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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成16年06月03日発行 通巻262号
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         <<< コミック作家のキャリアパス >>>

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 最近キャリアデザインづいている私ですが、「コミック作家のキャリアパス
に関するアンケート調査結果」という資料を発見しました。要するにどうやっ
て漫画家になったか、ということだと思うのですが、なんとこの調査、「経済
産業省商務情報政策局文化情報関連産業課」と「東京大学工学部総合研究機構
俯瞰工学部門」が共同で実施したという、まことにお堅い代物です(「総合研
究機構俯瞰工学」がなんのことなのかわからんぞ、という方(私もこれで初め
て見ました)はhttp://metatechnica.t.u-tokyo.ac.jp/top.htmlをごらんくだ
さい)。その趣旨は「コミックは、その経済的波及効果も非常に高く、マンガ
→TVアニメ化→映画化→キャラクター商品、と多様に戦略的活用される元と
なることも多く、我が国コンテンツ産業全体を下支えする重要なコンテンツ分
野である」ので、「優れたコンテンツを創り出す我が国コミック作家の成長要
因を解明することを目的として」実施されたもの、ということです。ちなみに
実施期間は2003年11月から2004年1月で、コミック作家230人から回答が寄せ
られ、結果は2004年3月に発表されています。
 コミック作家のキャリアパス、といっても今ひとつイメージがわきにくいの
ですが、まずキャリアの内容として、「コミック作家はどういった経験をして
プロとなったのか」については、「編集部への持ち込み」を経験したコミック
作家が73.0%で最多、次に「漫画コンテスト」65.7%、「プロ漫画家のアシス
タント経験」50.0%、「同人誌販売経験」45.2%、「美術系学校」44.3%とい
う結果が出ています。当然、複数の経験を持つ人も多いことになります。
 次に、キャリアの時間軸として、これらを何歳ころに経験したかをみると、
「プロ漫画家のアシスタント」を除いて19-21歳にピークがあり、漫画コンテ
ストは10代における経験率が高いいっぽう、同人誌販売経験は22歳以降も経験
する人が多くなっています。「美術系学校」は19-21歳にはっきりしたピーク
があり、25歳以降では他に較べて明らかに低くなっています。「プロ漫画家の
アシスタント」は唯一22-24歳にピークがきています。たしかに、中学生・高
校生では漫画家のアシスタントといっても難しく、可能な経験は漫画コンテス
トにほぼ限られるでしょう。その後、高校卒業後に直接、あるいは美術系学校
を経て漫画家のアシスタントとなったり、編集部への持ち込みや同人誌の販売
などを経験するというのが、コミック作家のキャリアパスのイメージというこ
とになりそうです。
 そうしたキャリアのなかで、「コミック作家は、どういった経験により漫画
が上達したと感じているのか」をみてみると、「独学」が72.6%と圧倒的に高
くなっています。その次がぐっと下がって「プロ漫画家のアシスタント経験」
が39.6%、「編集者のアドバイス」が36.1%、「サークル活動」が20.9%とな
っています。多くの人が経験している「漫画コンテスト」や「美術系学校」は
10%台前半にとどまっており、これを見るかぎり技能の向上にはあまり役にた
っていないという結果が出ています(「同人誌販売経験」という選択肢はあり
ませんが、「サークル活動」と概ね重なり合うと考えていいのでしょうか)。
この結果をどうみるべきなのかは漫画界にうとい私にはなんともわからないの
ですが、「プロ漫画家のアシスタントは使い走りばかり」だとか、「美術系学
校は役に立たない」ということではなく、これらの経験をそれなりに生かした
にしても、大部分は独力で腕を磨いた、というコミック作家の自負の現れとみ
るべきなのでしょう。
 さて、この資料にはさらに年代別と売上別の分析が掲載されています。その
なかから興味深いものを拾ってみましょう。
 年代別は12年刻みで、調査年に30歳以下、31-42歳、43-54歳、55歳以上の4
グループに分けられていますが、「経験」と「上達要因」ともに、若手作家は
「美術系学校」が高くなっているかたわら、「プロ漫画家のアシスタント」は
31-42、43-54歳に較べて30歳未満が明らかに低い傾向があり、キャリア形成が
徒弟的な修行から学校への勉強へと「近代化」している様子がうかがえます。
いっぽうで、「編集部への持ち込み」は今も昔も有効、という結果が出ていま
す。同人誌販売経験は1961年-1972年生まれの作家が突出して多くなっており
これはこの資料でも指摘されているとおり「1975年が「コミックマーケット」
誕生の年」であり、「サークル活動等を通して横の繋がりを求める時代背景が
関係している」ということなのでしょう。
 売上別は、自作のみが掲載されたコミック本(いわゆる「コミックス」とい
うものでしょうか)の売上冊数が「10万部未満」「10万部以上100万部未満」
「100万部以上」という区分になっています。これだと当然経験年数の長い人
が売上が多い区分に入ってきやすいというバイアスが発生しそうですが、一応、
「無名に近い」(10万部も売っていればそれなりに有名でしょうが)「中堅」
「有名」といった区分になるのでしょうか。
 やはり、「経験」と「上達要因」をみてみると、かなり大雑把ではあります
が、「無名に近い」ほど「美術系学校」や「同人誌」が高い傾向があるのに対
し、「有名」ほど「プロ漫画家のアシスタント」や「編集者のアドバイス」が
高いという傾向がみてとれます。年代によるバイアスが入っていると考えるべ
きでしょうが、それにしても理論より実践、同人よりプロが成功につながると
いう結果は興味深いものがあります。
 また、「有名」は「無名に近い」と比較して、早い段階(10代)で漫画コン
テストを経験した比率が明らかに高くなっています。これは、この分野におい
ては少年期から経験を積むことが有効であるということを示しているのでしょ
うか、あるいは有名になるだけの素質の持ち主は早い段階から頭角を現してい
た、という、ある意味みもふたもない現実を表しているのでしょうか。その両
方なのかもしれませんが。
 発表資料ではさらに、漫画のジャンル別の分析も試みられていますが、さす
がにこれは漫画に詳しくない私にはよく理解できません。ご関心のあるむきは
発表資料をごらんください(http://www.meti.go.jp/policy/media_contents/
downloadfiles/comicanketo/comicarrierpass.pdf)。
 さて、こうしてみると、コミック作家というかなり特殊な職業人の世界にお
いても、「若い世代ほど専門教育を受けている人が多いいっぽうで、成功につ
ながるのは理論的な学習より実践的な経験であり、同レベルの仲間との交流よ
り、先輩や上司によるOJTや助言である」というように、キャリアという点
ではサラリーマンと共通する部分がかなりあるように思われます。失業対策と
しての職業訓練の限界を示す傍証でもあるでしょう。
 そのいっぽうで、「上達要因」で圧倒的に多くの人が「独学」をあげたのは、
さすがに専門能力を生かして自営しようというプロならではの意識の高さと素
直に受け取るべきでしょう。この点については、われわれサラリーマンは大い
に見習ってもよいのではないかと思います。

                 (次回は6月7日に配信する予定です)
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