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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成15年03月03日発行 通巻209号
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   <<< 【労務屋一筆啓上】就職人気ランキングをどうみるか >>>

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 ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研
  究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映
  されていない場合があります。

就活の季節

 先日、経団連会館に出向いたところ、いわゆるリクルートスーツ姿の学生さ
んらしき諸君が一目100人以上出てくるのに遭遇しました。日本経団連は採用
活動の早期化の自粛をはたらきかけており、特に3年生については、昨年10月
に発表された「平成15年度新規学卒者の採用・選考に関する企業の倫理憲章」
において「特に卒業学年に達しない学生に対して実質的な選考活動をすること
は厳に慎まなければならない」としています。まだ1月だというのに、その日
本経団連のお膝元の経団連会館で堂々と会社説明会が開かれているのですから
困ったものですが、日本経団連も、情報の公開は速やかにといっていますので、
本当に説明だけの会社説明会ならいいということかもしれません。
 実際、いまや就職活動の総本山となった「リクナビ」のサイトにはすでに数
百件の会社説明会の広報が掲載されており、建前はともかくとして、現実には
平成15年卒の就活戦線がスタートしていることはまちがいないようです。

年中行事の「就職人気ランキング」

 この時期になると、学生の就職希望企業のランキングがあいついで発表され
ます。就職の人気というものは、企業業績だけではなく、信頼性や技術力、将
来性、さらには社風などといった企業イメージの総合評価という面があります
から、人事担当者、採用担当者に限らず、経営者から一般社員にいたるまで、
それなりに気になるのではないでしょうか。大げさにいえば従業員の士気にか
かわる問題でもあります。
いろいろな調査がありますが、ここでは本年1月27日の日本経済新聞の朝刊
「第二部」に掲載されている「大学生の就職希望ランキング」を材料にみてい
きたいと思います。調査方法は昨年の10月から12月にかけて、全国の主要110
大学の3年生を対象に、就職希望企業を5社まであげてもらったというもので、
サンプルは3,371人となっています。
 今年の結果をみてみますと、1位がソニー、2位がJTBでそれぞれ413人、
401人が希望企業にあげています。トヨタが313人とかなり離された3位で、以
下サントリー309人、全日空が少し離れて257人、電通221人、JAL(日本航
空・日本エアシステム)220人、東京三菱銀行202人、NTTドコモ187人、ホ
ンダ185人となっています。前年1位、2位の三井住友銀行と東京海上火災が
ベストテンから外れましたが、それ以外は例年と似た常連が揃ったといえそう
です。上位にランクされた企業にはまことにご同慶です。

ランキング上位ならいい人が採れるか?

 さて、このランキングをどうみるかですが、外部の人からみれば、人気トッ
プ、ベストテンといった企業ならさぞかしいい人が取り放題だろうと思われる
かもしれません。しかし、現実には必ずしもそうともいえません。このランキ
ングは要するに人気投票で、票数の多い企業が上位ということですから、つま
るところ大衆的な人気がある企業が上位にくるということです(調査対象の
110大学はいずれも優れた学生の集まる有名大学ですので、かなり有能な大衆
ではありますが)。ということは、たとえば「それほど人を選ばず、人数をた
くさん採用したい」というニーズが強い場合であれば、上位企業はたしかに非
常に有利な立場であるに違いありません。
 しかし、今はそういう状況ではないことも明らかです。たとえば、日経新聞
の記事にはランキング上位3社の人事担当者からのメッセージが掲載されてい
ますが、ランキング1位のソニーの採用担当部長さんは求める人材について
「日々変化に対応できるスピード感のある人」「世の流れから一歩先んじ、自
ら変化を生み出す人」といった人物像をあげておられます。これは明らかに大
衆ではなく、異能、非凡の人物を求めているわけです。2位のJTB、3位の
トヨタも、「自分の頭で考え、提案できる向上心」とか「常に自らを高め成長
させることで、どのような環境変化にも対応できる」などと求める人材像を述
べています。これまた非凡の人を求めているということでしょう。もちろん、
大衆と同じように非凡の人にも人気があればいいわけですが、非凡の人は大衆
とは異なる選択をするというのも感覚的にはうなずける話です。
 あるいは、たとえば日本銀行が51位(70人)にランクインしていますが、だ
からといって日本銀行がベストテン企業と較べて就職先として劣っているとい
うことはできません。日本政策投資銀行や国際協力銀行といった政府系金融機
関も同様で、限られたエリートだけしか採用の対象とならない(と思われてい
る)ことから、多くの学生が最初から考慮の対象にもしない就職先があるわけ
です。あるいは、あとで再度触れますが、外資系など知名度が低いために人気
ランキング上位には入らないものの、一部の優れた人材を強力にひきつける企
業もあります。
ランキング上位企業は、人気上位だからと安心していると、志望者はたくさん
きたが、本当に欲しい人材はいなかった、というミスマッチが起こる可能性も
ありそうで、採用担当者としては、必ずしも上位だからと手放しでは喜べない
のではないでしょうか。

「おもしろそう」は大切だが

 さて、上位企業が人気を博しているのはなぜか、という点を見てみたいと思
います。日経新聞の調査結果によれば、志望理由のトップは「仕事がおもしろ
そうである」ということで、8割を上回る学生が回答しているそうです。その
ほかの志望理由としては、「規模が大きい」「安定している」「信頼できる」
「一流である」などが7割前後で、将来性、成長力、技術力といった理由を上
回っています。たしかに、人気ランキング上位企業は業界トップか、トップと
互角の2位が多く、大規模、安定、信頼、一流などの理由があがるのはうなず
けるものがあります。
 そのいっぽうで、私がこの手の調査を見ていていつも思うのは、「仕事がお
もしろそう」というのはどこで判断しているのだろうか、ということです。信
頼、一流などといったことは、業績の報道などから判断できますが、仕事がお
もしろいかどうかは外からでは簡単にはわからないからです。そもそも、おも
しろい仕事ばかりの企業などあるわけがありません。
 この手のランキング調査は、就職活動が進んでから発表したのではあまり意
味がないでしょう。そうなると、なるべく早い時期に発表するためにはさらに
早い時期に調査をする必要があるでしょう。この調査が実施された、3年生の
10月から12月という時期は、まだ先輩訪問などを通じた生の情報には接してい
ないものと思われます。企業が提供する採用サイトなどの情報は各社それほど
大きな違いはないとすれば、「仕事がおもしろそう」という判断の根拠は、多
くはマスコミなどの情報をもとにしたイメージだというのが実態ではないかと
思います。
 実際、ランキングを見てみると、たとえば、ソニーやトヨタなどは報道も多
く、ソニーであればAIBOやエンターテインメント、トヨタであればモータース
ポーツなど、学生さんの興味をひくような情報もたくさん流れています。こう
した情報から「仕事がおもしろそう」というイメージをなんとなく持っている
というのが実情なのではないでしょうか。JTBは旅行という「おもしろいこ
と」をビジネスにしていますが、それとその仕事がおもしろいということは、
大いに関係はあるでしょうが、しかし明らかに異なります。旅行することと旅
行を仕事にすることの区別がついていない、と言ったらさすがに手厳しすぎる
でしょうが、企業としてはこうしたランキングはそのくらいの目で見ておく必
要があると思います。

チャレンジ精神が足りない?

 大規模、安定、信頼、一流といった志向はどう考えればいいのでしょうか。
以前、NHK衛星放送の番組で、若年労働、特にフリーター研究の第一人者で
ある日本労働研究機構の小杉礼子主任研究員が「かつての大企業への就職のポ
イントは『安定・社会的承認・育成・やりがい』」の4つであり、「育てても
らうことへの期待と、その過程でやりがいを見つける可能性」であって、「現
在これらすべてを満たす企業は少ない」といった内容の発言をしておられまし
た。こうした観点からみると、なるほど人気ランキング上位には、この4つの
ポイントを満たしているのではないかと思わせる企業が並んでいます。
 こうした傾向に対して、今の若者はチャレンジ精神がない、リスクをとらな
い、依存しているなどの批判が往々にしてなされます。しかし、さすがにこれ
は表面的な理解でしょう。企業が求めるチャレンジ精神とは新しいこと、前例
のないことに前向きに取り組むスピリットであり、闇雲にリスクを冒す無謀さ
ではないからです。
そう考えれば、安心(安定)とチャレンジはなんら矛盾するものではなく、む
しろ雇用が安定し、生活に一定の安心感があるほうがチャレンジ精神を発揮し
やすいでしょうし、キャリアづくりや能力開発のためには、技術力やノウハウ
の蓄積のある大企業が有利という考え方もあると思います。
 ただし、安定と社会的承認を提供しやすい有名大企業は、かつてに較べると
育成や働きがいを提供しにくくなっていることも事実でしょう。企業組織が拡
大しなくなった中で、人材育成の重点化が進み、また、高度な仕事を任される
チャンスも減ってきていると思われるからです。それを重視する人は、不安定
さやリスクを覚悟の上で、これから成長が期待できるベンチャーや、参入した
ばかりの外資系企業を選べばいいわけです。残念ながら、そのような企業は、
知名度の低さゆえにランキングにはなかなか登場しませんが、実際に採用の現
場をみてみると、そういうチョイスをする学生さんもかなりの数いるように見
えます(実は、冒頭に書いた企業もそうした企業のひとつで、その動員力には
正直なところ驚きました)。一人ひとりが自分の適性や将来ビジョン、生活設
計などを総合的に考えて、それぞれが合理的に判断しているのであり、大企業
の人気が高いからチャレンジ精神が足りない、というのは偏見だろうと思いま
す。
 残念ながら、依然として新卒者の就職は厳しい状況が続くものと覚悟せざる
を得ません。新卒無業者の増加も心配されています。本来なら企業がなるべく
多くの人を採用するのがいちばん望ましいのですが、この経済不振の中では背
に腹はかえられないのも事実です。すべての学生さんが、自分なりに納得のい
く就職ができるよう、心から願うものです。(本文はすべて筆者の個人的な見
解であり、筆者が所属する会社などとは関係ありません)

               (次回は03月06日に配信する予定です)
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