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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成16年11月15日発行 通巻273号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< プロ野球の労使関係 >>> =================================== 【作者からのおしらせ】 たいへん久しぶりの発行となってしまいました。申し訳ありません。 作者はこのたび、この9月に発足した「日本キャリアデザイン学会」の公式 メールマガジン「キャリアデザインマガジン」を編集することになりました。 各界の有識者による記事のほか、イベント案内、学会動向などを紹介してま いります。もちろん、私自身も、毎号記事を執筆いたします。「労務屋の労働 雑感」同様、ご愛読いただければ幸いです。 なお、「労務屋の労働雑感」も、若干頻度は落ちるとは思いますが、引き続 き発行してまいりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。 日本キャリアデザイン学会公式メールマガジン「キャリアデザインマガジン」 http://www.mag2.com/m/0000140735.htm 日本キャリアデザイン学会ホームページ http://www.cdi-j.jp/index.htm ---------------------------------------------------------------------- プロ野球はこの秋、球団統合・新規参入問題をめぐって大きく揺れました。 その過程で、労働組合・日本プロ野球選手会がストライキを決行するなど、プ ロ野球の労働問題も大きくクローズアップされました。世間ではこれをめぐっ てさまざまな議論がありましたが、紛争が概ねおさまったいま、今回の経緯を ふまえてプロ野球の労使関係について整理してみたいと思います。 まず、たびたび指摘される「プロ野球選手は労働者なのか」という問題です。 たしかに、高額な契約金や年俸を受け取る選手が「労働者」というのは違和感 がある、という向きもあるでしょう。 プロ野球の場合は、基本的に球団が選手と毎年契約を結び、年俸などもその 際に決定されます。そのかぎりにおいては、選手は球団との間に請負契約を締 結する個人事業主であり、労働者ではないと考えることができそうです。その いっぽうで、選手は試合や練習、あるいは試合間の移動などについても、すべ て所属球団の指揮命令下で就労しており、請負とは明らかに異質な支配従属関 係が認められます。また、用具等は選手が準備するようですが、その他の練習 費用や遠征費用などは球団負担となっているようですから、この点でも純粋な 請負契約といえるかどうかは必ずしもはっきりしません。労働者性を完全に否 定するのも難しいと思われ、実際、プロスポーツ選手には一定の労働者性があ るというのがほぼグローバル・スタンダードであるといえましょう。日本の労 働法では、労働組合法のほうが労働基準法より「労働者」の範囲をゆるやかに 規定しており、プロ野球選手については労基法上の労働者にはあたらないが、 労組法上の労働者には該当するというのが一般的な理解になっているものと思 われます。 次に、プロ野球選手会が「労働組合」なのか、という問題がありますが、こ れについても、すでに地労委の資格審査を通過していますし、選手会が近鉄と オリックスの合併差し止めを求めた仮処分申請においても、東京地裁・東京高 裁とも決定文のなかで選手会について労組法に基づく団体交渉権があるとして いますから、まずまず労働組合としての適格性に問題はなさそうです。労働組 合法は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つこと、労働組合を 組織し、団結することを擁護すること、団体交渉をすること及びその手続を助 成することを目的としています。今回、選手の高額年俸がしきりに話題にされ、 選手会のストライキを「億万長者のスト」と批判する論調もありましたが、現 実には球団と対等に交渉できるのはごく一部のスター選手に限られ、大多数の 選手に対しては球団が交渉上圧倒的に優位にあるとみるのが常識的でしょうか ら、この点からも選手会は労働組合であるといえそうです。また、いかに年俸 が高額でも、選手であるかぎり「監督的地位にある」とはいえそうもありませ んから、年俸が高額だから労働運動をしてはならないという議論も的を外して います。 それでは、選手は労働者、選手会は労働組合であるとして、使用者は誰にな るのでしょうか。実は、このあたりから難しくなってきます。常識的に考えれ ば、選手はそれぞれ独立した株式会社たる各球団と契約して、各球団の監督・ コーチの指示に従って就労しているわけですから、球団が使用者ということに なります。今回のケースにしても、近鉄とオリックスの合併にともなう労働条 件の問題であるなら、まずは近鉄とオリックスの選手会が各球団と交渉するの が普通の考え方でしょう。ところが、それがそうならないところに、プロ野球 の特殊事情があります。すなわち、通常の企業合併であれば、合併後の従業員 の雇用や所属、処遇等については、各企業の判断または両企業の協議によって 決まってくるわけですが、プロ野球の場合は、後述するように球団が選手と独 自に契約できるのは原則として年俸だけであり、合併時の選手の処遇は基本的 に合併球団の意思ではなく、日本野球機構(NPB)の野球協約によって決め られます。野球協約の変更等は両リーグ会長と各球団の代表者によるNPBの 実行委員会で決められるとされていますので、この点においてはNPBに使用 者性が認められるでしょう。したがって、球団合併時の選手の処遇について選 手が交渉しようとした場合、その相手方は球団ではなくNPBになることにな り、東京地裁、東京高裁がNPBに団交応諾義務があると判断したのも妥当と 考えられます(いっぽうで、選手会が本件合併に関して「回避努力を尽くさぬ 整理解雇である」といった主張を行ったのは、選手が労基法上の労働者ではな いと考えられる以上、無理があるといえるでしょう)。 このような事情は、球団合併のような特例時だけに限りません。具体的にあ げれば、第一に、球団と選手との契約は、年俸の金額などを別にすれば、野球 協約に定められた統一契約書によっており、その内容は球団・選手の合意があ っても変更できないとされています。簡単な比較はできませんが、一般的な民 間企業に例えれば、業界全体で就業規則を統一しているようなものです。 第二に、選手が在籍球団と契約を締結しようとしない場合は、「任意引退選 手」となり、他球団との契約もできないこととされており、球団サイドに契約 の意思がない場合に限って「自由契約選手」となって他球団との契約が可能で あるとされています。これは野球協約上選手との交渉権は所属球団が独占する という扱いになっているためで、請負契約であればこうした扱いは考えられな くはありません。労働契約であるとしても、統一契約書にもあるように選手は 「特殊の技能」を持つわけで、一種の競業避止特約と考えることもできなくは ありませんが、どちらかというと選手の自由な移籍を制限し、プロ野球内の秩 序を維持することを目的としていると考えるべきでしょう。いっぽう、日本の 球団が直接の対戦を行わない外国のプロ野球との交渉までも禁じているところ をみると、日本のプロ野球として海外のプロ野球に対する競業避止の意図があ るように思われます。 第三に、選手の球団間の移動、いわゆる「トレード」については、球団が一 方的に、選手の同意なしでできることととされています。これは、野球協約上 は選手契約の譲渡となっており、選手は統一契約書で球団が契約を譲渡できる ことを承諾することと定められています。請負契約であれば、こういうしくみ も考えられなくはないでしょう。しかし、これは一般的な民間企業における労 働契約では、仮に同職種で子会社への転籍出向であっても本人同意が必要と解 されているのと際立った対照をなしており、こと「労使関係」という枠組みの 中ではかなり違和感があります。 第四に、新人選手に関しては、ドラフト会議で指名された場合(新人選手の 大多数はこれに該当します)には入団交渉権が特定球団に独占され、選手は球 団を選択することができません。これについては、戦力均衡化というプロ野球 独特の特殊事情によるものですが、一般的には、請負契約であれ労働契約であ れ常識的には考えにくいと思われます。 これらの実態を踏まえれば、請負契約としては選手は球団に支配・拘束され ているとしても、こと人事管理という面ではNPB(の野球協約)に支配・拘 束されていると考えたほうがすっきりするように思われます。企業組織で類推 すれば、小規模な統括会社のもとに、きわめて大きな裁量権を持った12の子会 社があり、就業規則や各社の要員枠、おもな新入社員の配属先および各社間の 人事異動のルールのみ統括会社が決めていて、あとは子会社に任されている、 といったイメージに近いのでしょうが、しかしこの「統括会社」は子会社をト ータルした連結決算を行わず、営利団体ですらないのですから、やはり民間企 業には類のない独特のしくみであるといえるでしょう。 そう考えると、今回、選手会がNPBに団交を求めたのは正当であるとして も、合併する球団の選手が他の球団とも自由に契約できるようにしてほしいと いう要求したのはいささか理屈にあわず、むしろ合併球団が契約しなかった選 手は他球団が救済するとしたNPBの対応のほうが、まさに「解雇回避努力」 に相当する、筋の通ったものだったといえそうです。また、現行のFA制度や ドラフトの自由獲得枠制度も、本来はプロ野球全体の活性化を意図して構想さ れるのが理にかなっており、直接的に選手の報酬の向上を意図するのは筋違い ということになるのではないでしょうか。 さらにいえば、本当に巷間言われるように選手の高額年俸が問題であるなら ば、ここまで人事管理をおさえているNPBは、それなりに年俸問題にも介入 していくという姿勢が求められるのかもしれません。 (次回は11月22日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま 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