債務額はそのままだし、働いている人を辞めさ せたり、給与を引き下げたりするのも難しいからだ。売上の減少や収益の悪化 により、人件費の重荷に耐え切れなくなった企業は、やむを得ず働いている人 を解雇したり、給料を下げたりするようになっており、私たち、労働者の雇用 や所得に悪影響を及ぼしている」と書かれています。 これまた、大筋ではそのとおりでしょうが、実務実感としては、デフレで売 上が減ってきて、人件費の負担が重くなると、まずは残業の減少や、賞与の減 額、さらには退職者数を下回る水準に採用を抑制する(自然減)ことなどによ って人件費を減らしていくでしょう。そして、残業がゼロになり、賞与もそれ なりに減らし、新規採用もゼロに近くなって、これらの手段では人件費をさら に減らすのが難しいということになると、希望退職などのさらに進んだ雇用調 整に踏み切るか、あるいは賃金の下方硬直性を打破して、社員の賃金をカット して雇用は維持しようという緊急対応型ワークシェアリングに踏み切るか、と いう判断に迫られることになるのではないでしょうか。 デフレで物価が下がっているのだから、その分は収入(賃金)が減ってもい いではないか、というシンプルな意見も往々にして見られるようですが、実際 問題として、言われるまでもなく残業減、賞与減などで収入は減っています。 さらに、デフレといっても住宅ローンの残高は変わらないわけなので、残業ゼ ロレベルからさらに月例賃金を引き下げるというのは抵抗があるでしょう。 こうして考えると、インフレ率1%(新美氏は消費者物価指数を使っている ので、実勢より高めに出ている可能性が高い)というのが、ちょうど企業が残 業や賞与などの調整に加えて、雇用の減少を拡大するところにあたるのでしょ う。 逆にいえば、多少なりともインフレがあれば、例年の賃上げをインフレ (プラス生産性向上)を下回るレベルにとどめることで、実質賃金の水準調整 が可能であり、その分、雇用を維持することも容易になるわけです(これは、 これまでも日本企業が採用してきた手法でもあります)。新美氏も「マイルド インフレが実質賃金の調整を容易にする効果を通じて、供給サイドにおける構 造調整の進展もむしろ促進されていた可能性が高い」と書いていますが、まっ たく同感です。 以上のことから、「1〜2%台を下限とするインフレ目標の導入(をはじめ、 政府と日銀の一体的協力によるデフレからの脱却)」という新美氏の政策提言 は、たいへん説得力のあるものと私には感じられます。少なくとも「現状でも 日銀は物価上昇率が継続的にプラスとなるまで金融緩和を続けるとしているの で、事実上のインフレ目標政策を導入している」という理屈(によるインフレ 目標の否定)では、インフレ目標の水準が不十分にはなっていない、というこ とはいえると思います(そもそも、達成時期を明示しない「目標」が目標とい えるかは別として)。 国民生活白書も、「金融面では、日本銀行においても、量的緩和などさまざ まな努力を行ってきたところであるが、デフレの現状を踏まえ、さらに実効性 ある対応を実施することが期待される。/国民生活を向上していくために、デ フレの弊害を十分に理解し、国民の支持の下、政府・日銀が一体となってデフ レ克服に取組むことが重要である。」と述べています。私は金融のことはわか りませんので、現実にはさまざまな問題があるのかもしれませんが、デフレの 悪影響がこれだけ明確になっているのですから、できることには取り組んでみ て悪いことはないと思います。 (次回は6月19日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |