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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成16年12月27日発行 通巻275号
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         <<< 岩隈投手移籍問題と人事管理 >>>

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 統合球団オリックス・バファローズへの参加を拒み、新球団楽天ゴールデン
イーグルスへの移籍を希望していた岩隈投手が、結局希望どおり移籍するとい
うことで決着する方向になったようです。優秀な社員が職場の運営に不満を持
ち、人事異動を希望する、というのは民間企業でもそれほど珍しいことではな
い、というよりはざらにあることっですから、これは人事管理という観点から
も興味深い事例といえそうです。今回は、人事管理という面から、岩隈投手移
籍問題を考えてみたいと思います。
 さて、民間企業では、自己申告制度などを利用して人事異動に本人の希望を
反映させている企業も多くあります。それでも、基本的には人事権は経営の専
権事項であり、最終決定権はあくまで企業にあるというのが大半の企業の考え
方でしょう。プロ野球選手は雇用契約ではなく請負契約であり、トレードも企
業内の人事異動ではなく企業間の移籍ですが、球団に強い保有権を認めた野球
協約や統一契約書が適用されているため、トレードと企業内人事異動は事実上
かなり類似した部分があります。バファローズの小泉球団社長も「保有権は球
団にとってきわめて重要」と発言しているようです。したがって、岩隈投手の
希望にそのまま応じることは、組織秩序の維持においては大問題であり、バフ
ァローズがこれに難色を示したのは当然でしょう。
 それでも結局移籍を認めたのは、それなりに合理的な理由と、そうせざるを
得ない事情があったのだと思われます。もちろん、企業(球団)イメージのダ
ウン、というのも人気商売であるプロ野球では非常に大きい問題だったでしょ
うが、人事管理の観点からの判断も働いているのではないでしょうか。
 まず、放出にともなうデメリットから考えてみたいと思います。まずはなに
より、主戦投手を放出するわけですから、球団成績に与える影響は当然大きい
ものがあることは当然です。ただ、常識的に考えて、ここまで組織への忠誠心
も士気も低下してしまった状態では、期待ほどの成績は残せないと考えるべき
でしょう。したがって、成績に与える影響は昨年の実績ほどには大きくないだ
ろうということには注意が必要です。
 ただし、人件費という観点からみると、岩隈投手の今季の推定年俸は6,500
万円ということで、成績と比較して案外高くないという印象です。もちろん、
残留すればかなりの年俸アップが予想されますから、この金額そのままで考え
るわけにはいきませんが、比較的コストパフォーマンスのいい選手を放出する
ということは、そうでない場合に較べてデメリットは大きいと考える必要があ
りそうです。
 それに加えて、もちろん、組織の秩序が混乱するというのも人事管理上大き
な問題でしょう。移籍を希望しながらバファローズで稼動せざるを得ない選手
たちには不満もあるものと思われますし、他の選手が次々と岩隈選手に続こう
とするのではないかとの懸念も一部にはあるようです。
 とはいえ、今回は選手やファンの大方の意向を無視した統合とい背景がある
ため、世論の大勢は球団に反発し、岩隈投手には同情が集まっているという特
殊事情があることには注意しなければなりません。他球団の有力選手が、単に
起用や采配などへの不満から移籍を希望しても、おそらくは世間の支持は集ま
らなず、むしろ批判を受けるだろうと思われます。そもそも、起用や采配に不
満を持つ選手は多いはずで、それでも移籍希望がそれほど出てこないのは、そ
うした事情があるからでしょう。また、並の選手であれば、移籍を希望したと
ころで「文句があるなら干しておけ」という民間企業ではありがちな(?)現
実的な対応ですんでしまうでしょうし、シーズンオフには球団としても強く引
き止めておこうとはしないでしょうから、自由契約にして自力で転籍してくだ
さい、ということになるものと思われます。
 こう考えると、バファローズ、あるいはプロ野球全体の秩序への影響は、そ
れほど大きくはないと考えられそうです(ことによると、現行のフリーエージ
ェント制のほうが混乱を招いているかもしれません)。
 次に、放出することのメリットですが、まずは金銭トレードの見返りとして
得られるキャッシュがあり、報道では約2億円といわれています。フリーエー
ジェントによる移籍の場合は、金銭での補償なら前季年俸の1.5倍とされてい
ますから、単純に比較できないにしてもかなりの好条件といえましょう。また、
岩隈選手が在籍していれば支払っていたであろう年俸を払わなくてすむわけで
すから、上下ではかなりの金額となります。今回の球団統合がそもそも経営困
難を理由としていたことを思えば、これは無視できないメリットでしょう。あ
るいは、この金額(の一部)を投じて強力な外国人選手を補強できれば、さら
に大きなメリットとなる可能性もあります。
 また、人事管理的には、統合球団の融和、チームワークの確保という観点は
無視できません。野球は団体競技ですから、当然ながらチームワークが重要で
すが、そもそも今回の合併は両社の労組が大反対(とりわけ「吸収される」側
の旧近鉄バファローズの選手の反発は強いでしょう)するなかで強行されたも
のでしたから、融和とチームワークの確立は統合チームにとってきわめて重要
な課題のはずです。そうしたなかで、主戦投手のひとりがこうした状態では、
チームワークに対するかなりの悪影響は避けられないでしょう。旧近鉄の礒部
選手を統合球団がプロテクトから外したのも、本人の希望を尊重したというよ
りは、融和をはかるためには致し方ないとの判断だったのでしょうし、旧オリ
ックス・近鉄の双方で監督の経験がある仰木彬氏を監督に招いたことをみても、
統合球団は融和促進をかなり重視しているものと思われます。
 これに加えて、球団イメージの問題などを総合的に判断して、放出もやむな
しという結論に達したものと思われます。部外者である私にはなんともいえま
せんが、感覚的には理解できる判断のように思われます。
 とはいえ、球団合併の目的は経営改善のほかに、「強くする」という意図も
あったはずで、「分配ドラフト」でも統合球団に優先枠が設定されていました。
その点から考えれば、今回岩隈投手を放出せざるを得なかったことは大いに問
題と受け止められているのではないでしょうか。
 そこにはさまざまな問題があるでしょうが、やはり一連の合併の動きにおけ
る労使のコミュニケーションの決定的な不足、とりわけ経営サイドからの説明
不足にに最大の問題があったと言わざるを得ないのではないでしょうか。それ
はひいては、日常的なコミュニケーション不足、説明不足を反映しているはず
です。
 民間企業では、あえて人事の秩序維持に逆行するような社内FA制度を導入
する例が増えています。所属上司の同意が不要なばかりか、上司には拒否権が
ない、あるいは一切知らされないといったラディカルな制度も決して珍しくあ
りません。これは、社員を活性化させるということもさることながら、管理監
督者に対して、優秀者が飛び出していかないようにきちんとした職場運営を行
い、魅力ある職場づくりに努めるようにとのメッセージがあることは言うまで
もないでしょう。職場運営への説明責任を果たすことはその大前提です。企業
経営全体をみても、経営陣と社員の意思疎通がまずければ、どこでも通用する
優秀者はどんどん転職していってしまう時代になっています。
 それに対して、プロ野球のFA制度は、およそ活性化にも職場運営の改善に
もつながっていないように思われます。FAによる年俸の不合理な上昇はたし
かに問題ですが、そもそも高額年俸を得るプロ選手が、カネだけのために働く
とも思えません(年俸は単なる金額ではなく、選手への評価であるという側面
もありますが)。もちろん、勝負を争う仕事ですから、瞬時の判断で必ずしも
合理的な説明のできない判断や、目的のために選手に犠牲を強いるような、説
明しにくいドライな判断を求められる場面は、一般企業に較べてはるかに多い
だろうと思います。とはいえ、高額年俸が本当に球団経営悪化を招いているの
であれば、それは経営サイドがすべて(とは言わないまでも、ほとんど)をカ
ネで片付けようという稚拙な人事管理を行っていることの帰結であるというの
は、門外漢の素人の思い違いでしょうか。

               (次回は来年1月6日に配信する予定です)
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