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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成16年04月08日発行 通巻255号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【書評】男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット >>> 佐藤博樹・武石恵美子著 中公新書 =================================== 一昨年(2002年)9月に発表された「少子化対策プラスワン」は、男性の育 児休業取得の目標として「配偶者が出産した男性の10%」を掲げて世間を驚か せた。実際には、「プラスワン」が主張するのは「男性もふくめた働き方の見 直し」であり、育児休業取得率はその象徴的な指標として取り上げられたのだ が、「10%」という数字の高さのせいか、これが突出して注目されてしまった 感がある。 この本は、書名のとおり、「男性の育児休業」が働く人と企業にとってどの ような意味をもつのかを、アンケートや聞き取りなどの結果をもとに解き明か している。第1章では、男性の育児休業の現状を確認し、それをもたらす個人 の意識、企業の風土などが概観される。第2章では、働く人の意識が変わるな かで、企業が育児支援をふくむファミリー・フレンドリー施策を実施すること の必要性と、その望ましいあり方が述べられる。第3章は、男性による育児休 業取得の個別事例をもとに、その実態と効果が紹介される。第4章は諸外国に おける男性の子育て支援策が紹介された後、今後の方向性としてワーク・ライ フ・バランスの考え方を提示する。第5章では、男性の育児休業取得を促進す るために、企業がとるべき具体的な方策が提案される。「男性の育児休業」に ついて、現状分析から具体的な施策の提案までをカバーしたまとまった文献は おそらく本書が初めてと思われ、今後の検討や議論のプラットフォームとなる 貴重なものであろう。多くの人事労務担当者や管理職に読まれてほしい本だと 思う。 本書の数多い特長のうち、ここでは3点とりあげたい。 その第一は、企業経営者や人事労務担当者にとって現実的な観点から書かれ ていることだ。世間では、「育児休業を所得できないのは企業が悪い」とか、 さらには「企業は当然の権利である育児休業を取得させないことで不当に利益 を得ている」といったような、「企業は育児休業をコストとして当然に負担す べき」といった論調が、行政(厚生労働省)をふくめて支配的であるように思 われる。それに対してこの本は、いくつかのデータや調査結果をひきながら、 男性の育児休業取得の企業にとってのメリットの可能性を指摘するとともに、 休業中の職場の現実的な対応方法を提示することで、男性の育児休業が企業に とって単なるコストではなく、活性化や動機づけ、ひいては風土改革にもつな がるということを主張している。育児支援策などのファミリー・フレンドリー 施策が企業業績の改善につながるということは、まだ事例やデータの蓄積が十 分でないこともあり、現時点では必ずしも明らかに実証されているとまではい えないものと思われるが、この本はその可能性についてかなり説得的に論じて いるといえよう。 第二は、多様なあり方と自由な選択を尊重する立場から冷静に書かれている ことだ。世間の一部には、「家事も育児も男女が平等に負担すべき」といった 教条的な男女平等論が依然として根強くみられ、育児休業の議論でもともすれ ばこうした画一的な価値観を押し付けるような感情論がみられがちだ(「女性 の負担が過重」との思いによるものと推察され、情において無理からぬものが あるとは思うが)。しかし、大切なのは従来の画一的な価値観を脱して自由な 選択を可能とすることであり、新たな画一的な価値観で縛りあげてはならない ことはいうまでもなかろう。残念ながら、この本でも一部に(とくに第3章) やや情緒的な議論や表現もみられるが、これは男性の育児休業の事例があまり に少ないことなどから致し方のないところであろう。 第三は、少子化対策としての育児休業の限界を認識したうえで書かれている ことだ。この本は男性の育児休業の本なので、当然それ以外の少子化対策につ いてはほとんど言及されていないが、しかしこの本を読むと、育児休業が多様 な少子化対策のなかのひとつ、それもあまり有力でないひとつに過ぎないこと が感じられるのではあるまいか。普通、本のテーマについてはそれがいかに重 要かを訴えるものであり、あえてそこを抑制したバランス感覚はみごとだと思 う。もちろん、それは男性の育児休業が持つ象徴的な意味合いの価値を減じる ものではないだろう。 長期間仕事を休むことによって、キャリアや出世、報酬といったものの一部 を失うことを承知のうえで、育児に参加することでそれ以上の幸福感を得たい と考える人は、おそらくこれから増えていくだろう。現時点では、雇用失業情 勢が悪いゆえに、個人のこうした変化は目立ちにくい。しかし、潜在的にはす でにかなりのニーズがある可能性もある。 であれば、男性の育児休業取得率10%という社会の到来は、思ったより遠い 将来ではないのかもしれない。それがどのようなものになるのかは、まだわか らない。しかし、少なくとも生き方の選択肢が増えるという点においては、よ り豊かな社会になるといえるはずだ。そう思わせる本である。 (次回は4月12日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |