===================================

          *** 労務屋の労働雑感 ***

+++++++++++++++++++++++++++++++++++
        平成16年03月03日発行 通巻249号
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

   <<< 【書評】虚妄の成果主義−日本的年功制復活のススメ >>>

           高橋伸夫 著  日経BP社

===================================

 ここにきて、さしもの猖獗をきわめた「成果主義」の流行もようやく下火に
なってきたようだ。かつて「先進事例」ともてはやされた企業が、次々とその
見直しを余儀なくされている。この本はおそらく、こうした流れを不動のもの
とする決定打になるだろう。
 なぜ、決定打になるのか。まず第一には、この本世間的に「成果主義的」と
呼ばれるあらゆるものはうまくいかない、ということを明らかにしたからだ。
 かつて「報酬は能力や年功ではなく成果(個人の業績評価)によって決める
べきだ。大きな成果をあげた人にはこれまで以上の昇給で報い、成果の上がら
ない人はしかるべく減給して、格差を大きくしてメリハリのある処遇をすれば、
賃金総額を抑制しながら従業員の意欲を高めることができる。」このような
「成果主義」の教義は、デフレのなかで人件費負担に苦しむ企業にとってまこ
とに甘美なものに響いたわけだが、いまではこれが幻想であったことに気づい
ていない企業は少数だろう。しかし、年齢ではなく成果によって支払うべし、
という成果主義の主張は、多くの人にはどう考えても正論に思えるし、業績好
調な企業でも成果主義は導入されている。だからどうしても「うまくいかない
のはやり方を間違っているからではないか」と考えたくなる。成果主義を売り
込んだり、導入に関与したりした人ならなおさらだろう。
 これに対して、この本は経営学の理論と、著者自身の調査した事例をもとに、
「うまくいく成果主義などない」ということを示してみせる。実際、たとえば
本書でも紹介されているように、賃金を引き下げたときの意欲低下は大きいが、
賃金を引き上げることの動機づけへの効果は限られているということは、すで
に50年以上前にわかっていたことなのだ。
 そして、この本が決定打になる第二の理由は、成果主義賃金ではない、効果
的な動機づけの方法を提示しているからだ。
 実は、これもそれほど目新しい話ではない。それは内発的動機づけ、すなわ
ち「仕事そのものが報酬」という考え方だ。そして、将来の自分の仕事につい
て長期的な期待が見通せることだ。本書では、10年間にわたって蓄積された貴
重なデータをもとに、仕事における「自己決定度」と満足感、そして将来に対
する「見通し」と満足感とにあざやかな相関があることを示している(「見通
し」と「退職願望」の逆相関もみごとだ)。これをみて、成果主義の幻想を完
璧に払拭するに足る明快な説得力を感じるのは私だけではないだろう。なぜな
ら、長期的な期待を見通すためには将来のために今を犠牲にする精神が必要で
あり(著者はこれを「未来傾斜原理」と呼ぶ)、それには長期的な雇用と労働
条件の安定が必要だからだ。これはすなわち「日本型年功制」そのものである
というのが著者の主張だ。そして、それは多くの企業の人事担当者の実感にも
まことによく一致するものであるに違いない。もちろん、成果に対して処遇す
るという考え方を全面的にギブアップする必要はないわけで、その限界をよく
理解したうえで、たとえば賞与の決定などにバランスよく応用していくことに
知恵を出すのが人事担当者というものだろう。くわえて、現実にはポスト詰ま
りや仕事詰まりの制約のなかで、こうした「見通し」をすべての人に示すこと
は簡単なことではない(それが、人事管理が成果主義導入に傾いた背景のひと
つとなったことも事実だろう)。しかし、「見通し」の大切さがこれだけ明ら
かに示された以上、それをなんとか可能としていくことを考えるのが、私たち
人事担当者の仕事ではないかと思う。
 実務的な観点からひとつだけ要望を書くと、この本では「成果主義が導入さ
れていて、業績も好調、社員も元気という企業もあるではないか」という主張
に対する反論が十分でないように思われる。現実には、こうした企業では、成
果主義そのものではなく、その導入と同時に実施されたさまざまな環境整備が
効果をあげていることが実証的に示されている。こうした成果にも言及されれ
ば、より成果主義への批判が徹底されたものとなったのではないか。
 さいごに、この本が現在のように「決定打」となりうる絶好の時期に出版さ
れたタイミングのよさも特筆すべきであろう。しかも、この本は経営学の理論
や計量分析なども扱っているにもかかわらず、記述が平易で、事例も多く紹介
され、じつに読みやすくわかりやすい。よく売れているようだが、それもうな
ずける話で、まことによろこばしいことだ。できるだけ多くの人に手にとって
もらい、この考え方が広がることを期待したい。

               (次回は03月04日に配信する予定です)
===================================

◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」
 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され
 ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801

◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、
 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す
 る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。
 
◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。
 http://www.roumuya.net/mm/backn.html

◆登録・解除は、次のページからお願いします。
 http://www.roumuya.net/mm.html

◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、
ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。

◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com

◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載
 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。

◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま
 せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、
 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。

===================================

メールマガジンにもどる
バックナンバーのインデックスにもどる