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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成15年04月28日発行 通巻215号
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 ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研
  究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映
  されていない場合があります。

 大きなヤマ場をこえた今年の春闘

 今季の春季労使交渉、いわゆる「春闘」も大手の回答が一巡し、本号が出る
ころには中小での交渉が進んでいるものと思います。今回は、金属労協大手の
回答を受けての主要6紙の社説を材料に、今季の春闘がどのように捉えられて
いるかを書いていきたいと思います。
 まず、回答結果を概観しておきます。賃上げについては、ほとんどの労組が
ベア要求を行なわず、回答も定昇(賃金カーブ維持分)のみとなりました。
いっぽうで、賞与(一時金)については業績によってのばらつきが大きく、な
かには200万円を超えるような高額の要求・回答も見られました。また、春闘
とあわせて、年功的賃金の縮小や成果主義の拡大など、賃金制度改定の検討が
行なわれている企業が多数見られたのも今季の特徴といえましょう。
 さて、金属労協大手の回答日の翌日、各紙は一斉にこの結果を社説で取り上
げました。

 変わりつつある春闘の役割

 読売の社説は、題名どおり賃金制度の改定に注目しています。「交渉の過程
で、…経営側は、労組側に賃金制度そのものの改定を相次いで提案した。その
交渉が、春闘後に本格化する」「年功部分を極力抑え込み、従業員の貢献度に
応じた成果主義を中心に据えようとする」「かつてない大改革の始まり」と述
べています。そのうえで、「賃金改革は…最終的に、企業の存続・発展と雇用
の安定につながっていくものであってほしい。」「春闘の性格も変わらざるを
得ない。…ベアなどを決める場としての役割は薄れても、経済動向を踏まえ、
主要企業の労使が平均賃金や最低賃金の水準を示し、産業界全体に波及させて
いく場としての春闘の意義は、今後も残る。」と述べ、春闘はその役割を変え
ながらも意義を失わないだろうとしています。経営サイドと金属労協のスタン
スの比較的近い部分を強調した主張といえましょう。
 ただ、ひとつ気になる点もあります。現実には、各社ともかなり以前からこ
うした賃金制度の改定を進めていたと思います。これまで、それがベアと相殺
されて目立ちませんでしたが、このところベアゼロが続いたことで目立つよう
になったというのが実態でしょう。そういう意味では、今年はじめて大きく変
わるという書き方は若干大げさ過ぎるだろうと思います。
 これに比較的近い内容なのが産経新聞で、こちらはもはや題名に「春闘」の
文字はありません。「「賃上げ春闘」は過去のものとなっていた。」として、
賃金制度改革を論じています。「すでに年功序列型の賃金体系は数年前から崩
れつつある…。しかし、最優先である雇用を確保しながら企業がグローバル経
済を生き抜く競争力を保つには、これも避けては通れない」「硬直した賃金体
系を打破し、柔軟でメリハリのきいた体系を構築して企業の活性化につなげる
ことが大事」などと賃金制度改革の必要性と方向性を述べたうえで、「職能や
労働形態が大きく異なるのに横並びでは、ともすれば悪平等になりかねない。」
と、電機連合などが提唱する職種別賃金に理解を示しています。読売以上に経
営サイドに近く、労組に批判的な論調といえましょう。
 ただし、賃金改革に関して、「欧州では企業単位より職種ごと…米国では…
仕事の責任と報酬が労使とも明確」であり、日本には「こうした柔軟性が欠け
ている」との主張には、言葉づかいの問題ではありますが疑問があります。む
しろ、欧米のほうが賃金や仕事が硬直的で、日本は仕事と賃金の関係があいま
いな分だけ柔軟性が高く、それが企業内での雇用維持に資しているというのが
一般的な理解だろうと思います。

 自己改革に迫られる労組

 日経新聞も、ベアから制度改定へという流れのなかでの主張となっています
が、労組に対してさらに批判的で、かなり辛辣です。春闘で定昇(賃金カーブ
維持分)維持の回答が出たのに、これから賃金制度改定の議論に入るのを「実
に分かりにくい」と述べ、労組も制度改正の必要性を理解しているにもかかわ
らず「それなのに維持しろとは矛盾している」と主張します。それでも「「定
昇維持」を要求に仕立てたのは、体裁だけでも「春闘」を守りたいからなのだ
ろう」と推測しています。そのうえで、「看板倒れの「春闘」にしがみついて
いては何も生まれない」「雇用問題や増加するパートタイマーなどの非正規従
業員の労働条件の適正化はもちろん、成果主義賃金をどう軌道に乗せるかなど
の企業内の問題にも有効に対処できていない。労組は組織形態も含めて、早急
に自己革新すべき」と労組の現状を批判しています。
 労組が自己改革を迫られているという結論そのものはおおむね妥当なものだ
ろうと思います。結語として述べられた「企業経営だけでなく日本経済を健全
に保つためにも、進行する労働組合運動の空洞化は見逃せない問題である。」
との指摘は、日本経団連の「経営労働政策委員会報告」や、ひいては「新ビ
ジョン」の問題意識にも通じるものといえましょう。
 ただし、春闘と制度改革についての主張はいささか理解不足といわざるを得
ないようにも思われます。金属労協は、基本的に春季労使交渉では現行制度化
における賃金原資の取り扱いについて話し合い、賃金制度の改訂についてはそ
れをふまえて通年で話し合うとのスタンスをとっているようです。であれば、
春季労使交渉で賃金原資の維持(定昇確保)を確認したうえで、別途賃金制度
の改定交渉に臨むという考え方は、「実にわかりにくい」かどうかは別として
も、決して「矛盾している」ものではないからです(ちなみに、金属労協は主
要各社の交渉もたけなわの2月末に日本経団連に公開質問状を送り、その中で
「本来賃金原資を話し合うべき春季労使交渉において、経営サイドから唐突に
賃金制度改定が持ちかけられている」との趣旨の抗議を行っていますが、これ
はこうした報道に対する抗議という意味もあるように思われます)。

 依然として残る懐古的論調

 さて、残る朝日、毎日、東京の3紙は、労組に対して批判的という点では他
の3紙と共通しているともいえますが、その論調は明らかに異なっています。
他の3紙が春闘のあり方が変容している現実をふまえた議論であるのに対し、
これら3紙は従来型の要求→交渉→回答→決裂→闘争というスタイルの春闘を
前提にしているように思われます。
 その論調の典型が東京新聞の社説にみられます。「低きに倣えに歯止めを」
との題をはじめ、「働く条件を交渉する場なのに、ことしは労働組合の存在感
がことのほか薄い。賃上げなど論外。定期昇給も凍結か見直すとした経営側の
攻勢に、防戦一途だからである。」「働く人たちには、厳しすぎる内容である。
…あえて言えば、前半戦は労組の完敗に近い。」などの主張は、まさに横並び
で名目賃金を引き上げることが依然として春闘の目的であるという認識に立っ
ているように思われます。こうした認識は、制度要求を題に掲げながらも「経
営労働政策委員会報告では、「ベアは論外」と主張するとともに、定昇の凍結・
見直しも労使の話し合いの対象になると強調した。…ナショナルセンターの連
合としても、こうした経営側の主張に真っ向から反論することができない。」
として「春闘の形がい化が指摘されて久しい。…今年の春闘は、その傾向を一
段と加速させた」と述べる毎日新聞の主張にもみられます。朝日新聞の社説は
「中小やパート」との格差の問題提起がメインになっていますが、かつてのよ
うに金属大手の回答が春闘全体の流れを決める「時代ではない」(根拠は不明)
としたうえで、「中小企業やパートで働く人々にとっては、賃上げは切実な問
題」であり、労組はこれについて「目に見える成果を出すことから始めるべき」
と主張しています。「組織作りから手をつけないと「闘い」にはならない。」
といった闘争主義もいまだに残存するなど、やはり旧来の発想から一歩も出て
いないといえるのではないでしょうか。

 デフレ下で実は大きい労組の成果

 しかし、現実を冷静に見てみれば、たしかに名目賃金の引き上げはほとんど
実現していないものの、昨今のデフレ経済、物価下落を考慮すれば、名目では
ベアゼロでも実質では賃上げになっています。前述のように労組にかなり批判
的な日経新聞の社説でさえ、「定期昇給を維持するとの経営側の回答を…金属
労協は今年の「春闘」の結果を前向きに評価した。」「ボーナス回答が合理化
などによる企業業績の回復で総じて上がった」と述べているように、今回の金
属業種の回答は、史上例のないほど多数の労使で「満額回答」が続出していま
すし、高額な賞与の回答も見られます。まさに総じて言えば、名目ベアを捨て
て定昇確保、すなわち実質ベアの確保に精力を集中し、さらに業績好調な労使
では高額賞与を勝ち取るという金属労協の戦術は奏効していると評価すべきで
しょう。

 進む賃金の変動費化

 もう一つ着目すべきなのは、日経新聞が業績好調な企業の賞与の高額回答を
「業績によって増減するボーナスが実質的に中心になり、賃金の変動費化が結
果的に進んだだけのことだ。」と述べたように、賃金の変動費化が進んでいる
ことでしょう。6紙のうち4紙が言及しているパートの問題にしても、賃金水
準や格差もさることながら、まずは賃金の変動費化の観点から捉えて行く必要
があるのではないでしょうか。
 経営サイドはすでに数年前から「短期的な業績はベアではなく賞与に反映」
と主張しており、金属労協の中でも、一定のミニマムの確保を前提にこれに理
解を示す動きもあります。むしろそれが現実的な考え方のようにも思われます。
その一方で、日本経団連の奥田会長は昨年以来繰り返し「物価上昇があればベ
アの可能性もある」ことに言及していますから、未来永劫ベアがまったくない
ということでもなさそうです。
 新聞などの論調はさまざまで、アナクロニズムや目立つ動きに引っ張られる
傾向もなきにしもあらずですが、実際には、金属大手の労使関係の現場では、
より現実を見据えた議論が行なわれているように思われます。おそらくは、そ
れが最善をめざす近道なのだという考え方が労使に共有されているのでしょう。
健全で合理的な判断ではないかと思います。(本文はすべて筆者の個人的な見
解であり、筆者が所属する会社などとは関係ありません)

                  (次回は5月1日に配信する予定です)
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