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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成15年09月18日発行 通巻237号
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           <<< 阪神優勝の功績者は >>>

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 阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を果たしたということで、阪神ファ
ン各位にはまことにご同慶です。阪神が最後に優勝したのが1985年ですが、そ
の後も1992年には2位になっています。しかし、その後は1993年と1994年が4
位、さらに1995年から2001年までの7年間で最下位6回5位1回という深刻な
低迷を続けていましたから、今年の感激は大きいものがありそうです。
 さて、この復活がきわめて鮮やかだったこともあってか、その理由について
あれこれと取りざたする意見が目立つようです。その中でも最も注目されてい
るのが、昨年から監督に就任している星野仙一氏でしょう。日経新聞などは、
星野氏を「外様の改革者」として、日産自動車の業績をやはり急回復させたカ
ルロス・ゴーン氏に擬して絶賛しています。具体的には、モチベーションを高
めるような選手との接し方の上手さとか、選手を競争させるような雰囲気を作
ったとか、結果が出るまでチャンスを与えた、などといったことが指摘されて
います。世間の管理職諸氏にはなかなか考えさせられるものがあるのではない
かと思いますが、しかし、リーダーが代わっただけでそれほどまでに結果が変
わるものでしょうか。
 プロ野球球団の成績と企業経営や企業の組織とを同一視できるものかどうか、
かなり疑わしい感もありますが、実は私も阪神ファンだったりする(笑)とい
うこともあり、これだけ騒がれている以上は、ここでも取り上げざるを得ない
でしょう。というわけで、今年は阪神優勝の理由を考えてみたいと思います。
 リーダーの大胆な活躍は非常に目立つだけに、ともすれば世間の注目がそこ
だけに集まりすぎるきらいがあります。日産自動車の例でいえば、ゴーン氏の
卓越した経営手腕に隠れて見落とされがちですが、現実に再建にあたって決定
的だったのは、ルノーによる約6,000億円の増資と約3,000億円の社債引き受け
によって、経営を大きく圧迫していた有利子負債を大幅に圧縮したことではな
いかと思います。それにより、日産自動車が本来持っている底力が発揮できる
ようになったのでしょう。これは経営者の力量以前の問題といえると思います。
 これを阪神タイガースにあてはめるとすれば、戦力強化のために資金を投じ
た、ということで、これまた今年の優勝の大きな理由と目されています。もし、
こちらの理由が大きいとすれば、その功績は監督よりはフロントにより多く帰
するものになるでしょう。実際のところはどうなのでしょうか。阪神タイガー
スの戦力を、野村克也氏が監督を務めていた2001年と、星野氏が監督となった
2002年、優勝した2003年とで比較してみます。
 まず投手力のほうから、ダイレクトに勝ち数を使って戦力を比較してみます。
1勝投手まで加えるのはあまり意味もなく、数も多くなりますので、2勝以上
(これでおおむね上位10人となります)の投手を勝ち数で並べてみます。なお、
2003年は129試合消化時点のデータです。以下敬称は略します。

2003年     2002年     2001年
井川   17  井川   14  井川   9
伊良部  13  藪    10  福原   9
ムーア  10  ムーア  10  谷中   7
下柳   9  谷中   5  カーライル7
藪    8  金澤   5  伊藤   6
安藤   5  川尻   5  ハンセル 5
久保田  5  バルデス 4  伊達   4
谷中   3  安藤   3  成本   3
リガン  3  藤田   2  中込   3
福原   2  2人   2  4人   1

(等幅フォントでごらんください)

 この結果は非常に明白なように思われます。2003年の10人のうち6人が2002
年以降の入団であり、5勝以上をあげた7人のうち2001年にも在籍していたの
は井川と藪のわずかふたりだけに過ぎません。2003年はこの時点で82勝、2002
年は66勝をあげていますが、伊良部と下柳のふたりだけでその差の16勝を上回
っています。すなわち、投手力に関しては明らかに戦力補強による効果が大き
いといえるでしょう。また、野村監督時代には芽が出ず、星野監督によって見
出されたという投手は見あたらないこともわかります(2001年に藪の名前がな
いのは故障のためで、それ以前は阪神のエースと目されていたことは周知のと
おりです)。動機づけのうまさがさらに成績を向上させているとか、監督の指
導力や人柄が戦力補強に有益であるということももちろんあるのでしょうが、
投手力に関する限りはフロントの功績が大きいように思われます。
 次に野手・打線についてですが、選手はそれぞれタイプが違いますし、成績
も変動します。ひとつの指標で一概にみることはできないでしょうが、ここで
は出場試合数を基準に上位16選手(レギュラー野手8人の2倍)を比較してみ
たいと思います。この数字が大きいほど、球団にとっての必要性が高いと考え
られるからで、そういう意味では出場イニング数のほうがよかったのでしょう
が、データが入手できませんでした。

2003年     2002年     2001年
赤星  129  アリアス126  赤星  128
金本  129  今岡  122  今岡  123
今岡  119  片岡  120  桧山  121
矢野  118  桧山  110  矢野  119
藤本  116  濱中  102  濱中  110
アリアス115  平下   89  広沢   95
桧山  100  田中   81  上坂   89
片岡  100  赤星   78  田中   86
秀太   94  上坂   74  八木   85
八木   60  ホワイト 73  藤本   75
沖原   56  関本   71  沖原   71
濱中   55  矢野   66  クルーズ 70
野口   51  八木   64  星野修  55
久慈   50  沖原   63  山田   54
中村豊  48  藤本   63  ペレス  52
浅井   33  広沢   58  カツノリ 52

 2001・2002年の田中と2003年の秀太は同一人物です。こうしてみると、2003
年の16人のうち7人までが2002年以降の移籍者で占められているいっぽう、の
こりの9人はすべて2001年の16人に含まれていることがわかります。しかも、
今年大活躍で出場試合数トップの赤星、3位の今岡、4位の矢野といった選手
たちは、2001年にもやはりトップ、2位、4位に入っているなど、故障による
異常値を除けば、出場試合数の位置づけもほとんど変わっていません。つまり、
実際には補強された選手が、従来からあまり活躍していなかった選手に置き換
わったということになります。仮に競争が起きたとしても、少なくとも出た結
果はあまり変わっていないということです。また、これは同時に、野手におい
てもやはり星野監督によって見出された選手は少ない(少なくとも、野村監督
にも同等程度の機会を与えられてはいた)ということも示しています。
 したがって、星野監督が「競争を活性化させた」とか「結果が出るまでチャ
ンスを与えた」などという説はいささか怪しく、むしろ戦力補強がストレート
に結果に表れたと見るほうが当たっているように思われます。フロントの努力
はもっと高く評価されてもいいのではないでしょうか(もっとも、いい選手を
集めたから勝ちました、というのでは面白くありませんが)。
 もちろん、投手の場合と同様、監督の指導力や人柄が成績向上や選手獲得に
大いに資していることは間違いないでしょう。主力選手が昨年、一昨年に較べ
て軒並み成績を上げているのを見れば容易に推測できます。
 逆にいえば、巷間言われるように、前任の野村監督の選手操縦がいまひとつ
フィットしていなかったということもあるのかも知れません。今年阪神から日
本ハムに移籍した坪井、あるいは昨年オリックスに移籍した塩谷といった選手
は、ともに打線の中軸として活躍し、現時点で打撃十傑に入っていますし、近
鉄に移籍した星野や北川も阪神時代とは別人のような活躍ぶりです。すなわち、
彼らはそれだけの潜在能力があり、環境が変わることでそれが発揮されるよう
になったということで、裏返せば阪神時代の環境に問題があったということか
も知れません。
 とはいえ、3年で3回最下位とさんざんだったその野村氏ですが、野手の戦
力比較からは、今年の優勝には野村氏の貢献もかなりの程度存在することがわ
かります。今年レギュラーに定着している赤星と藤本、また終盤戦に大活躍し
ている沖原の3選手は、いずれも2000年のドラフト会議で野村監督のもとで指
名をうけ、2001年に入団しています。彼らを見出した上に、1年めから多数の
出場機会を与えて育成したことが、今年の活躍につながっていることは否定で
きないものと思われます。
 以上から結論めいたことを引き出すとすれば、いたってありきたりではあり
ますが、やはり今年の阪神の優勝も、必ずしも監督の卓抜な指導力だけによる
ものではなく、フロントの力がおそらく同等以上に貢献しており、また、前任
者の力による中期的な戦力アップもそれなりに資している、組織全体の総合的
な努力の結果であった、ということではないでしょうか。考えてもみれば、と
りわけプロ野球のようなハイレベルの世界で、リーダーがひとり変わっただけ
で結果ががらっと変わってくるなどということはなかなかありえないでしょう
(たとえば「人気」のような要因が働いて、あきらかに力量の劣る人物がリー
ダーになっていた、というような事情がないかぎりは)。
 これは組織においても同じことでしょう。リーダーの指導力を高めるだけで
はなく、メンバー一人ひとりの能力向上、十分な投資、中期的観点からの人材
の発掘や育成といったことにもあわせて取り組まれるのでなければ、めざまし
い成果を上げ続けることはできないのではないでしょうか。

                (次回は9月25日に配信する予定です)
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