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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成15年07月07日発行 通巻223号
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  <<< 【労務屋一筆啓上】解雇ルール法制化の修正協議をめぐって >>>

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 ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研
  究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映
  されていない場合があります。

 見ましたか?連合のCM

 5月15日から21日までの一週間、連合提供のテレビコマーシャル(商業宣伝
ではないので、「コマーシャル」は本当は変かもしれませんが)が流れたのを
見た方も多いと思います。
 どんなCMか簡単にご紹介しましょう。オフィスをサッカーに見立てたもの
で、オフィスでの執務風景の中に、突然サッカーのレフェリー姿?の社長が乱
入し、ある社員にイエローカードを出します。続いて、その社員が電話をしな
がら鼻毛を抜いている場面が写され、サッカーの実況中継風に「社員に問題は
ないように見えましたが」「鼻毛抜いてますけどねぇ、まじめにやってたと思
いますよ」などといったせりふが入ります。
 さらに続けて、警告に納得せず抗議する社員に対してレフェリーがレッドカ
ードを出します。「解雇通告です!」。レフェリーに詰め寄る他の社員たち。
「これは厳しい」「おかしいですね、こんなルールありましたか?」などと実
況風のせりふが続きます。解雇された社員が憮然として立ち去る姿が写ったあ
と、「いま、国会では解雇をしやすくするルールが審議されています。」とい
う文字とナレーション、さらに「こんなことが許されていいのでしょうか」と
いうナレーションが入り、最後に「労働組合の『連合』です」というナレーシ
ョンとともに連合のロゴが大写しになって終わる−−というCMです。ちなみ
に、「鼻毛を抜く」場面が「親指の上でボールペンをくるくる回す」場面に替
わっているバージョンもあります。

 労基法改正法案に反対する連合

 このCMはもちろん、さる5月6日に衆議院本会議に上程され、審議がはじ
まった労働基準法改正法案についてのものです。
 自民党のホームページに記載されているこの法案の概要が「産業構造・企業
活動の変化や労働市場の変化が進む中でわが国の経済社会の活力を維持・向上
させていくため、労働契約期間の上限の見直しや解雇に係る規定を整備するほ
か、裁量労働制に係る手続きの簡素化等の措置を講ずる。」となっているよう
に、有期雇用の上限と裁量労働に関する規制緩和と、解雇ルールの法制化が主
な内容となっています。連合はすでに、法案提出にさきだつ労働政策審議会の
審議で、これらの内容すべてについて労働者保護の後退につながるとして反対
の意向を示してきましたが、そのなかでも解雇ルールについては、巨額の組合
費を投じてテレビCMを流すほどの並々ならぬ強い反対姿勢をとっているわけ
です。
たしかに、このCMに出てくるような解雇が許されるとしたら大問題ですし、
連合が大反対するのも当然です。しかし、実際問題、この国会に提出された労
働基準法改正法案は、本当にこうした解雇ができるようになる内容なのでしょ
うか?

 解雇はしやすくならない

 これまでの経緯を振り返ってみると、もともと、連合は「解雇権濫用法理が
明文化されていないために雇用主に周知されておらず、安易な解雇が横行して
いる」として、解雇ルールを明文で法制化すべきとの立場を取っていました。
むしろ、日本経団連など経営サイドのほうが、「規制強化であり、行政の介入
の増加を招く」「裁判所による個別事情を勘案した柔軟な判断を阻害する」な
どの理由で消極的でした。
 したがって、今回解雇ルールが法制化されるのは、本来は連合の主張に沿っ
た改正のはずです。にもかかわらず、なぜこうした事態に到ったのでしょうか。
その理由は、法案の文面にあるようです。
 まずは問題の法案をみてみましょう。一ヶ月前の解雇予告を定めた労基法第
18条に続けて、次の条項を追加するとされています。

(解雇)第十八条の二 使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使
用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇
することができる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会
通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無
効とする。

 厚生労働省はこの法案について、「現行確立している解雇権濫用法理をその
まま明文化したもの」と説明しています。すなわち、規制を強化も緩和もして
いない、ということです(それでも、日本経団連が懸念しているように、法制
化されればそれを根拠に労働基準監督署による監督が行なわれるようになるで
しょうから、労働者保護は強化されることになるでしょう)。実務家の立場か
ら読んでも、それほど違和感はないものではないかと思います。したがって、
今回の改正は、連合がCMで描いているような恣意的な解雇を可能とするもの
では断じてありませんし、「解雇をしやすくするルールが審議されています」
というプロパガンダも事実ではないということになります(ちなみに、日本経
団連は、法制化自体に反対であるが、法案の文面には修正の必要を感じないと
の立場のようです)。

 なにを問題視しているのか

 それでは、いったい、連合はそれほどまでになにを問題視しているのでしょ
うか。連合ホームページの「労働基準法・派遣法の改悪反対」のコーナーには、
「政府は『使用者は労働者を解雇できる。ただし客観的に合理的な理由のない
解雇は無効』という条文を労働基準法に新設しようとしています。しかしこの
文章では、解雇は原則として自由、と読まれかねません。」としたうえで、
「解雇促進となる法制化は断じて認められません。」「解雇事由の立証責任が
使用者にある現状を、法律等で明確にすべきです。」と記載されています。
「解雇は原則自由かどうか」「立証責任がどうなるか」が問題点だ、というこ
とになるようです。

 解雇は原則自由か

 しかし、私たち実務家のほとんどは、わが国においては解雇は基本的に自由
であり、合理的な理由がない、社会通念上相当でない場合は権利の濫用として
無効である、と教えられてこなかったでしょうか。そのうえで、たとえば「労
働者が詐欺の前歴を隠して採用された場合、経理部員として採用されたのであ
れば解雇は有効だが、工員として採用されたのであれば解雇は無効」というよ
うに、「合理的理由」や「社会通念上相当」というのはかなり厳しく考えなけ
ればならないということや、「労働者になんらの非がないにもかかわらず、経
営の都合のみで解雇が行なわれる(整理解雇)場合は、特に厳しい条件(整理
解雇の4要件・4要素)によって厳格に合理性が判断される」といったことを
学んできており、これが通説に近いのではないかと思います(もっとも、日本
労働弁護団は「現行判例法理は、最高裁自身が解説するように『正当事由説の
裏返し』の法理であって、解雇の原則自由を認めたうえで例外として濫用にわ
たる場合に解雇を無効とするものでは決してない。」と主張していますので、
学説の対立はあるのかもしれません)。
 むしろ問題は、「労働者を解雇することができる」という文面がはじめにあ
ることで、「合理的理由」や「社会通念上相当」といったものを軽視して、ほ
ぼいかなる解雇も自由だと誤解する人が出てくる可能性がある、という点でし
ょう(連合のテレビCMも、こうした危機感を示したものと思います。PRが
多少の誇張をともなうのは、珍しいことではありません)。本来、解雇権濫用
法理の周知を意図したにもかかわらず、かえって逆効果になってしまいかねな
いわけですから、連合が強硬に反対するのも当然のことでしょう。

 立証責任はどうなるか

 次に立証責任については、今回の労基法改正について労働政策審議会が「概
ね妥当」と答申した際に、次のような労働委員の異論が付記されています。
「…解雇に関する裁判における主張立証に関して、使用者に主張立証活動を行
わせている現行の取り扱いに…影響が生じないことを立法者意思として明確に
すべきである。」
 従来から、裁判においては、原告(解雇された人)が「解雇に合理的理由が
ない、あるいは社会通念上相当でない」可能性があることを示せば、被告(解
雇した企業)が「合理的理由があり、社会通念上相当である」ことを立証しな
ければならない、という取り扱いがされてきました。連合の主張は、今回の法
改正によってこうした取り扱いがされなくなる可能性があることから、その可
能性のないようにせよ、ということだろうと思われます。

 国会審議での修正

 このような連合の問題意識を背景に、民主党はこの法案の国会審議にあたっ
て、その修正を強く主張してきました。
 他の法案審議との関係や、会期延長などの国会運営とも絡みあって、さまざ
まな駆け引きのあるなかでの修正協議であり、そのゆくえは予断を許さないも
のがありましたが、新聞報道などによると、6月2日には協議がまとまり、成
立に向けて大きく動き始めたようです。
 5月20日の朝日新聞の記事をみると、民主党が主張した修正案は、当初は
「使用者は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められるときでな
ければ、労働者を解雇できない」というものだったようです。
 たしかに、これなら誤解を招く心配はなく、立証責任の問題もクリアできる
でしょう。しかし、これは現状の民法の「原則可能」を「原則不可」に転換す
る大変更であり、かつ大幅な規制強化となるものです。労働政策審議会が「概
ね妥当」と答申した改正要綱も原則自由の考え方に立っていますので、審議会
答申を大幅に逸脱することにもなり、さすがに無理でしょう。
 そこで、最終的には、厚生労働省案から「…解雇できる」という文面をとり、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められな
い場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と修正することで合意
がまとまったようです。
 たしかに、「原則自由」ということは、現状すでにそうなのですから、ここ
で敢えて書くまでもないわけで、そう考えればこの修正案は原案とほとんど同
じです。そのいっぽうで、「…解雇できる」という文言が消えたことで、連合
のCMのような事態も回避できたといえるでしょう。そう考えれば、今回の修
正合意はたいへん妥当なものであり、関係者の努力が実ったものといえるので
はないでしょうか(立証責任に関しては、国会審議などで従来の取り扱いを継
続するとの立法者意思が示されれば、十分明らかなのではないかと思います)。

 一部で不可解な報道も

 さて、この修正協議の決着について、日本経済新聞は6月3日付朝刊で「雇
用の流動化を促し、成長企業への人材供給を後押しする当初の狙いからは後退
した」と報道しています。
 しかし、今回の改正につながった昨年12月26日の労働政策審議会の建議では、
解雇ルールの法制化の趣旨としては「トラブルの防止」「迅速な解決」があげ
られており、「流動化」や「成長産業への人材供給」は、全文を読んでも見あ
たりません。これらがなぜ「当初の狙い」になるのか、まことに不可解な感が
あります。
 記事は「との受け止めも出ている」という書き方になっていますので、間違
いではないということかもしれませんが、それこそ修正前の法案以上に誤解を
招きやすい、不適切な報道ではないかと思います。(本文はすべて筆者の個人
的な見解であり、筆者が所属する会社などとは関係ありません)

                (次回は7月10日に配信する予定です)
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