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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成15年11月13日発行 通巻239号
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           <<< 育休延長論議の疑問 >>>

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 現在、育児休業制度の拡充に向けての検討が進んでいます。例によって労組
サイドは一層の拡充を求め、経営サイドは拡充に反対という構図になっている
ようですが、仕事と子育ての両立支援の重要性はいうまでもなく、育児休業制
度もさらに拡充し、普及させていくというのが基本的な方向性でしょう。
 しかし、現状の議論をみていると、その進め方にはかなりの疑問を感じざる
を得ません。経営サイドとしても、両立支援を通じた働き方の多様化が組織の
活性化につながる可能性は理解しているはずであり、方向性は共有できると思
われますので、問題は進め方にあるのではないでしょうか。

 第一の疑問は、育休の長期化が労使双方にとって本当に望ましい方法なのか、
ということです。厚生労働省は、「保育所が利用できないなどの特別な理由が
ある場合に限って休業期間を延長」という案を考えているそうですが、これは
すなわち、「本当なら子どもを預けて働きたいが、保育所が満杯で預けられな
いから働けない」という人がいる、ということです。であれば、預けて働ける
ようにすることが本質的な解決策であり、保育所が空くまで休めるようにする
というのは、そもそも本末転倒であり、よほどひいきめに言っても次善の策に
過ぎないだろうと思います。とりわけ、ハイレベルな仕事に従事している人ほ
ど、長期の休業によるキャリアの中断、スキルの陳腐化は好まないでしょう。
経営サイドは代替要員の確保の困難さを反対の理由としているようですが、ハ
イレベルな仕事をしている人ほど代替者がいない、長く休まれると困ることは
明白であり、この点においてはむしろ労使の利害は一致しています(逆にいえ
ば、有期雇用は代替も比較的容易であり、もともと出入りも多いわけなので、
使用者サイドがコストアップを理由に有期雇用への育休の拡大に反対するのは
若干腑に落ちないものがあります。まあ、多少なりともコストアップになるこ
とは事実でしょうが・・・)。労使双方がスキルの陳腐化を抑制するための取
り組みを求められることはもちろんとしても、本質的な解決はやはりなるべく
休業期間を短くすることであり、それには「預ける」ことをより容易に可能に
することが望まれます。
 もちろん、預けることもできるし休むこともできる、という選択ができるこ
とが理想ですから、休業を拡充することはそれはそれで大切だと思います。し
かし、預けるほうについては「待機児童ゼロ作戦」をうたいながら一方で待機
児童は増えつづけているという行政の努力不足にもみえる現実があるなかで、
だったら休めるようにすればいいというのははなはだバランスを欠く考え方で
あり、一種の開き直りにすら思えます。
 なお、いささか余談にわたりますが、たとえばこの4月の「企業行動計画研
究会報告」の「企業行動計画の策定例」にもしっかり「事業所内託児施設等の
整備」が盛り込まれているように、「預ける」ことについても、行政は企業に
並々ならぬ?期待を寄せているようです。しかし、いかに企業内託児所に手厚
い助成があるとはいっても、そのコストは多額にのぼります。企業行動計画は、
基本的に次世代育成支援は企業の社会的責任であり、それを果たしていく計画
という位置付けのはずです。そう考えると、そのために支出すべき金額にはお
のずと上限があるはずで、託児所の設置は多くの場合その上限を超えるのでは
ないでしょうか。
 もちろん、看護師などにみられるように、ハイレベルで供給不足の一部職種
については企業内(病院は企業とはいえないかもしれませんが)託児所も普及
しており、さらに他の職種にも拡がっています。これは望ましい動きですが、
しかしあくまで人材確保や動機づけ、活性化のための取り組みというのが原則
であり、企業の社会的責任とは別物です。現実には、企業のメリットと社会的
責任分とを足し算してコストを上回ればいいわけですが、それにしても企業に
多くを期待するのは無理があるように思われます。
 元に戻りますが、「育てる」ために「休む」ことと「預ける」ことをバラン
スよく支援していくことが大切なのであり、休みたくない、休まれたら困る人
がもっと容易に「預ける」ことができるようにすることが、ひいては「休む」
制度も拡充し、普及させていくことにつながるのではないでしょうか。そうい
う意味では、今回の休業期間延長に限らず、たとえば育児休業取得率の目標を
掲げるといった施策なども、いささか「休む」ことに傾きすぎている感があり
ます(もちろん、取得率を上げること自体はたいへん重要ではありますが)。

 第2の疑問は、育児休業給付のあり方です。
 これが導入された理由は、育休は無給とする企業が多く、「育休を取得でき
ない理由」として「収入がなくなる・減少する」をあげる人が多かったため、
これを一部補填して取得促進をはかろうというものでした。
 導入当初の支給額は休業前賃金の25%でしたが、これは労使双方とも基本的
に「退職、失業していたら得られたであろう失業給付に相当する水準」という
考え方によるものでした(もっとも、その算出方法は労使で隔たりがあり、使
用者サイドは20%、労働者サイドは30%を主張し、結局間をとる形での決着で
したが)。まあ、雇用保険の枠組みでやるのであれば、一応は妥当な考え方で
あるといえるでしょう(ただし、国庫負担の割合は失業給付の半分の八分の一
にとどめられました)。
 ところがその後、失業給付の水準は全体として引き下げられたにもかかわら
ず、育児休業給付については、さらに取得を促進するとのことで40%に引き上
げられました。この時点で、育児休業取得者が失業者より優遇されることとな
り、雇用保険の中で育児休業給付を行うことの正当性はかなり損なわれたと考
えるべきだと思われます。
 そして今回は、水準は下げずにさらに育休期間延長にともなって給付期間を
延長しようとしているわけですから、これは明らかに筋が通らないと考えざる
を得ません。もちろん、育児休業取得促進のため、という趣旨そのものは理解
できますし、昨今の育休取得率の伸びや取得期間の長期化をみれば、一定の効
果があったことも推測できます。しかし、制度という面から考えれば、ここま
で失業給付との格差が広がった以上、雇用保険の枠組みの中で継続するのには
無理があるのではないでしょうか。
 そろそろ、育児休業取得者の支援という考え方から、育児をする人すべてに
対する支援へと考え方を拡大し、育児休業給付(と児童手当)を発展的に解消
して、新たに国民すべての負担による育児支援給付制度を構想すべき時期に来
ているのではないかと思います。そうすれば、少なくとも雇用保険料負担を理
由に使用者サイドが育休の拡充に反対する理由はなくなるはずでしょう。

 仕事と子育ての両立が大切であるということについては、政労使それぞれに
理解しているはずであり、一応合意していると言っていいのではないでしょう
か。であれば、あとは進め方の問題でしょう。現在の進め方は、このような疑
問点があり、やはり企業に多くを求めすぎているように思われ、使用者サイド
が反発するのも無理からぬものがあるのではないでしょうか。重要な政策課題
であるだけに、行政も多大な努力を払っているものとは思いますが、とりわけ
「預ける」部分においては、行政により一層の取り組みが求められているので
はないかと思います。
               (次回は10月17日に配信する予定です)
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