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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成15年02月13日発行 通巻207号
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       <<< 【労務屋一筆啓上】春闘は終焉したか >>>

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 昨年の12月17日、今年の春闘に臨む経営サイドの基本方針を示した日本経団
連の「2003年版経営労働政策委員会報告」(以下「報告」)が発表され、経営
サイドとして「春闘の終焉」を宣言した、ということで話題を呼びました。今
回はこの「春闘の終焉」について考えてみたいと思います。

春闘のはじまり

 この問題を考えるにあたっては、歴史的経緯の確認が欠かせません。実は、
1970年代にも、「春闘の終焉」をめぐる議論があり、1975年には、合化労連の
太田薫氏が「春闘の終焉」という本を出してさえいるのです。
 太田氏は、よく知られているとおり、「春闘の生みの親」といわれる人物です。
1955年に太田氏が八つの単産を集めて賃上げ要求を行なったのがいわゆる
「春闘」の始まりとされています。
 この当時は、各産業・企業の労組が個別にベースアップを要求し、労働争議
が頻発していました。これに対し、経営サイドは長期雇用と定期昇給制を導入
して、労使関係の安定をはかっていた時代です。こうした動きに対抗し、あく
まで定昇を上回る大幅なベースアップを獲得しようというのが、「春闘」開始
の動機でした(こうした経緯を考えると、現在では労組のほうが定昇を死守し
ようとしているのは皮肉です)。

第一の終焉と現行スタイルへの移行

 開始当初の春闘のスタイルは、「前年実績プラスアルファ」の大幅ベースア
ップを要求し、事前に組んだ争議日程にあわせて回答を引き出していく(スケ
ジュール闘争)という、「闘う」春闘であり、1970年代に「終焉した」といわ
れたのは、こうしたスタイルの「春闘」でした。
 転機となったのは、1973年の石油ショックとインフレ、高度成長の終息でし
た。インフレと賃金引き上げ、その価格転嫁による値上げという悪循環に対す
る問題意識が高まり、1975年には、春闘は国民経済との整合性ある賃金決定と
いう考え方への転換を迫られ、インフレ沈静化のために賃上げの要求・回答を
抑制するという方針がとられはじめました。事実、この時期の賃上げ率と物価
上昇率は劇的な推移を見せています(表1)。

表1.春季賃上げ要求・回答と消費者物価の推移

           1973 1974 1975 1976 1977 1978
春闘賃上げ要求(%) 25.0 39.9 32.1 18.1 15.5 12.5
同回答(%)     20.1 32.9 13.1 8.8 8.8 5.9
消費者物価上昇率(%)16.1 21.8 10.4 9.4 6.7 3.4

資料出所 厚生労働省労使関係担当参事官室調べ(賃上げ要求・回答)
     総務省統計局「消費者物価指数」(消費者物価上昇率)

 ※表がずれる場合は、等幅フォントに変更してごらんください。

 ここで、「大幅ベースアップを要求して闘う」というスタイルの春闘は生ま
れ変わることを余儀なくされて、春闘は第一の終焉を迎えたといえそうです。
 それに代わって出現したのが、金属産業−私鉄−公共事業体−公務員という
春闘の賃上げ相場の大きな流れがさらに他の産業、他の企業に及ぶという「相
場形成・波及」の枠組みにより、賃金水準の横断化・社会化をめざすというス
タイルの春闘でした。これが基本的に現在まで続いているスタイルであり、今
回日本経団連が「終焉した」といっているのも、このスタイルによる春闘のこ
とです。

第二の終焉

 経営サイドからは、すでに10年近く前から、こうした春闘のスタイルに対す
る批判が出てきていました。春闘方式による横並びの賃上げがいわゆる内外価
格差問題の原因となっているというのがその理由で、「1995年版労働問題研究
委員会報告」(現在の経営労働政策委員会報告)は、「わが国の高物価体質の
大きな要因が各企業の生産性や支払能力を無視した横並び賃上げによってもた
らされた」として、「先行する金属産業などの賃金決定をみつつ、安易に追随
型の賃金決定を行うという構図の見直し」が必要であると主張しています。そ
して、その後現実に、産別内部でのいわゆる「横並び」が崩れるとともに、
「賃上げ相場形成・社会的横断化」の機能も弱まりました。

表2.大企業・中小企業別賃上げ率の推移(%)

      1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000
a)大企業  5.65 4.95 3.89 3.13 2.83 2.86 2.90 2.66 2.21 2.06
b)中小企業 5.52 4.98 3.91 3.04 2.69 2.64 2.63 2.24 1.67 1.56
b/a     97.7 100.6 100.5 97.1 95.1 92.3 90.7 84.2 75.6 75.7

資料出所 厚生労働省労使関係担当参事官室調べ

 ※表がずれる場合は、等幅フォントに変更してごらんください。

 従来の春闘のパターンとしては、連合傘下の労組がある大企業が先に決着し、
世間相場を形成して、労組がないことも多い中小企業に波及させていくわけで
す。そこで、表2では、1991年から2000年までの10年間について、大企業と中
小企業の賃上げ率の推移を比較してみました。最下段は大企業から中小企業へ
の波及力を見るために、その比率を計算したものですが、90年代後半に明らか
にこれが減退していることが見てとれます。
 こうした実態から、「報告」は、「労組が賃上げ要求を掲げ、実力行使を背
景に社会的横断化を意図して『闘う』という『春闘』は終焉した」と述べるに
至ったのでしょう。日本経団連の奥田碩会長は、この1月15日の「第103回日
本経団連労使フォーラム」における講演で、その理由を二点あげました。
 まずあげられたのはグローバル競争の激化で、「もっぱら同業他社と競争し
ていた時代には横並びで賃金を上げれば相対的に競争力は変わらなかったが、
グローバル競争の時代にそんなことをしたら国内産業全体が国際競争力を低下
させてしまう」という主張です。春闘のはじまりのころに太田薫氏が語ったと
伝えられる「暗い夜道もお手々つないで」云々という状況が消滅してしまった
というわけです。
 次が、日本経済の成長率が屈折した、ということで、「日本の成長率は高度
成長期(平均10%前後)から安定成長期(4〜5%程度)への移行で一度屈折
し、ここで大幅ベースアップの春闘が終焉した。これが、バブル崩壊以降は潜
在成長力2%程度にさらに屈折し、賃上げ要求の春闘も終焉した」という理屈
です。

連合は反論するが…

 さてこれに対する連合の反応ですが、「報告」発表当日にさっそく「2003年
版日本経団連『経営労働政策委員会報告』に対する見解」を発表しています。
その中で「『報告』は、『賃上げを要求して闘う春闘は終えんした』と主張し
ているが、とんでもない。連合の今年の方針は、総合生活改善の視点にたって、
パート労働者等も含めて労働条件の底上げと社会的波及をはかろうとするもの
であり、春季生活闘争の社会的役割はますます重要性を増していることを銘記
すべきである」と反論しています。
 これは少し話が一致していない部分があり、日本経団連が「報告」などで終
焉を主張しているのは社会的横断化をめざしたスタイルの春闘です。実際、連
合自身も、昨年6月の中央委員会では、昨年の春闘中間まとめで「これまでの
上げ幅中心の相場形成・波及パターンは成立し難い」との基本認識を示してい
ますし、今回のミニマム重視路線もその認識に立つもののはずです。連合とし
ては、日本経団連の言い方が賃上げ要求そのものが終焉したとも受け取れるよ
うなものだったので反発したのでしょうが、「パート労働者等も含めて労働条
件の底上げ」というのも本格的に始めたのは一昨年春闘のことですし、春闘の
内容が変わりつつあることには変わりありません。

新しい春闘のスタイルとは

 さて、一応「社会的横断化をめざしたスタイルの春闘」が終焉したとすると、
新しい春闘のスタイルとはどのようなものになるのでしょうか。
 経営サイドも、「社会的横断化」には批判的だったいっぽうで、一昨年の
「2001年版労働問題研究委員会報告」ですでに「われわれは年に一度、自社の
労働条件、経営の実情、さらに企業を取り巻く経済環境の変化などについて、
労使が真剣に論議することは望ましいと考える」と述べているとおり、春闘の
話し合いの場としての機能には高い評価を与えています。今年の「報告」もそ
の路線を踏襲し、「労働条件の交渉から労使協議に軸を移した新しい春季労使
交渉のスタイルを労使で構築していく努力が求められる」と主張しています。
日本経団連の奥田会長は前述した1月15日の講演で、「これからの春季労使交
渉は、労働条件の水準ではなく、経営環境や企業業績などを踏まえたうえで、
望ましい働き方や、人事制度、賃金制度、社会保障を含む福利厚生などについ
て、労使で幅広く問題意識を共有して話し合う場としていくことが望ましい」
と、より具体的な見解を示しました。
 労働サイドにも、ベースアップ要求の見送りだけではなく、春闘で取り組む
テーマを拡大しようという動きが見られます。連合は、1998年の春闘から、従
来の「賃金・時短・雇用」の三本柱に「ワークルール」を加えて四本柱としま
したし、その後も60歳以降の雇用延長やパートタイム労働者の賃金引き上げな
ど、春闘のテーマが多様化しています。今年は、昨年に引き続き雇用の維持・
安定が最重要のテーマになることは確実です。個別労使では、さらに多様な課
題を取り上げようとの動きも見られます。

労働条件も重要なテーマ

 こうしてみると、テーマに対するウェイトづけ(特に賃上げ)には労使間に
温度差はありますが、春闘が労働条件に加えて多様な課題を話し合う場へと移
行していく流れは確実なのではないかと思います。
そのいっぽうで、たとえば賞与については、計算式を決めて業績連動で決める
といった動きもありますが、基本的には団体交渉、それも春闘の際に夏冬型で
決めるのが主流でしょう。また、賃上げについても、今はたまたまデフレで物
価が上がっていませんが、これがインフレになれば物価上昇分をどうするかと
いう議論も出てくるはずです。
 ベースアップが困難だといっても、労働条件が組合員にとって身近で、関心
の高いテーマであることに変わりはありません。多様な課題についての話し合
いを充実させるためにも、やはり労働条件にそれなりのウェイトをおく必要が
出てくるのではないでしょうか。
(本文はすべて筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する会社などとは関係
ありません)

               (次回は02月17日に配信する予定です)
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