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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成15年07月14日発行 通巻225号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【労務屋一筆啓上】若年雇用を改善するには >>> =================================== ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研 究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映 されていない場合があります。 若年雇用問題の重要性 この5月30日に発表された今年の国民生活白書には、「デフレと生活−若年 フリーターの現在」という副題がつけられています。6月10日には、文部科学・ 厚生労働・経済産業・経済財政政策担当の4大臣からなる「若者自立・挑戦戦 略会議」が、「若者自立・挑戦プラン」を発表しました。15歳から24歳の完全 失業率が10%を超える高率となるなど、全般に厳しい雇用失業情勢の中でも若 年雇用はとりわけ厳しい状況にあります。次代を担う若者が、吸収力の高い若 年期に、職業能力の形成・蓄積に資する仕事につけないということは、わが国 の将来に大きな禍根を残すことになりかねません。これはきわめて重要な問題 といえるでしょう。 若年雇用の現状−国民生活白書から まず、若年雇用の現状を、国民生活白書の記述から見てみたいと思います。 15歳から34歳までの若年雇用者の内訳をみると、いわゆる正社員は1995年か ら2001年までの間に129万人減少しましたが、パート・アルバイトは170万人増 加しています。次に労働時間をみると、正社員は全体では大幅に減少している にもかかわらず、週60時間以上の長時間労働をしている正社員は逆に49万人増 えています。そのいっぽう、パート・アルバイトでは、週30時間未満で80万人 増えています。すなわち、若年雇用の現状は、短時間労働で労働条件が低く、 能力向上にもつながりにくいパートタイマーやアルバイトが増加する一方、正 社員になれた若年も長時間労働を強いられるという、困難な就労条件にあると いえるでしょう。 このような就労条件の悪化を反映してか、厳しい雇用失業情勢にもかかわら ず転職は多く、若年の4割が経験しているそうです。しかし、正社員としての 再就職は難しく、正社員にこだわると失業が長期化する傾向があるようです。 こうしたなかで、いわゆるフリーターが、1990年の183万人から2001年には 417万人と、大幅な増加を見せています。さらに、フリーターの年齢をみると、 1995年には20歳から24歳の年齢層にピークがありましたが、2001年にはピーク が25歳から29歳の年齢層に移り、しかも30代のフリーターも100万人を超える など、フリーターの高年齢化が進んでいます。 若年雇用はなぜ悪化したのか それでは、このような若年雇用情勢の悪化はなぜ起こったのでしょうか。数 年前くらいまでは、たとえば「仕事はないわけではないのに就職しない。親が かりでハングリー精神がないからすぐやめる」といった、いわば「パラサイト・ シングルけしからん論」が、ずいぶん幅を利かせていたように思います。しか し、さすがに最近ではこうした感情論は少なくなりました。 国民生活白書は、デフレと業績低迷のなかで、企業が人件費抑制のために新 卒採用を厳しく抑制した結果、若年の雇用機会が縮小し、それにより希望どお りの就職ができない若年の意識の低下をまねき、それがさらに企業の採用意欲 を減退させるという悪循環を招いている、という見方を示しています。これが 最近の議論の大勢でしょう。いわゆるパラサイト・シングル論に対しては、雇 用情勢の悪化の結果としてやむなく増加している、という立場をとっています。 フリーターの増加についても同様で、その職業意識が低いことは事実として 認めながらも、正社員を希望しながらフリーターになった人が7割以上を占め ていることから、やはり経済の低迷による労働需要の減退に加えて、企業がパ ート・アルバイトなどのいわゆる非典型雇用を増やしていることに原因を求め ています。 「若者自立・挑戦プラン」 こうした中で、最初にふれた「若者自立・挑戦プラン」はどのような若年雇 用対策を打ち出しているでしょうか。「教育・人材育成・雇用のシステム改革」 「人材対策への政策資源の重点投入」という考え方に立ち、具体的には、日本 版デュアル・システムの導入など「教育段階から職場定着に至るキャリア形成・ 就職支援」、通年採用の普及、トライアル雇用の活用など「若年労働市場の整 備」、専門職大学院の設置促進など「若年者の能力の向上/就業選択肢の拡大」 、そして、創業に挑戦する人材の大量養成、若手即戦力人材の育成、サービス 分野中心のビジネス市場拡大など「若年者の就業機会創出」の4項目を掲げて います。そして、地域の実情にあわせて情報提供・職場体験・個人相談・就職 支援などをワンストップ・サービスで提供する場を各地域に設置する、として います。 供給サイド対策の効果は限定的 これを見ると、「サービス分野のビジネス拡大」ただひとつを除いて、労働 市場の供給サイドを改善する施策で占めてられています。もちろん、その多く は、それなりに意味はあるものだと思います(あまり意味がなさそうなものも ありますが)。とくに、希望と現実をすりあわせるコンサルティングは、不人 気職種への就労を促すミスマッチ解消策として有意義だろうと思います。しか し、こうした供給サイド一辺倒の政策で、本当に若年雇用が改善するかといえ ば、私にはそれほどの効果があるとは思えません。経済産業省主導でまとめら れたこのプランに対して、遠山文科相は6月12日の経済財政諮問会議で「とに かく、雇用してもらわないと困るから、そちらの方をよろしくお願いしたい」 と発言していますが、これは偽らざる本音でしょう。 たしかに、全体としては大幅な労働需要不足の中でも、個別には満たされて いない求人もあります。しかし、その内容を見ると、歩合制の飛び込み営業の ような不人気職種だったり、専門技術の持ち主を安価に雇いたいといったもの だったりすることも多く、さらには、本当に採用する気はあまりないにもかか わらず、職安の求めに応じてとりあえず求人だけは出しているというケースも あるらしいということですから、人材育成で効果がどれほど上がるかは疑わし いと考えざるをえません。 さらにいえば、ちょっと教育したり情報提供したりしただけで「創業に挑戦 する人材」や「IT、技術経営、事業再生等、ニーズが高い高度専門人材」に なりうるような優秀な人材は、若年の中でも多くはなく、こうした人材であれ ばいかに現状雇用情勢が厳しいとは言っても、それなりに就職のチャンスはあ るはずですし、仕事を通じてどんどん成長するでしょう。いま、現実にフリー ターになっている人の多くは、創業もできなければ、高度専門人材にもなれそ うもない、平均的な能力の持ち主たちなのではないでしょうか。これまでのわ が国では、こうした「普通の」若年が、上司や先輩に教えられながらコツコツ と働き、時間をかけて経験を積み、知識を増やして、熟練していくことができ る仕事がたくさんあったといわれていますが、こうした仕事につく機会がどん どん減ってきていることが、雇用という面でも人材育成という面でも、最大の 問題ではないかと思います。 「改革」ではなく「正常化」を 国民生活白書は、若年雇用対策として、就業意欲の向上や職業訓練などをあ げるほかに、経済の活性化による雇用拡大や、そのために政府・日銀が一体と なってデフレを克服することの必要にも言及しています。若年自立・挑戦プラ ンは、「人材育成・雇用システムの改革」をうたっていますが、本当の問題点 はシステムそのものではなく、不況期もふくめて通常の経済環境であれば機能 するこれらのシステムが、機能不全に陥るほど長期にわたって経済の低迷が続 いていることではないでしょうか。企業は、今はたしかに若者を育てる余裕を 失っているかもしれませんが、経済が活性化し、経営が好転すれば、また若年 の育成に取り組みはじめるはずです。必要なのは「改革」ではなく「正常化」 なのではないかと思います 私は経済や財政、金融の専門家ではないので、そのための施策について議論 する能力はありません。おそらくは、国民生活白書も指摘するとおり、デフレ を脱却することが最重要なのでしょう。若者自立・挑戦プランにもあるように、 規制緩和などを通じてサービス分野などで雇用を拡大することも大切でしょう。 石原慎太郎東京都知事は、昨年末の「日経ビジネス」誌第1172号のインタビ ュー記事で、若年雇用問題について「政府が悪い。構造改革や不良債権処理を うたうばかりで、雇用創出を考えてこなかった。僕個人はカジノもパチンコも 嫌いだけど、日本全国にカジノを作ろうと言っているのは、雇用を生み出すの は第3次産業だと考えているからだ」と述べています。カジノの良し悪しは別 として、必要なのはこうした構想力なのでしょう。 また、経済活性化に加えて、仕事の機会の減少の原因がいわゆる空洞化にあ るならば、国内外の通貨、為替についての適切な政策も必要となるのかもしれ ません。 くわえて、より直接的な公的部門での雇用創出も考えられていいのではない でしょうか。国家財政が厳しいことから、最近では財政支出は禁忌に近い印象 がありますが、しかし必要な支出なら積極的に行なうべきだろうと思います。 警察、福祉、営林などの環境保全など、国民が必要としていながら満たされて いない公的サービスもあると思います。こうした分野の仕事には、若者が生涯 をかけて取り組むに値する仕事も多いはずです。 システムを破壊するな こうした施策によって経済が活性化し、労働需要が上向いてくれば、企業が 持つOJTを中心とした人材育成エンジンがふたたび動きはじめ、若年雇用問 題も収束に向かうでしょう。 心配なのは、「賃金の高い中高年を一人首切りすれば、若年が二人雇える」 といった安易な意見が散見されることです。しかし、働きながら熟練していく うちには、若年もいずれ中高年になります。そのときになって賃金が高いから と放り出され、キャリアが寸断されてしまうのでは、働く人も不幸ですし、人 材育成の意味がないでしょう。中高年は若年の将来像であり、中高年にしわ寄 せすれば若年の問題が解決するというものではないのです。 職業能力が仕事に使われるものである以上、それは仕事を通じて伸ばしてい くのが最も効果的であることは論を待ちません。わが国企業が持つ強力な人材 育成マシーンをさびつかせず、破壊せず、再運転の燃料を供給していくことが 大切なのだと思います。(本文はすべて筆者の個人的な見解であり、筆者が所 属する会社などとは関係ありません) (次回は7月17日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 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