===================================

          *** 労務屋の労働雑感 ***

+++++++++++++++++++++++++++++++++++
        平成15年04月24日発行 通巻214号
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

  <<< 【労務屋一筆啓上】活力と魅力あふれる日本に労組は不要か >>>

===================================

 ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研
  究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映
  されていない場合があります。

 新ビジョンの労組への提言

 前回ご紹介したように、今年の初めに日本経団連が発表した「活力と魅力溢
れる日本をめざして」と題する「新ビジョン」は、労組のあり方にもふれてい
ます。もっとも、その量は多くないので、まず全部を引用しましょう。
 「…労働組合も変革を迫られる。今日、組合員の組合活動への参画意識が低
下しており、労働組合運動が内部から自壊する危機に瀕しているといっても過
言ではない。労働組合は、経営側の幅広い提案を受け、多様化する職場の意見
を集約し、それをもとに労使の話し合いによって解決し、実行に移していくと
いう本来の役割に徹するべきである。」(「新ビジョン」61頁)
 「…働きがい、生きがいといったことをベースに、精神的な豊かさを追求し
たいと人々が考える社会に変わってきているのである。
 労働組合にも、すでにそうした認識を持ちながら、対応の方向性を探ろうと
するところもみられる。しかし、その一方で、多様な働き方は不安定な雇用で
あり、すなわち悪い働き方であるという考え方に凝り固まり、長期雇用の重視
という画一的な発想から抜け出せていないところも依然としてみられる。それ
が、雇用労働関係の規制改革反対の主張につながっているとしたら、きわめて
残念なことである。労働組合には、多様な働き方を受容する懐の深い組織とな
ることを期待したい。」(同71-72頁)
 かなり踏み込んだ内容、特に前者は大胆な提言ですが、これ以上具体的な説
明はありません。そこで今回は、「週刊労働ニュース」2002年7月29日号所
載の、日本経団連の奥田会長の講演(昨年7月、全国労組生産性会議のシンポ
ジウムでのもの)の概要を手がかりに、新ビジョンの描く労組像を考えてみた
いと思います。

 労組不要論ではない

 読んでまず感じるのは、これは労組不要論ではない、ということです。不要
論どころか、労組の役割に大きな意義を認めているといってもいいでしょう。
奥田氏も前述の講演で、「引き続き生産性運動の良きパートナーであってほし
い…外部の目から見ても、組合員の参加意識が低下していることは明らか…労
組が共済などのサービスを買うだけのものであったり、手数料を取って(労使
交渉の)エージェントをするだけのものだったなら、労組の存在価値は皆無に
等しい」と述べ、組合存在の意義について、「すべての組合員が、執行部の指
導のもとで、民主的な手続きで決められた運動方針に則って活動する、『組織
力』にある」と主張しています。これをみると、経営サイドとしても、労使が
協力して生産性を向上し、その成果を適正に配分することで企業の発展と労働
条件の向上をはかるという生産性運動の考え方と、そのパートナーとしての労
組の意義を今後も重視することに変わりはないようです。その上で、その前提
となる労組の組織力の低下を憂慮しているのであり、これが新ビジョンの「労
働組合運動が内部から自壊する危機に瀕している」という危機感につながって
いるものと思われます。

 求められる変革

 その一方で新ビジョンは、労組に大きな変革を求めてもいます。「…提案を
受け、多様化する職場の意見を集約し、…話し合いによって解決し、実行に移
していく」ことを「本来の役割」と言い切ったのは非常に大胆に思われます。
労働組合法第2条は、「この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて
自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的
として組織する団体又はその連合団体をいう。」と定めています。一人ひとり
では使用者に対して圧倒的に弱い労働者が、組織の力で労働条件の向上などに
取り組むのが労組の「本来の役割」ではないか、という反発も当然あるでしょ
う。その意味するところを理解するためには、まず新ビジョンがどのような働
き方をめざしているのかを知る必要がありそうです。

 多様化のなかで

 前回もご紹介したとおり、新ビジョンは「多様性」がキーワードになってい
ます。その基本的な理念は、「これからの経済社会に必要なエネルギーをもた
らすものは個人の多様性である。自分らしく生きたい、個性を活かしたいとい
う気持ちがエネルギーとなる」というところにあります。欧米並みの生活水準
をめざすという「物質的な豊かさ」だけではなく、「自分らしく生きる、個性
を活かす」という「精神的な豊かさ」をも実現しようというわけです。
 これを、働き方やライフスタイルといった観点から見てみると、これまでの
日本人の生き方は「圧倒的多数の男性が長期雇用、年功賃金、フルタイムの正
社員となり、女性は専業主婦か、もっぱら補助的労働に従事する」という画一
的なパターンに縛られてきた、ということになります。しかし、ワンパターン
の中にはめこまれているのでは、「自分らしく」「個性を活かす」ことは難し
いでしょう。実感としても、従来のパターンを飛び出して自分らしく生きたい
と考える人が増えていることは間違いありません。
 新ビジョンはこれを「個人の働き方や意識、価値観が加速度的に多様化しつ
つあるなかで、たとえば仕事を通じ能力を伸ばしたい人だけではなく、働くこ
とで生活の糧を得るかたわら、社会貢献活動などを通じて生きがいを追及した
い人、あるいは仕事と家庭をバランスよく両立させて生活をエンジョイしたい
人など、人それぞれに、さまざまな生き方が模索されはじめている」と書いて
います。働きながら、あるいはキャリアをいったん中断して、大学院などで勉
強する人も増えています。こうしたさまざまな生き方を可能にしていくために
は、働き方もそれに応じて、長期雇用と有期雇用、フルタイムとパートタイム、
直接雇用と派遣労働など、さまざまなバリエーションが可能でなければなりま
せん。新ビジョンがいうとおり、これからの時代には「多様化する個人が、安
心して自ら多様な働き方を選択でき、働きに応じて報酬を得られる仕組みを構
築しなければならない」のであり、「企業は、従業員をすべて共通の目標、価
値観、嗜好を持つマスとして一律に扱うのではなく、多様な個性をもつ個人と
して尊重し、さまざまなメニューを提供していかなければならない。これが従
業員の活力を引き出し、企業収益の源泉となる」のです。

 労組の役割の新しい具体化

 そう考えると、新ビジョンのいう労組の「本来の役割」が、労組法などにみ
られる伝統的な労組の本来の役割と矛盾するものではなく、むしろ一致してい
ることに気づかされます。
 もちろん、労働条件向上には労組の組織力が必要であることに変わりはない
わけですが、多様な価値観の人が多様な働き方をする企業においては、「労働
条件の向上」といっても、その内容もまた多様なものになるでしょう。従来の
画一的な価値観、画一的な働き方のもとでは、雇用の安定、賃金の横並びでの
引き上げといった画一的な「労働条件の向上」をめざせばよかったわけですが、
これからの時代は、やはり賃金だ、という人、休日や労働時間が大事だという
人、自分のやりたい仕事ができるなら賃金も労働時間もこだわらないという人
など、働く人の要望も多岐にわたってくるでしょう。こうした中では、経営サ
イドからの労組への提案もまた幅広いものになることも言うまでもありません。
であれば、多様化の時代においては、「組織の力で労働条件を向上する」とい
う労組の本来の役割は、新ビジョンのいうように「経営側の幅広い提案を受け、
多様化する職場の意見を集約し、それをもとに労使の話し合いによって解決し、
実行に移していく」という形で具体化していくことになるのでしょう。

 過去の画一的発想からの脱却

 それでは、こうした理念はどのような形で具体化していくことが期待されて
いるのでしょうか。もう一度、前述の奥田氏の講演を参照してみると、「労組
が多様な価値観、働き方の意識を持つ人にも、懐の広い受け皿であってほしい
…一定水準の労働条件に加えた別のプラスアルファーがなければ、働きがいが
あるとは言えなくなってきている…その部分をいかにしっかりしたものにして
いけるのかに注力し、多様化の活用に関する建設的な提案を行ってほしい」と
いう発言があります。
 これは要するに、多様な働き方は不安定な働き方であり、悪い働き方だとい
う画一的な発想からの脱却を求めているものと思われます。正社員中心、労働
条件(特に賃金)中心の労働運動から、有期雇用やパートタイマー、あるいは
派遣などといった、より多様な働き方の人たちを幅広くカバーして、働きがい
や個性の発揮といったことにも目を向けた労働運動への進化をうながしている
ものといえましょう。これは新ビジョンもいうように、すでに一部の労組では
高い問題意識のもとに取り組みが進められているところでもあり、経営サイド
としてもこれを後押しする考えを表明しているものと思われます。現実には、
働き方、ひいては価値観が異なる人たちの間には、利害の対立が発生すること
もあるでしょう。そのときに、いかにしてその利害を調整し、取り組みの優先
順位づけをしていくのか、現実の運動においては非常に困難な問題も多いもの
と思いますが、労組の意欲的な取り組みを期待したいものです。それが組合員
の参画意識を高め、組織力の向上にもつながるものと思われます。

 懐の深い組織

 その一方で、新ビジョンも指摘しているとおり、一部の労組には多様化につ
ながる規制緩和に抵抗する動きもみられます。
 もちろん、長期雇用がこれからも重要な働き方のひとつであることは間違い
ありません。また、目下の経済情勢をみると、労組が非典型雇用の増加が人件
費抑制につながるとの問題意識を持つことも当然かもしれません。とはいえ、
中長期的にみれば、規制緩和に反対したり、硬直的な規制の導入を主張したり
することは、確実に進む多様化の流れと、それを望む働く人たちのニーズに逆
行することになります。ひいては、新ビジョンが心配するように、労組が「内
部から自壊する」ことになりかねません。
 多様化という大きな社会変革のなかで、労組が存続し、引き続きその重要な
役割を果たしていくために、労組にはより「懐の広い」組織への進化が求めら
れているのではないでしょうか。(本文はすべて筆者の個人的な見解であり、
筆者が所属する会社などとは関係ありません)

                (次回は4月28日に配信する予定です)
===================================

◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」
 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され
 ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801

◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、
 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す
 る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。
 
◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。
 http://www.roumuya.net/mm/backn.html

◆登録・解除は、次のページからお願いします。
 http://www.roumuya.net/mm.html

◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、
ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。

◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com

◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載
 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。

◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま
 せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、
 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。

===================================

メールマガジンにもどる
バックナンバーのインデックスにもどる