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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成15年05月28日発行 通巻216号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【労務屋一筆啓上】囲碁の世界も制度改革 >>> =================================== ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研 究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映 されていない場合があります。 「ヒカルの碁」という漫画の影響で、子どもたちのなかで囲碁が静かなブー ムなのだそうです。わが国の古来の伝統競技である囲碁も、近年では娯楽の多 様化が進むなかで愛好者の減少と高齢化が止まらない状況にあるということで すから、日本囲碁界の総本山である日本棋院では、この機をとらえて積極的に 普及に取り組んでいるとのことです。 その日本棋院ですが、この4月から、昇段制度の抜本的な改定に踏み切りま した。よく知られているとおり、囲碁や将棋、柔道や剣道など日本の伝統競技 は、競技者の熟達度を初段から九段までの段位で表示しています。それを決め る昇段制度はまさに力量の評価制度であり、企業の人事管理にも通じる部分が あるものです。そこで今回は、日本棋院の昇段制度改定をご紹介してみたいと 思います(私は囲碁には不案内なので、詳しい方のご叱正をいただければ幸い です)。 約4分の1が九段 まず、改定前の制度から見ていきたいと思います。囲碁は勝負の世界ですか ら、評価も基本的には実績主義ですが、相手のある競技なので、単純に勝ち数 や勝率だけでは評価できません。そこで、従来は、「名人戦」や「本因坊戦」 などのタイトル戦をはじめとする一般棋戦とは別に、「大手合」という段位を 決めるための棋戦を実施して、その結果で昇段を決めていました。具体的には、 段位が上の人に勝てば高得点、段位が下の人に負ければ低得点というように、 相手関係と勝敗の組み合わせで結果をポイント化し、連続した何試合(何局) かの平均点が一定基準に達すると昇段する、というしくみです。 なかなか合理的な考え方ですが、成績が悪くても段位が下がることはないこ とに加えて、最高段の九段になると大手合には参加しなくなるという、基本的 には勝ち抜けのしくみなので、年功的にどんどん高段者がふえる構造になって いました。実際、過去75年間大手合で昇段を決めてきた結果、最初の1人がこ のしくみで誕生するまでに20年以上を要した九段が、制度改定時には日本のプ ロ棋士321人の約4分の1にあたる73人にまで増えてしまっていました。その 一方で、初段から四段までを合計しても78人だというのですから、これでは実 力の尺度としてはあまり役に立つとはいえません。現実に、九段のなかでの実 力のばらつきは非常に大きいといわれています。 それに加えて、昇段していくには一定の期間が必要なので、急速に成長して いる若手の場合、段位が実力に追いつかないということも間々あるようで、七 段、八段の若手がタイトルを獲得する例も珍しくないようです(昨年は、七段 の若手が日本囲碁界の最高位である「棋聖」を獲得しています)。 こうしてみると、結果が明らかな実力の世界で、客観的な制度で評価してい るにもかかわらず、実態としてはかなり年功的な部分が大きい制度だったとい えそうです。 ここにも年功賃金の弊害 しかも、単なる肩書であればまだしも、これが報酬(対局料)に反映される ので、問題はさらに深刻になります。具体的な対局料についてはほとんど情報 がないのですが、岩波新書に入っている中山典之著「囲碁の世界」には、朝日 新聞主催の「名人戦」の対局料が紹介されています(昭和61年のものなのでか なり古いのですが、他に資料がみつかりませんでした)。 それによれば、予選は1次予選から3次予選まであり、四段以下の「低段者」 は1次予選から出場しなければならず、対局料は初段48,000円〜四段64,000円 となっています。 1次予選を勝ち抜いた低段者と、五段以上の「高段者」が出場する2次予選 では、対局料は五段127,000円〜八段171,000円となっています(低段者でも、 2次予選に進出すれば五段の対局料がもらえるようです)。さらに、九段は 204,000円と、もう一段格上の対局料となっています(三次予選はさすがに段 位に関係なく定額のようです)。もちろん、これを支払うのは主催者である新 聞社ですが、いずれにしても段位がどんどん上がれば、対局料総額も上昇し、 棋戦の運営に大きな負担となることは間違いありません。まさに、多くの民間 企業が悩んでいるのと同じような、高齢化、高資格化のなかでの年功賃金の弊 害という、同一の構造になっているわけです。 新しい昇段制度 それでは、今回の制度改定はどのようなものかというと、まず、大手合に代 わって、一般棋戦の成績による昇段制度が導入されました。 昇段基準は3つあり、第一が「タイトル獲得による昇段」です。格式の高い タイトルである「棋聖」「名人」「本因坊」のいずれかを獲得するか、世界戦 に優勝するか、「天元」など他の4つのタイトルを2期獲得・保持するかすれ ば九段、というように、タイトル獲得、優勝、挑戦などの回数によって昇段す るというしくみです。前述した七段で「棋聖」を獲得した若手棋士は、この新 ルールによって「飛び級」で九段に昇りました。 次が「勝数による昇段」で、初段で30勝すれば二段に、二段で40勝すれば三 段に…と続き、八段で200勝すれば九段になる、というしくみです。勝数は減 るわけではないので、長く続ければ年功的に上がる部分はありますが、棋戦は トーナメント戦が多く、強い人は勝てば勝つほど対局数が増え、勝数も増える わけなので、日本棋院幹部によれば、「平均して昇段スピードは落ちるが、若 くて強い棋士は早くなる」とのことです。現状、八段の棋士の平均年間対局数 は20局くらいとのことですから、勝率5割で200勝といえば20年かかることに なります。なかなか高いハードルといえましょう。七段には六段で120勝、八 段には七段で150勝ということなので、七段くらいまでは勝数での昇段が大半 で、八段以上はタイトル獲得などで昇段するのが主流ということになるのでは ないでしょうか。 もうひとつは「各段賞金ランキングによる昇段」で、初段から五段までは上 位2人、六段の上位1人が、それぞれひとつ上の段に上がるというもので、や はり強い人をはやく上げていくしくみといえるでしょう。 もちろん、この制度改定が意図した結果を得るまでには、かなりの時間がか かるでしょう。また、各段での通算勝数が基準となっていることや、降段がな いことなど、年功的な部分も残されており、本質的な解決ではないとの見方も あるでしょう。とはいえ、激変緩和という観点もありますし、必ずしもすべて 実力だけではなく、普及への貢献なども昇段の考慮に入れるとすれば、かなり うまく考えられたしくみであると評価できるのではないでしょうか。 段位と対局料の分離 いっぽうで、高段者、特に九段の増加による対局料の負担増については、昇 段制度改定の結果が出てくるまで待つわけにはいきませんので、今回の制度改 定のもう一本の柱として、段位と対局料の分離が行なわれるようです。 さきほど名人戦の例を見ましたが、囲碁のタイトル戦は、棋戦によって違い はありますが、一般的には、挑戦者を決めるリーグ戦または本戦への参加者を、 低段者による1次予選、1次予選勝ち抜き者と高段者による2次予選(棋戦に よっては3次予選も)で決めるというしくみになっています。リーグ戦や本戦 は、そこで一定以上の成績を上げると、翌期もリーグ戦や本戦にシードされる という形が一般的です。対局料も、予選段階では段位によって決まっていまし た。 今回の改定では、1次予選・2次予選などの出場者を段位で決めるのをやめ る、対局料も段位によらず、各予選ごとに一律とする、という見直しが、各棋 戦で順次行なわれるようです。 本因坊戦と天元戦については、見直し内容の報道がみつかりましたが、概ね 同じ内容に変更されるようです。具体的には、予選をC・B・Aの3段階とし て、本戦やリーグ戦と同様に、それぞれの段階の予選で一定の成績をあげれば 翌期もその段階に残留し、あげられなければ翌期は一つ下の段階からスタート する、という昇降戦方式を取り入れる、ということです。このしくみであれば、 今期は予選Cからスタートした低段の若手が、C、Bを勝ち抜いてAに進み、 そこは勝ち抜けなかったものの一定の成績を上げれば、翌期は段位に関係なく 予選Aからスタートすることができるわけで、より実力主義に近い形になるわ けです(この場合、翌期の予選Aに参加するのは、今期予選Aに残留した人の ほか、翌期の予選Bを勝ちあがった人と、今期本戦(またはリーグ戦)を陥落 した人、ということになります)。 また、対局料は、予選Cより予選B、予選Bより予選Aが高いといった具合 に、予選の段階によって格差をつけるものの、同じ段階であれば、段位での差 はつけない、ということになるようです。これもまた、より実力と成果に応じ た報酬ということになるでしょう。 逆にいえば、これまでは九段が一次予選に出ることはなく、対局料も高い水 準が確保されていた(もっとも、棋戦の多くはトーナメントなので、勝ち上が らなければ対局数も増えず、収入も増えませんが)わけですが、これからは成 績が悪ければ九段でも予選Cのスタートとなり、対局料も予選Cの低水準のも のになるわけです。 制度改定を迫ったもの こうしてみると、まさに民間企業の人事・賃金制度改定に通じる部分が多い わけですが、こうした改定を迫った要因のひとつが「国際競争」であるという 点も、よく似ています。 囲碁は国際化が進んでおり、今では中国や韓国のほうが日本よりさかんなく らいで、世界戦では日本が苦戦しているのが実情なのだそうです。今回の制度 改定の背景には、日本棋院の財政難もさることながら、世界戦に勝つには従来 の年功的な体質を改め、より実力が段位や報酬に反映されるしくみをつくる必 要がある、という危機感があるようです。「世界戦優勝1回で九段」という昇 段基準も、それをよく現しているように思われます。 今回の制度改定は、一部のベテランには批判的な意見もあるものの、トップ 棋士や若手からは概ね好意的に受け止められているそうです。囲碁は高齢まで 長期に活躍できる競技ですが、そうしたなかでも、処遇には実力、成果を重視 していくという点では、民間企業と同じ流れの中にあるといえそうです。(本 文はすべて筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する会社などとは関係あり ません) (次回は5月8日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 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