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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成15年01月20日発行 通巻204号
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    <<< 【労務屋一筆啓上】進展する総額人件費のリストラ >>>

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 例年この時期になると、来春闘を見据えて、経営サイドから「総額人件費抑
制論」が出てきます。グローバル化が進むなかでわが国の人件費は「世界一」
高く、その抑制をはからなければ企業は国際競争を勝ち抜くことができない、
というわけです。本当に「世界一」かどうかは別としても、企業にしてみれば、
経済不振で生産・販売量が低迷し、さらにデフレで単価がダウンして売り上げ
が減少するというダブルパンチの中で、とにかく人件費をなんとかしなければ
ならないというのは切実な問題でしょう。
 総額人件費論が言い出されてからかなりの年月がたつわけですが、はたして
実際に総額人件費の抑制はどのくらい進んでいるのでしょうか。今回はこれを
この10月に発表された厚生労働省の「平成14年就労条件総合調査」の結果をみ
ながら確認してみたいと思います。この調査は規模30人以上の企業を対象に調
査年の1月1日現在の状況を、年間については前年1年間の状況を調査してい
ます。理屈は荒っぽいものですが、ご容赦いただければ幸いです。

 4年で10%低下した一人あたり総額人件費

 まず、調査にそって一人当たりの数字を見ていきたいと思います。総額人件
費にあたる「労働費用総額」は、常用労働者1人1ヵ月平均449,699円で、前
回平成10年調査の502,004円に比べ10.4%減となっているとのことです。前回
は、前々回の平成7年調査の483,009円に較べて3.9%増となっていましたので、
この数年で大幅に総額人件費の抑制が進んだことが伺われます。この間、デフ
レで物価も下がっていますが、その下げ幅は消費者物価で2%程度、GDPデ
フレーターでも5%程度なので、デフレの進行以上に総額人件費の抑制は進ん
でいるといえそうです。
 それにしても、10.4%というのはずいぶん大幅な減少です。この調査では、
現金給与とそれ以外にわけて見ることができるのですが、それによれば、現金
給与が367,453円で10.3%減、それ以外が82,245円で11.1%減となっています。
ほぼ同程度の減少幅ですが、現金給与以外についても、法定福利費などは原則
として賃金に比例して変動しますので、ある程度は連動してくるということな
のでしょう。

 時間外労働は微減

 現金給与を構成するのは基本的に賃金と賞与です。賞与はともかく、現金給
与の大半を占める賃金については、従来から一般的に強い下方硬直性があると
いわれています。それにもかかわらずこれほど大幅に現金給与が減っているの
はかなり不思議に思えます。その理由は、厚生労働省のホームページで公表さ
れているこの調査の結果だけではわかりませんが、別の統計を使ってある程度
推測することは可能かもしれません。
まず考えられるのは、残業や休日出勤などの時間外労働が少なくなって、手当
が減ったのではないか、ということです。ただ、総労働時間短縮の取り組みの
成果もあって、時間外労働そのものが少なくなっているので、あまり大きな減
少にはなっていません。実際、同じ厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の結果
を見ると、平成13年の所定外労働時間は平成9年に較べて10%ほどの減少にと
どまっています。平成元年と平成5年では30%程度減少していますから、変動
幅はずいぶん小さくなったわけです。実数を見ても年間150時間(平成9年)か
ら134時間(平成13年)へ16時間の減少ですから、一人一月あたり数千円、約
1%の減少にとどまると思われます(時間外労働時間については、統計によっ
て数値が大きく異なることが指摘されていますが、現金給与額を考えるデータ
としては毎勤統計が適切でしょう)。

 減少が続く賞与

 もっと大きいのはおそらく賞与の減少でしょう。この期間、企業業績はおお
むね低迷を続けたわけですが、電機大手が業績連動の計算式で賞与を決めてい
るのに代表されるように、賞与は企業業績に応じてそれなりに変動しますので、
相当程度減少しているものと思われます。実際、同じく毎勤統計を見ると、規
模30人以上の企業の賞与は、平成10年夏から平成13年冬まで、対前年同期比で
-2.1%、-3.8%、-4.5%、-4.1%、-1.0%、-1.4%、+1.0%、-3.0%と、平成
13年夏を除いてすべて減少しています。これを単純計算で積み上げると、夏が
6.5%減、冬が11.8%減となります。現金給与に占める賞与の割合を2割強程
度と見積もれば、これで2%程度減少しているといえるでしょう。ちなみに平
成14年夏は前年同期比-7.4%と大きく落ち込んでいますので、企業業績の悪化
を賞与に反映させる動きはまだ続いているといえそうです。

 非正社員の増加

 さて、これで約10%の減少のうち約3%が説明できたといえそうです。残り
の7%については、単価そのもの、すなわち賃金水準が低下したと考えざるを
得ないと思うのですが、その要因もいくつか考えられます。
 最初に考えられるのは、いわゆる労務構成の変化、すなわち比較的賃金の高
い中高年が減って、比較的賃金の低い若年が増えたのではないか、ということ
ですが、これは高齢化が進んで苦心している実務実感からは考えにくいでしょ
う。データを見ても、たとえば平成7年と平成12年の国勢調査の結果を比較す
ると、就業者は明らかに高年齢の方にシフトしています。
 むしろ、別の意味での労務構成の変化、すなわち「非正社員の増加」の影響
が大きいのではないでしょうか。わが国における非正社員の割合の調査結果と
しては、厚生労働省の「平成11年就業形態の多様化に関する総合実態調査」
による27.5%という数字が有名です。平成6年の同じ調査では22.8%だったと
いうことですから、かなり大幅な伸びを示していますし、現場の実感からして
おそらくは現在まで増えつづけているでしょう。仮に、ごく単純に平成9年か
ら平成13年までこれと同じペースで非正社員の比率が上昇していたとすれば、
約4%くらいの比率増ということになります。非正規社員の中には、年収
「103万円の壁」や「130万円の壁」を意識しながら働く人も多数含まれている
のですから、正社員との賃金格差は大きいものがあります。女性パートタイマ
ーの時間あたり年収(賞与を含んだ比較)が女性正社員の約6割といわれてい
ますので、労働時間の違いや男女の賃金格差なども考えれば、年間の現金給与
額は正社員と非正社員では大差でしょう。仮に、非正社員の現金給与額が正社
員の3分の1とすると、その比率が25%から29%に上昇した場合には(このあ
たりの数字はすべて完全に山勘ですが)、現金給与額は約3%減少することに
なります。かなり大きな効果といえるでしょう。

 転職にともなう賃金ダウン

 さらに、転職にともなう賃金ダウンも見逃せないのではないでしょうか。平
成10年に日本労働研究機構が行った「失業構造の実態調査」によれば、転職し
た人の離職時の平均年収が446.7万円なのに対し、再就職してからの平均年収
は358.5万円で、88.2万円、約20%の減少となっています。経済環境がよけれ
ば転職にともなって賃金も上がることが多いのでしょうが、昨今の景気低迷下
では、逆に転職が大幅な賃金ダウンにつながる状況にあるわけです。それだけ、
倒産やリストラなどでやむにやまれず転職する人が多いのでしょう。この間転
職率はおおむね4%前後で推移していますから、やはりごく単純な計算で、4
年間でのべ16%の人が転職したとすれば、その効果はやはり3%程度に達しま
す。ここまでを積み上げると約9%となります。賃金の下方硬直性がある中で、
必ずしも「賃下げ」を行わなくてもこれだけの現金給与の減少が可能だったわ
けです。
 もちろん、現実に「賃下げ」、ベースダウンも行われていますから、それに
よる減少もあるでしょう。逆に上昇する要因もあるでしょうし、こうしたもの
が重なりあって、4年間で10.3%という大幅な減少となったものと考えられま
す。

 現金給与以外の労働費用

 次に、現金給与以外の労働費用をやはり一人一月あたりで簡単に見てみまし
ょう。最大のものは法定福利費ですが、これは基本的に現金給与に連動します
ので、平成14年調査では41,937円と、平成10年調査の46,868円の10.5%減とな
り、おおむね現金給与とほぼ同率の減少となっています(この間介護保険制度
が導入されていますが、料率が低いこと、被保険者が40歳以上に限られている
ことなどから影響は小さかったようです)。
 次いで大きいのは退職金等の費用の25,862円、その次が法定外福利費の10,
312となっています。特に後者は平成10年調査の13,481円から23.5%もの大幅
ダウンとなりました。このあたりは企業の重点的なリストラ対象でしょうが、
心配なのは、平成10年調査時には1,464円と、平成7年調査の1,305円から、不
況下にもかかわらず12.2%も増加していた教育訓練費が、今回平成14年調査で
は1,256円と14.2%減少し、平成7年の水準をも下回ってしまったことです。
長引く不況の中で人材育成も縮小しているとしたら残念なことです。

 リストラの成果はあがっているが…

 以上の数字は一人あたりですが、この間雇用者数はほとんど横ばいなので、
日本企業の総額人件費は4年間で約1割低下したといっていいと思います。
 こうした状況をどう評価するかは意見がわかれるところだろうと思いますが、
企業のリストラ努力の成果が出ているといえる一方で、いくつかの問題点も指
摘できるだろうと思います。
 紙幅の関係で詳細には書けませんが、ひとつは時間外労働による雇用や人件
費の弾力性が失われていることです。それが非正社員の中でも雇用調整の効き
やすい短期契約や派遣労働への依存の高まりにもつながっています。
 また、失業者が増加していること自体が大きな問題ですが、総額人件費の減
少を見ても、転職者にしわ寄せが行っていることは認めなければならないでし
ょう。
 今後、さらに一段の総額人件費削減が必要であれば、その負担を広く薄くわ
かちあい、失業の発生を抑制する「緊急避難型ワークシェアリング」(所定労
働時間を短縮し、相当分の賃金減を行う)は、もっと積極的に検討されてもい
いのではないでしょうか。その先には、時間外労働による弾力性回復の道も見
えてくると思います。

               (次回は01月23日に配信する予定です)
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