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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成16年05月13日発行 通巻259号
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        <<< キャリアデザイン「学」への期待 >>>

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 2003年4月、法政大学に「キャリアデザイン学部」が開学しました。1期生
の入試には3,820人が殺到、合格は333人でしたから競争倍率は実に11.5倍にの
ぼりました。同じタイミングで新設された私学の学部は26ありますが、そのう
ち倍率が10倍を超えたのは人気の薬学部2学部とびわこ成蹊スポーツ大学スポ
ーツ学部を加えた4学部のみ(資料:河合塾ホームページ)ですから、「キャ
リアデザイン学部」がいかに時代の要請にこたえたかがわかります。これを受
けて2004年入試で代々木ゼミナールがつけた偏差値は55で、法政の他学部と遜
色ありませんから、やはり新設学部としては大健闘といえましょう。ちなみに
受験料は私学経営のきわめて重要な収入源といわれていますから、この学部新
設は大学経営の面でもおおいに貢献したわけで、これをみて他大学がいくつか
追随の動きをみせているのもむべなるかなです。
 しかし、企業で人事・労務を担当する実務家の立場からすれば、この「キャ
リアデザイン学部」という名称にはどことなく違和感があるのではないでしょ
うか。端的に考えて、実務家各位が採用面接にのぞんだときに、「キャリアデ
ザイン学部」の学生を積極的に採用するでしょうか?もちろん、これはひとえ
に各社のポリシーによるわけですが、ごく大雑把に考えれば、「キャリアデザ
イン学部」の学生は転職しやすいのではないかとか、担当業務にこだわりが強
くて柔軟性を欠くのではないかとかいった心配が先に立ちそうです。これに限
らず、実務家からみると「キャリアデザイン」なるものは大切なもののように
思える一方で、ぬぐいがたい「うさんくささ」を感じさせるものでもないかと
思います。
 これはなぜか?を考えてみると、思い当たるフシがいくつかありそうです。
そのなかでも最大の理由は、「キャリアデザイン」ということばが「転職」を
不可分のものとして連想させるからではないでしょうか。キャリアデザインと
いう概念はおもに米国において発達をみており、したがってその体系化も米国
流の転職がかなり活発な労働市場を前提としています。それゆえ、そこに転職
なくしてキャリアデザインなし、という発想が強いとすれば、たしかに私たち
企業の実務家にはあまり関係のない話ということになりましょう。
 とはいえ、一方で「キャリア」ということば自体はわが国でも多くの実務家
にとって身近なものであるはずです。実際、実務の場面で個別人事の担当者や、
あるいは職場の上司などが「彼のキャリアは・・・」などと口にすることは多い
でしょう。
 それはほとんどの場合、「社内キャリア」を意味するのではないでしょうか。
長期雇用のもとで、OJT中心の内部育成による効率的な人材育成を重視して
きた日本企業にとっては、社員一人ひとりの能力開発や動機付けという観点か
ら社内キャリアの形成は非常に重要です。したがって、多くの企業がより効果
的かつ自律的な社内キャリア形成のために自己申告制度や公募制度、企業内F
A制度などのしくみを導入しています。
 つまり、労働慣行には国によって相当の違いがある以上、それぞれの国の実
情に応じた「キャリアデザイン」の考え方があってしかるべきだ、ということ
にはならないでしょうか。それにもかかわらず、日本に米国流の概念をそのま
ま持ち込んだのでは、違和感があるのは当然といえましょう。
 もうひとつの問題点は、こうした日本の労働市場に合致した概念ができあが
らないままに、コマーシャルベースでことばだけが先走ってしまっているとこ
ろにありそうです。このところの不況や、それにともなうリストラの進展のな
かで、転職を余儀なくされる人はたしかに増加しており、しかも好条件での再
就職がきわめて困難な状況にあっては、米国直輸入でなにやらありがたげな感
じのする「キャリアデザイン」ということばを商売道具にして一儲けしようと
いう「人材ビジネス」業者が増殖する条件はそろっています。さらに、そのよ
うな風潮を象徴するかのように、「キャリア・コンサルタント」とか「キャリ
ア・アドバイザー」とかいった「資格」(?)を認定、授与する組織、団体も
かなりの数出現しています。もちろん、これらの人材ビジネス業者や団体など
は、多くの場合誠実で良心的な活動を行っているでしょう(そうでなければ長
続きはしないはずですし)。しかし、なかには失業者の厳しい状況につけこむ
かのような業者などもみられるといわれます。こうしたものの存在が、どこと
なく「キャリアデザイン」ということばに怪しげな印象を与えているのではな
いでしょうか。
 しかし、現実には、「キャリアデザイン」は職業生活だけではなく、学校か
ら職業への接続(これは教育の分野に入ります)や、さまざまな段階で介在す
る可能性のある職業訓練やリカレント教育、さらには引退過程や引退後まで含
めた生涯学習・生涯教育、ひいては生き方全般にかかわる概念です。それはす
なわち、個人にとっては一度しかない人生をいかに生きるか、という大問題に
直結するものです。それほどに大切なものに対して、現状のわが国がこうした
貧困な理解にとどまっていることは、大きな損失かもしれません。
 そう考えれば、キャリアデザインというすぐれて学際的な分野について、単
なる外国からの輸入や商業主義ではない、体系的な研究と理解を進めていくこ
とは、まさに時代の要請といえるのではないでしょうか。キャリアデザインそ
のものとともに、「キャリアデザイン『学』」が求められているのです。これ
は社会科学と人文科学が融合した立派な学問分野なのであり、その考え方や理
論、知識は企業人としてもおおいに有用なものとなることが期待できるのでは
ないかと思います(つまり、その卒業生も採用に値する可能性があるのではな
いか、ということでもあります)。。
 いっぽうで、キャリアデザイン学にきわめて重要な位置を占めると思われる
社内キャリア形成・開発に関しては、これはまさしく私たち企業の実務家がそ
の主要な担い手のひとりとなるものです。したがって、キャリアデザイン学に
対して実務家が貢献できる可能性は大きく拡がっているのではないでしょうか。
 このように、キャリアデザイン学は実務家にとって、ひいては産業界にとっ
ても、大きな期待と関心を寄せるとともに、積極的に関与していくべき対象で
はないかと思います。
 まだ広く知られているところではありませんが、いま、こうした時代の要請
を受けて、「日本キャリアデザイン学会」の設立準備が進められており、本年
9月の設立をめざして、この5月22日には設立準備大会が予定されています。
私自身もその趣旨には大いに賛同するものであり、多くの人たちの参加が得ら
れることを期待したいと思っています。

 ※日本キャリアデザイン学会の情報は、下のホームページでご覧になれます。
  http://www.cdi-j.jp/

               (次回は05月20日に配信する予定です)
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