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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成15年04月21日発行 通巻213号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【労務屋一筆啓上】多様性のなかの自立−日本経団連の新ビジョン >>> =================================== ※本内容は、「労政時報」誌に掲載されたエッセイを、発行元の労務行政研 究所様のご好意により配信しているものです。なお、入稿後の修正は反映 されていない場合があります。 今年の1月、日本経団連は「活力と魅力あふれる日本をめざして」と題する 「日本経済団体連合会新ビジョン」を発表しました。「消費税率16%への段階 的引き上げ」や「政党に対する資金協力のガイドライン」などの大胆な主張が 議論を呼んでいますが、雇用・労働に関してもかなり踏み込んだ内容を含んで います。今回はこの新ビジョンから、雇用・労働に関係の深い「第2章」をご 紹介していきたいと思います。 多様性を力にする 新ビジョンの第2章は、「個人の力を活かす社会を実現する」ことを主張し ており、その考え方として、「個人の多様な価値観、多様性を力にする」 「『公』を担うという価値観が理解され評価される」「『精神的な豊かさ』を 求める」「多様性を受け入れる」の4つが提示されています。 新ビジョンはまず、「日本にとって20世紀における近代化の成果は…産業化 の進展を通じた所得の拡大が個人の経済的自立を促した」と述べます。その いっぽうで、「経済的な発展の追求が最優先された結果、個人のライフスタイ ルの画一化が進んだ」と指摘しています。具体的には、雇用・労働の面では 「よい大学に入り、大企業に就職し、定年後は安泰な年金生活を送る」という 画一的な価値観であり、「圧倒的多数の男性が長期雇用、年功賃金、フルタイ ムの正社員となり、女性は専業主婦か、もっぱら補助的労働に従事するという 画一的な雇用関係」であったわけです。 ところが、最優先されていた「経済的な発展の追求」がかなりの程度まで成 功を収めたことによって、このような画一的な幸福の追求からはエネルギーが 出てこなくなったというのが、この新ビジョンの基本的な問題意識となってい るようです。新ビジョンは「経済も企業も、究極的には個人のエネルギーが拠 り所である。かつてのように一律、横並びの目標からはエネルギーは湧いてこ ない」と述べます。それではどうするのか。「これからの経済社会に必要なエ ネルギーをもたらすものは個人の多様性である。自分らしく生きたい、個性を 活かしたいという気持ちがエネルギーとなる」というのが、新ビジョンの提示 した答です。 たしかに、たとえば「定年後は安泰な年金生活」という従来型の生き方に飽 き足らず、熟練技能を生かして海外で技能指導にあたっている高齢者や、「男 は仕事、女は家庭」という旧弊な価値観に納得せず、社会で活躍する女性など の姿を見ると、「自分らしく生きたい」というエネルギーには、相当大きなも のがあるのではないかと感じさせられます。新ビジョンは「最近の若い世代に は、家庭を妻に任せっきりにするのではなく、家庭をともに築こうと考える者 がふえている」とも述べています。昨今のような経済の低迷、雇用失業情勢の 深刻化のなかでは、個性を発揮したいというニーズは顕在化していないようで すが、新ビジョンが想定している2025年には、だれもが「自分らしく生きる」 ことを追求することがあたりまえの世界になっているかもしれません。 働き方はどう変わる それでは、「多様性を力にする」人事労務管理とはどのようなものでしょう か。新ビジョンは、「多様化する個人が、安心して自ら多様な働き方を選択で き、働きに応じて報酬を得られる仕組みを構築しなければならない」「個人の さまざまなライフスタイルに適応できるような、複数の働き方の選択肢を準備 しなければならない」と述べています。さらには、「長期雇用が有利となる退 職金への課税制度や企業年金制度の見直し」など、特定の働き方への画一化に つながる制度の見直しを求めています。そして、それは個人のエネルギーを引 き出すだけではなく、「本来、企業にはさまざまな仕事や役割があり、多様な 人材が必要である」として、企業組織にとってもメリットがあると指摘します。 ここで注目すべきなのは、主張されているのはあくまで「多様性」であり、 長期雇用などの従来タイプの働き方が否定されているわけではない、というこ とです。たとえば、新ビジョンは「これまで一般的とされてきた、一つの仕事、 一つの企業で能力を高めていくという働き方を選ぶ者だけではなく…外部労働 市場において…職業能力が発揮される職場や仕事を選ぶものもふえてくるであ ろう」と述べています(これは日経連の「自社型雇用ポートフォリオ」の考え 方に通じるものです)。あるいは、「成果主義を採用することを即意味するも のではない」とも述べています。 考えてもみれば、従来型のものを全否定するということは、新たな画一性に 陥ることではないでしょうか。多様化のなかでも、従来型のよさは引き続き生 かそうという日本経団連の姿勢は、たいへんバランスのとれたものではないか と思います。 精神的な豊かさ 自分らしく生きる、個性を発揮するということは、まさに精神的な豊かさを 追求するということにほかなりません。新ビジョンは、「自分らしく、いきい きとした人生を全うし、『精神的な豊かさ』を追求していく。そうした観点か ら、私たちは『個人の意志が最大限尊重される社会』を実現していきたい」と 述べ、さらに続けて、「このような社会においては、生き方も働き方も異なる 他人と自分とを比べても意味はない。『他人と同じか、それ以上』ではなく、 『昨日の自分より今日の自分、今日の自分より明日の自分』という考え方が活 力の源泉となっていく。その基準が物質的なものであっても精神的なものであ っても、自分のものさしは自分にしか合わない」と主張します。引用が長くな りましたが、これがまさに多様性、精神的な豊かさの真髄なのでしょう。これ は私たち労使が大切にしてきた生産性運動の精神に通じるものですし、ひいて は日本人の心に根ざした「共生」「知足」といった仏教思想にも通じるもので ありましょう。 人事労務管理に関しては、新ビジョンは「働き方を選べる」という観点から、 「企業の正社員としての道」も含めて、「多様な選択肢の中から自分に合った 働き方を選ぶ」として、企業には「有期雇用や業務委託型など多様な雇用契約 を拡大」「兼業禁止の解禁」などを求めています。また、「家庭をもち子育て をする働き方が不利にならない」という観点から、選択型夫婦別姓制度の導入 や、地域・企業のファミリー・フレンドリー化を主張しています。 外国人とともに働く 新ビジョンは、「多様性の容認という…観点から、外国人も日本においてそ の能力を発揮できる環境をつくり上げることが求められ」るとして、第2章の 最後に一項目を設けて、外国人労働の受け入れを論じています。たしかに、外 国人労働の受け入れは、価値観の多様化をはかるうえで効果的な手段でしょう。 私が注目したいのは、内容もさることながら、外国人労働の問題が将来的な 人口減少や労働力不足との関係ではなく、多様性との関係で取り上げられてい ることです。これは、それだけ多様性を重視しているということに加えて、外 国」人を単なる労働力、不足分の数合わせとしてではなく、日本人とは異なる その価値観を受け入れる、すなわち人格のある人間として受け入れる、という 理念があるのでしょう。欧州諸国では、外国人労働をめぐって不幸な状況も少 なくないと聞きます。そうした事態を招かないためにも、こうした理念が大切 だろうと思います。 新しい「自立」像 さて、もう一つ私が注目したいのは、新ビジョンが「自立した個人」の新し い現実的な姿を提示していることです。最初に、「個人の力を活かす社会」の 4つの考え方、「個人の多様な価値観、多様性を力にする」「『公』を担うと いう価値観が理解され評価される」「『精神的な豊かさ』を求める」「多様性 を受け入れる」を紹介しましたが、新ビジョンは「この4点を理解し、その実 現に努力する個人を、私たちは『自立した個人』と呼びたい」と書いているの です。 ふつう、「自立した個人」といえば、親や他人の世話にならずに生活できる、 経済的に自立した人の意味でしょう。前述のとおり、これはわが国では産業化 の進展を通じてひとまず達成されました。 しかし昨今、経済情勢や雇用失業情勢が大幅に悪化するなかで、「会社をや めても労働市場で高値がつく」とか「独立起業する」、さらには老後の生活や 病気の治療などもすべて、会社にも家族にも行政にも頼らずに生きていけるの でなければ「自立した個人」ではない、というような風潮があります。たしか に、経済的な自立、という考え方を突き詰めていけば、そういうことになるの かもしれません。しかし、これは社会の大多数の人々にとっては、あまりに高 すぎるハードルであり、およそ非現実的で受け入れがたいものではないでしょ うか。 これに対し、新ビジョンは「これまでの家族や地域といった、いわば限られ た身内だけの強い連帯に代わる、ゆるやかでフラットな連帯、健全な相互依存 の関係を構築していくことが大切」と述べています。これは「『公』を担うと いう価値観」に通じるものであり、さらには日本経団連の理念である「共感と 信頼」につながるものでしょう。孤立した個人ではなく、ゆるやかながらも互 いにつながって、助け合う個人が前提にされているのです。その前提に立って、 多様性を力にし、受け入れ、精神的な豊かさを追求する「自立した個人」が中 心の社会の実現を主張しています。もちろん、ときには多様性の容認には大き な困難をともなうかもしれません。しかし、これならば社会の多くの人にとっ て決して越えられないハードルではありませんし、十分に受け入れられる現実 的なものではないかと思います。 新ビジョンの序文には、「国民の大多数が強く支持できる」ビジョンをめざ すと述べられていますが、こうしたところにもその趣旨が現れているように思 います。 労働組合はどうなる? さて、こうした多様化、個別化の流れのなかで、労働組合はどうなるのでし ょうか。新ビジョンには、「労働組合運動が内部から自壊する危機に瀕してい る」というショッキングな記述があります。「活力と魅力溢れる日本」に労働 組合は不要なのでしょうか。残念ながら紙幅がありませんので、これは次回以 降にご紹介させていただきたいと思います。(本文はすべて筆者の個人的な見 解であり、筆者が所属する会社などとは関係ありません) (次回は4月24日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |