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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成16年03月11日発行 通巻252号
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         <<< 公益通報者保護法と人事管理 >>>

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 一昨日(9日)、公益通報者保護法案、いわゆる「内部告発保護法案」が閣
議決定され、今国会に提出されるはこびとなりました。
 2000年に大手自動車メーカーのリコール届出をめぐる法違反が内部告発(と
思われる通報)によって発覚したころから、いわゆる内部告発に類する通報に
よる企業等不祥事の発覚が相次ぎました。それにともない、こうした内部告発
に一定の社会的意義を認め、不利益取り扱いからの保護を法制化すべきとの意
見が強まってきました。
 当初は、あらゆる内部告発を広範に保護すべきとの意見が声高に唱えられた
こともあり、悪意による密告まで保護されるとその濫用によって正常な企業活
動が不可能になるばかりか、社会秩序の崩壊すら招きかねないとの懸念も取り
ざたされましたが、さすがにその後議論が重ねられたことによって内容も洗練
され、今回の法案はまずまず穏健な内容にとどまっていると評価できるように
思われます。
 例によって簡単に内容をみてみますと、基本的な趣旨としては公益通報を理
由とする解雇の無効を定め、不利益取り扱いを禁止することで、公益通報者の
保護を図るとともに法令遵守を図ろうということのようです。
 公益通報とは、労働者が不正の目的でなく、その労務提供先に犯罪行為等の
事実が生じ、またはまさに生じようとしている旨を、労務提供者またはその定
めた者、当該行為の事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関、
あるいは当該行為の「発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要で
あると認められる者」(要するにマスコミとか消費者団体など)に通報するこ
と、ということになるようですが、このそれぞれにまた制限がおかれています。
 まず、労働者には、従業員だけでなく派遣、請負、退職者も含み、公務員も
含むとされています。「不正の目的でなく」というのは、恐喝、加害などは当
然、主として個人的利益をはかるものでないことが求められています。「公益
通報」ですから当然といえましょう。あまり光のあたらない部分ですが、行政
官庁等に寄せられるいわゆる「密告」には、悪意や敵意にもとづくものや、一
方的な思い込みにもとづくものが相当部分を占めるという話もあります。怨恨
や個人的愉快のための密告が保護されるべきでないことはいうまでもありませ
ん。また、米国では解雇が容易に行われることから、労働者が保身のために公
益通報保護制度を「活用」するケースが多々あるといいます。わが国でも、労
働組合に加入することで「労組加入を理由とする解雇」を主張しようという労
働者がみられますから、雇用失業情勢がまだまだきびしいおりから、決して起
こりえない事態ではありません。保護に際しては、通報の公益性はきちんと検
証されるべきでしょう。
 次に、「犯罪行為等」というのは、法違反や不祥事をすべて指すわけではな
いようで、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令に規
定する罪の犯罪行為」に限られるようです。当面、法案では刑法、食品衛生法、
証券取引法、日本農林規格(JAS)法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個
人情報保護法が列挙され、「その他は法施行までに政令で定める」とされてい
ます。もともと内閣府の原案には500弱の法律が列挙されていましたが、公職
選挙法や税法などは「国民の生命・身体・財産その他の利益の保護」にかかわ
らないということで含まれていませんでした。
 これに関しても、もっと対象となる法律を広くとるべきだとか、一部には法
違反に限らず不道徳な行為もすべて対象とすべきといった極論もみられるよう
ですが、あまり対象を広げるのも問題だろうと思います。従来から、企業の法
違反などに関する内部告発を理由とした解雇が解雇権の濫用であるとして無効
とされてきた裁判例はいくつも存在します。公益通報者保護法案は多分に最低
基準的性格を持つものであり、ここで保護の対象とならなくても、裁判によっ
て解雇や労働条件の不利益変更に合理的理由なしと判断されることは十分あり
えます。そうした事情を加味して考えれば、税法や公職選挙法などを個別に議
論すれば異論もあるのかもしれませんが、何らかの形で簡素な規制を行う必要
がある以上は、「国民の生命・身体・財産」の危険がある、というのはかなり
妥当な線引きではないでしょうか。
 通報先については、企業などの労務提供先およびその指定した者(顧問弁護
士や労働組合、あるいは内外の「企業倫理ヘルプライン(相談窓口)」など)
といった内部通報については、不正の目的でなければ(誠実性があれば)保護
対象となります。行政機関への通報については、誠実性に加えて、通報内容が
真実であるか、真実であると信じるに足る相当の理由がある(真実相当性)こ
とが保護の条件となります。さらに、マスコミや消費者団体などへの外部通報
については、誠実性と真実相当性に加えて、外部通報が適切であることが求め
られます。具体的には、不利益取り扱いを受けるとか、証拠の隠滅や破壊のお
それがある、内部通報後一定期間(骨子では2週間ですが、報道によると20日
とされたもよう)以内に調査の通知がない、危険が急迫しているといったもの
です。さらに外部通報先については、通報の「内容、程度等に応じて、被害の
未然防止・拡大防止のために相当な通報先」であることも求められています。
 これは、事実上外部通報に内部通報・行政通報を前置したという点では妥当
なものといえるでしょう。最近、企業による品質不具合品の自主回収などが目
立ちますが、法の目的とする法令遵守を実現するためには、こうした企業みず
からの取り組みを促していくことが望ましいと考えられるからです。行政とは
いっても外部には違いなく、そういう意味では通報に真実相当性が求められる
ことは当然で、さらに行政通報にも内部通報を前置してもよかったのではない
かと思います。
 外部通報の保護に条件が付されたのは、自分たちの活躍の場面が狭められる
と考えるマスコミや消費者団体などには非常に不評なようで、そのせいでこの
法案自体が実態より悪く報道されていることも若干懸念されます。しかし、マ
スコミの影響力は多大であるうえ、どうしても「不正」が強調された報道がな
されがちな傾向があることも否定することは難しいという実態がある以上、安
易な外部通報は企業に過大なダメージを与える危険性が高く、やはり一定の制
限は必要でしょう。ましてや、十分に「ウラをとる」こともなく報道してしま
うような報道機関や、「ウラをとる」だけの調査能力のない消費者団体などに
ついては、「相当な通報先」とはいえない、とされるのもやむをえないことで
はないかと思います。
 このようにみてみますと、細部についてはともかく、当初懸念されたような
問題の大きな法案にはならなかったといえるのではないでしょうか。
 さて、それではこの法案が企業の人事管理にどのような影響を与えるかにつ
いて考えてみたいと思います。
 もちろん、公益に反するような行為が行われないことが最重要であることは
いうまでもなく、経営トップや法務セクションなどと連携し、企業倫理の確立
と職場管理体制の強化・刷新に常に取り組んでいくことは、今日の人事部門に
とって最重要の課題といえましょう。
 次に、実効性ある「企業倫理ヘルプライン(相談窓口)」の構築も重要な課
題といえましょう。法務セクションが中心となって弁護士事務所や会計事務所
などへのヘルプラインを設置する企業が多いようですが、こうした施策は単一
ではなく、いくつかの選択肢を準備することが重要です。社内の相談体制の整
備や、産業医・医療機関等との連携、あるいは労働組合との連携などには、人
事部門の役割も大きいのではないかと思われます。また、労使間の安定的な信
頼関係が成立していることが大前提となりますが、労働組合にも公益通報対象
として一定の役割を果たすことを期待したいものです。
 それに加えて、内部通報があった場合の対応についても、関係セクションと
連携して準備しておく必要があります。今回の法案骨子では、書面で内部通報
があった場合には、「事業者は、犯罪行為等の事実の是正措置をとったときは
その旨を、犯罪行為等の事実がないときはその旨を、当該公益通報者に対し、
遅滞なく、通知するよう努めなければならない」とされています。また、前述
のとおり、通報者に対し調査を行う旨の通知が一定期間なければ外部通報の理
由となります。したがって、通報者にどの段階でどのようなフィードバックを
行うのかをあらかじめ検討しておくことが必要と考えられます。
 もうひとつ重要なポイントは、現実に保護すべき公益通報者が発生した場合
に、その保護をきちんと担保するということです。通報者は、職場の上司や同
僚から快く思われていない可能性も高いと考えておく必要があり、こうした場
合には、会社として解雇や労働条件の不利益変更などを行わなかったとしても、
職場レベルでのいやがらせや、評価上での不利な取り扱いなどが行われる危険
性は無視できません。人事部門としては、そのような問題が発生しないよう十
分ウォッチするとともに、場合によっては人事異動を行うなどの配慮も検討す
べきでしょう。
 逆に、その裏返しとして、悪意によって虚偽や誇張のある通報を行った人に
対しては、就業規則などの定めにしたがって適切かつ厳正な処置をとることが
必要であることもいうまでもないでしょう。
 企業倫理をめぐる問題は、仮に悪意がなく、あるいは不可抗力であったとし
ても、対応によっては企業に大きなダメージを与えかねません。公益通報者保
護の問題もまた同様といえましょう。内部通報者は多くの場合は従業員であり、
あるいは企業内部で働く派遣や請負といった人たちですから、経営トップや関
係セクションとの連携のなかで、人事部門も当然この問題にはしっかり取り組
んでいく必要があるでしょう。

                (次回は3月15日に配信する予定です)
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