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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成15年06月09日発行 通巻217号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【労務屋一筆啓上】『両立指標』を考える >>> =================================== ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研 究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映 されていない場合があります。 4月8日に開催された第10回男女共同参画会議に、厚生労働省から「『両立 指標に関する指針』の策定について」という資料が提出されました。これは、 以前のこの会議の決定や昨年7月に閣議決定された「仕事と子育ての両立支援 策の方針について」において、「企業の両立指標を開発・公表する」とされて いるのを受けて策定されたものということです。 「指針」ということですが、具体的な「採点表」も示されており、具体的に は5つのカテゴリに分類された61の項目について、5点、10点、15点の3段階 でウェイトづけしてあります。内容的になかなか興味深いだけでなく、今後の 企業実務にも影響が出てくるものと思われるものです。今回はこれを材料に、 仕事と子育ての両立支援について考えていきたいと思います。 企業にとっても必要な両立支援 さて、今回は男女共同参画会議で両立指標が提示されたわけですが、男女共 同参画に限らず、少子化対策という面からも、両立支援は国家としてきわめて 重要な政策課題であるといえるでしょう。企業に対する社会的要請も大きいと 考えなければなりません。 さらに、中長期的に見れば、企業経営の観点からも両立支援に取り組む必要 性は高いと思われます。労働力人口の減少に直面するわが国では、これまでの ような「男は仕事・女は家庭」「夫婦子二人の生計費賃金」といった画一的な 発想を脱して、人口の半数を占める女性の潜在能力を存分に発揮させることが 求められます。個別企業にとっても、充実した両立支援を提供することが、優 れた人材の確保につながるわけです。加えて、多様な価値観のもとにさまざま なライフスタイルの人たちがともに働く職場には、より創造的な風土が醸成さ れるに違いありません。両立支援は企業の存続のための大きなポイントの一つ ではないかと思います。 そこでこの指標ですが、企業における両立支援への取り組み方の方向性を示 すという意味で、有益なものではないかと思います。一口に両立支援といって もその内容は多様であり、それぞれの企業の業種・業態や経営の実態に応じて、 それぞれ適切な取り組み方があるものだろうと思います。そういう意味で、画 一的な取り組み事項や取り組み手順を示したモデルケースではなく、多くの項 目をウェイトづけして示すことで、その中から、自社の実情に応じて、優先順 位をつけながら取り組み項目を選択していけるようにしてあるのでしょう。 休業重視の両立指標 具体的な項目をみてみると、行政としてなにを重視しているかがわかります。 たとえば、5つのカテゴリとそれぞれの項目数、配点は次のようになっていま す。 1)両立支援(休業):育児や介護のために休業できる制度等 10項目 100点 2)両立支援(勤務時間短縮等):仕事をしながら育児や介護ができる制度等 10項目 80点 3)利用状況:@・Aの制度の利用状況 18項目 100点 4)制度を利用しやすい環境づくり:8項目 55点 5)人事労務管理:その他の仕事と家庭の両立がしやすい制度等 15項目 80点 満点は415点ですが、これを見ただけでも、行政が育児休業や介護休業など の「休業」をいかに重視しているかがわかります。これらはすでに法制化され ているわけですから、行政がこれを重視するのは当然といえるでしょう。現実 には、キャリアの継続を重視する人にとっては、休業制度の充実より、なるべ く休業しなくてすむような両立支援が必要とされているわけですが、これにつ いては託児・保育施設の整備など、企業より行政の役割が大きいことから、企 業の指標としては休業を重視するのが妥当だろうと思います。 また、利用状況にあらためて100点を配分しているのは、「制度はあっても 利用されていない」という批判をふまえたものでしょう。 「経営方針」に高い配点 次に、個別の項目をみていきたいと思います。前述のとおり個別項目は5点、 10点、15点の3段階でウェイトづけされていますが、最高の15点がついている のは全体の1割弱の6項目しかありません。しかも、そのうちの2項目は、育 児・介護のための「短時間勤務」「フレックスタイム」「始就業時刻の繰上げ・ 繰下げ」や「企業内託児施設」「育児・介護サービス費用補助」といったいく つかの制度の中で「2つ以上あれば15点、1つなら10点」という「あわせて一 本」の最高点ですから、実質的には最高点は4項目しかありません。 ◆育児休業制度が法定を相当上回る ◆介護休業制度が法定を相当上回る ◆小学校就学前の子の看護休暇がある ◆積極的な両立支援が経営や人事の方針に明文化されている こうしてみると、行政は「看護休暇」と「経営方針」については法定を上回 る育児休業や介護休業と同様に高い位置づけを与えていることがわかります。 「経営方針」を重視しているのは、企業に自主的に取り組んでほしいという強 い期待の現われでしょう。「看護休暇」がこれほど高く評価されるのは意外と いう感もありますが、すでに法律に努力義務が定められていることもあり、行 政としてはやはり強い期待があるのでしょう。 10点の項目は、前述の「2つなら15点、1つなら10点」の各制度のほかに 11項目あります。うち8項目は育児・介護休業に関するもので、ここにも休業 を重視する姿勢が見られます(具体的には、育児・介護の双方について「法定 を上回る休業制度」「原職復帰」「休業中の情報提供」「休業中の教育訓練」 があげられています)。残りの3つのうち2つは育児休業の取得率で、「少子 化対策プラスワン」で示された「女性80%・男性10%」の目標を達成すれば10 点となっています(平均を上回れば5点とされています)。本当なら15点にし たいところだったかもしれませんが、現状に配慮したのでしょうか。もう一つ は妊娠、出産、育児、介護で退職した人の再雇用制度で、これも行政としては 重視しているのでしょう。 こうしてみてみると、この指標は、行政としてのニーズ、企業の役割、ある いは現時点での実態などにバランスよく目配りされた、よく考えられたもので はないかと思います。 両立指標をどう使う さて、この指標ですが、前述したとおり、各企業が自社の実態を点検、把握 したうえで、経営の実情に応じて、進捗状況とカテゴリごとのバランスを確認 しながら、できることから取り組んでいくための道具として有益だろうと思い ます。行政としても、まずはこうした使途を第一として、今後広く周知・広報 を行い、活用を呼びかけるとしています。今国会に提出されている次世代育成 支援法案では、一定規模以上の企業に行動計画の作成が義務付けられることに なっていますが、その目標としても活用できるのではないでしょうか(なぜか、 指針には記載されていませんが)。 そこまではいいのですが、行政としてはさらに、多くの企業のデータを集積 することで、同業種、同規模、同地域等の企業の中での位置づけが把握できる ようにしていく意向のようです。さらに、この指標結果を企業が対外的な企業 アピールに利用したり、あるいは厚生労働省が実施している「ファミリー・フ レンドリー企業表彰」の選考に活用したりすることも念頭におかれているよう です。こうした使い方もされるとなると、にわかに怪しい雰囲気が漂ってきま す。 他社との比較はむずかしい 問題は、この指標は同一企業を時系列で評価するためには有用であるとして も、異なる企業の比較に使うのには限界があるのではないか、という点にあり ます。行政がいうように、企業がこれを企業アピールに使うとすると、「わが 社は両立指標380点です」「わが社は350点です」といった広告が世間に広く行 き渡ることになります。当然、見る人は380点の企業のほうが350点の企業より 両立支援に優れていると判断するでしょう。これは企業にとってはかなり重大 な問題ですが、その重大さに見合うだけの精度がこの指標にあるとは思えませ ん。 たとえば、この指標では看護休暇制度があれば15点が加算されることになっ ていますが、その期間は考慮されていません。極論すれば、1週間、あるいは 1日でもいいということになります。しかし、1週間の看護休暇を与えている 企業と、看護休暇はないが年次有給休暇の付与・取得が世間より10日以上多い 企業とでは、どちらが両立支援に優れているでしょうか。 もうひとつ看護休暇についていえば、連合が2000年に実施した調査によれば、 1年間に子どもが病気で保育園に預けられなかった日数は平均16.3日となって いるそうです。これは若干実感にあいにくい結果ですが、少数の長期間休む子 どもが平均値を押し上げているのでしょう。 であれば、看護休暇も一定以上の期間がなければ使いにくいということにな るでしょう。しかし、この指標では、看護休暇の期間が1年でも1週間でも同 じ15点になります。 あるいは、前述したようにこの指標が休業を重視していることも問題になり ます。どれほど優れた企業内託児所を整備したとしても、この指標では最大で 10点にしかなりません。いっぽう、育児休業が最大1年1か月取得できれば同 じ10点になります。しかし、両立支援の効果の大きさには大差があるはずです。 こうしたことが積み重なれば、40点か50点くらいは違ってきてしまってもお かしくはないように思われます。 適切な活用を もちろん、ある程度おおまかな傾向の比較にはそれなりに役立つでしょうし、 業界平均に達していないことを数値で示せれば、人事担当者が両立支援策導入 のために経営トップを説得する有効な手段になるかもしれません。しかし、こ の指標はその程度の活用にとどめるべきであり、行政としてこれを企業アピー ルに利用することを奨励し、結果としてこれにお墨付きを与えるようなことは すべきでないでしょう。 また、今後さらにエスカレートして、この指標で目標を設定して行政指導を 行なうとか、政府調達の要件にするといったようなことも考えられるかもしれ ませんが、決して行なうべきではないと思います。(本文はすべて筆者の個人 的な見解であり、筆者が所属する会社などとは関係ありません。また、「指針」 の内容紹介は、指針の文章そのままの引用ではありません) (次回は6月12日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 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