|
=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成15年06月12日発行 通巻218号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【労務屋一筆啓上】なぜ多い、人事のカタカナ用語 >>> =================================== ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研 究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映 されていない場合があります。 人事担当者は外来語がお好き? ---------------------------------------------------------------------- (小泉議長) わかりにくいところがある。アウトソーシングは民間委託とか 民間参入だが、バックオフィスとは何か。 (片山議員) バックオフィスは内部管理事務で、財務会計とか、予算。 (小泉議長) わかりやすく表現してもらわないと。地域の人がわかるように 書いて欲しい。何故アウトソーシングは民間委託とか民間参入とか書かないの か。 (片山議員) 私も総理と同じ考えだが、これでも役所は抑えている方です。 (小泉議長) 直訳でなく、日本語で訳すべき。インキュベーターだって、ふ 化と言ったってわからない。アウトソーシングなんて使う必要はない。民間委 託なり民間参入促進でいい。バックオフィスと言ったってわからない。 (片山議員) 今の役所全体がそうなっている。日本語でやらないのは、うけ るとか、斬新さがあるとかで、それは日本語では必ずしもカバーできない部分 がある。 (小泉議長) それは英語を読んで直訳するからで、日本独自のことを考えな いと。もっとわかりやすく。役人だけでなく、住民に向かって説明しなければ ならない。国民参加でないとどうにもならない。バックオフィス業務は、よく 説明してくれないと分からない。私がわからないのに、町内会の人たちはわか るのか。 (塩川議員) 本当に僕ら置いてきぼりをくっている。 平成14年第12回経済財政諮問会議(5月13日)議事要旨から ---------------------------------------------------------------------- 昨年の5月に開催された経済財政諮問会議で、小泉首相が官庁の文章にカタ カナ言葉が多すぎると苦言を呈したそうです。たしかに今の世の中、なにかと 外来語が幅を利かせているのが実情で、首相の苦情もごもっともという感じで すが、よく見てみると、はじめに首相が噛みついているふたつの外来語、どち らも人事用語です。 思い返してみると、たしかに人事担当者は外来語が好きかもしれません。 「ボーナス」や「ストライキ」のようにすっかり日本語の中に定着した外来語 もありますが、その一方で、「ファミリー・フレンドリー」「コンピテンシー」 「ワークシェアリング」「エンプロイアビリティ」などなど、部外者には耳慣 れないだろう外来語も飛び交っています。 日本語言い換えの動き わが国にはあまねくこうした傾向があるようで、外来語を日本語に言い換え ようという動きが出てきているようです。 独立行政法人国立国語研究所は「外来語」委員会は、この4月28日に、わかり にくい外来語63語について、日本語への言い換え例を提案しました。今後も続 けて、年2回提案するとのことですが、今回が提案された63語の中にも、人事・ 労務の用語がいくつか含まれています。 たとえば、小泉首相が槍玉にあげた「アウトソーシング」や「バックオフィ ス」は、研究会の基準によれば、「その語を理解する人が国民の4人に1人に 満たない段階」であり、「最も分かりにくい外来語であり,公的な場面で用い ることは避ける方が望ましいと考えられる」とされています。そのほか、「イ ンターンシップ」が、この「最も分かりにくい外来語」として取り上げられて います。また、「その語を理解する人が国民の2人に1人に満たない段階」で あり、「現状では,外来語のままで用いることは避けたい語ですが,今後,普 及定着に向う可能性のある語も含まれてい」る外来語として、「フレックスタ イム」「メンタルヘルス」「モチベーション」があげられています。10%近い シェアを占めているわけですから、やはり人事担当者は外来語がお好き、とい うことでしょうか。それだけでなく、「人材アセスメント」などとも使われる 「アセスメント」、「従業員のライフサイクル」などというときの「ライフサ イクル」、目標管理でおなじみの「コミットメント」、あるいは職場環境でお なじみの「アメニティー」などなど、人事・労務用語とはいえないものの、そ の実務でたびたびお目にかかる外来語もいくつも含まれています。 ちなみに、今回の提案は第1回ということで、同時に第2回で取り上げる予 定の外来語も発表されています。58語あげられていますが、「インセンティブ」 「コラボレーション」「ポテンシャル」、あるいは「セーフティーネット」 「タスク」「マネジメントシステム」「ミスマッチ」「ミッション」などなど、 こちらも人事・労務に縁の深い言葉が並んでおり、やはり人事担当者は外来語 がお好きなようです。 それではどう言い換える? それでは、提言が取り上げた言葉を個別にみてみましょう。まずは「アウト ソーシング」ですが、人事・労務担当者には常識的なことばだと思いますが、 世間ではそれほどでもないのでしょうか。言い換えは「外部委託」ということ で、小泉首相の「民間委託」「民間参入」とは若干異なっています。小泉首相 が言ったのは「役所の仕事のアウトソーシング」のことなので、その場面では 「民間委託」で正しいわけですが、一般的には必ずしも民間とは限らないとい うことで、「外部委託」が適切だということになるのでしょう。 もうひとつ首相が噛みついた「バックオフィス」は、どちらかというと官庁 用語で、民間ではそれほど使われないかもしれません。「事務管理部門」とい う日本語が当てられています。ちなみに、これとセットになっている「フロン トオフィス」については、「営業部門」「顧客部門」など、業務の内容に即し て言い換えたいということです。 「インターンシップ」も、残念ながらまだまだ普及していないようです。あ てられている日本語は「就業体験」ですが、体験より教育的な意味が強い場合 は「就業実習」「専門実習」などと言い換えるということです。「専門実習」 というのは若干ニュアンスが違いそうですが…。 難しいのが「フレックスタイム」で、「自由勤務時間制」という言い換えが 提案されていますが、実務家にはちょっと違和感があるのではないでしょうか。 現実には、フレックスタイムは日々の「始終業時刻」を働く人が決められる、 ということにすぎず、清算期間内に労働すべき時間数は決められています。し かも、コアタイムが決められていて始終業時刻の自由度が制約されたり、一日 の最低限の労働時間を決めることもできます。それでも「勤務時間」が「自由」 というのは少し無理なような気がします(さらに、その他の言い換え語例とし て「時差勤務」があげられていますが、これは実務家にとっては別の意味であ ることが多いはずです)。 提案の「手引き」にもあるように、「フレックスタイム(自由勤務時間制)」 などと併記することで普及をはかっていくのが現実的ではないかと思います。 なお、「メンタルヘルス」は「心の健康」あるいは「精神保健」「精神衛生」 、「モチベーション」は「動機付け」と言い換える、とされています。これは、 実務的にも外来語・日本語ともに頻繁に使われています。 言い換えにくいのはなぜ? 外来語がこれだけ使われるのは、何となくカッコいいといったような理由だ けではないように思われます。「フレックスタイム」や「インセンティブ」の ように、その言葉が示す概念にぴったりあてはまるうまい日本語がないから、 外来語を使っているというケースも多いのではないでしょうか。 とりわけ最近、企業業績が思わしくないこともあり、人事・労務のしくみを 見直そうという動きがさかんです。それにともない、研究者やコンサルタント などがさかんに海外からいろいろな考え方を輸入しています。最初にあげた 「コンピテンシー」などがその典型でしょう。こうした言葉は、外来語のまま の方が輸入品とわかるため値打ちが上がるでしょうし、日本ではまだ考え方と して消化されていないので、あてはまる日本語もない(下手をすると、その言 葉を使っている本人も実はよくわかっていない、ということもあるかもしれま せん)。だから、どうしてもカタカナ言葉になってしまうのでしょう。 一昔前に、「リエンジニアリング」という言葉がわが国でも一斉を風靡した ことがありましたが、今ではほとんど耳にしません。それは結局、わが国では その概念は定着しなかった、ということです。「エンプロイヤビリティ」など も、同じ道をたどりつつあると感じるのは私だけでしょうか。「ファミリー・ フレンドリー」も、重要な考え方にもかかわらず一部の関係者だけにしか広が っていませんし、「コンピテンシー」も下火になりつつあるようです。単に海 外から考え方を輸入するだけではなく、いかにわが国にあわせて定着させるか が大切だ、ということではないかと思います。 労務管理の欠陥を示す外来語 これとは別に、言い換えにくさの理由は、人事管理の中にもありそうです。 「パートタイマー」というのも外来語でしょうが、十分定着しているので、 「外来語」委員会では言い換え検討の対象にはならないでしょう。しかし、こ れは非常に言い換えが難しい言葉です。一応「短時間労働者」という日本語が あてられているようですが、これでは「パートタイマー」を十分に言い換えて いるとはいえません。「パートタイマー」という言葉には、単純に労働時間が 短いという以上の意味があるからです。 それは多くの場合、もっぱら補助的な仕事を担う、賃金水準が低い、有期契 約である、などといった意味をも包含しているでしょう。むしろ、そうした意 味の方が大きくなり、パートタイマーなのに労働時間はフルタイム、というケ ースも珍しくありません。 これはある意味で、わが国企業の人事・労務管理の欠陥のひとつを指摘して いるといえるかもしれません。パートタイマーをはじめとする、いわゆる非正 規雇用が増加する中で、これらの人たちの労働条件、人事・労務管理のあり方 を改善すべきとの声が高まっています。しかし、その議論はいまひとつ噛み合 っていません。 その理由は、「パートタイマー」が日本語に置き換えられない理由と共通し ていそうです。すなわち、いろいろな仕事、働き方、労働条件の人たちを一緒 くたにして、「パートタイマー」という括りになんでもかんでも押し込んでし まう実態がかなりあったのではないか、ということです。これは企業の人事管 理が雑であったということにほかならないのではないでしょうか。 かつてのように大多数が正社員であった時代ならともかく、これだけ非正規 が増えた現在、よりきめ細かな人事管理が求められているのではないでしょう か。そして、「パートタイマー」が違和感なく「短時間勤務者」と言い換えら れるようにしていかなければならないのではないかと思います。(本文はすべ て筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する会社などとは関係ありません) (次回は6月16日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |