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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成16年04月12日発行 通巻256号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 「オー人事!」 >>> =================================== 人材ビジネス大手のスタッフサービスといえば人事担当者にはおなじみの会 社ですが、最近ではサラリーマンのありがちな苦悩を巧みにパロディ化したC Mが評判で、「オー人事」の会社として広く有名になっています。そのスタッ フサービスで、元従業員の自殺について遺族が労災申請と労基法違反の告発を 行うという事件が起きているそうです。 新聞報道などで事情を確認してみますと、申請・告発したのは昨年12月に自 殺した当時32歳の元副支店長の遺族です。この元副支店長は、昨年夏からうつ 病で通院していましたが、営業社員に降格された翌日の昨年12月2日に自殺し ました。遺族などの主張によれば、元副支店長の勤務実態を示す資料はなく、 同僚や退職した社員などから聞き取り調査した結果では「同社の営業担当者は 午後6時ごろに帰社し、その後打ち合わせを行い、帰宅は午後10〜11時。休日 出勤も多く、残業時間は1カ月間で100時間を超えると推定される」のだそう です。元支店長はみずから営業するだけでなく部下の管理や指導にもあたって おり、また、営業目標の達成度を「人格を否定されるようなののしりも受け」 るほどに上司に厳しくチェックされていたということで、遺族などは「自殺は 過酷なノルマと長時間労働のせい」だとして、労災保険の給付を申請するとと もに、スタッフサービスと同社の関西営業本部副本部長を労働基準法違反(割 増賃金の不払いと思われます)で告発した、ということのようです。会社や上 司に対して損害賠償を求める訴えはまだ起こされていないようですが、通常の パターンから考えればいずれ起こされるでしょう。遺族の代理人は、「タイム カードもなく業績第一で、労働者を扱う人材派遣業にあるまじき会社だ。同社 のCMでは上司や部下に恵まれなければ転職するよう勧めているが、同社こそ 転職先を求めて電話したくなるような勤務実態だった」などと批判しているの だとか。いっぽう、スタッフサービスは「遺書もないということで、自殺の原 因については現状では思い当たる事実を確認できていない。ご遺族の方々に、 今後とも誠意をもって対応させていただく所存」と、とりあえず冷静なコメン トを出しているようです。 さて、この事件には二つのポイントがあるようです。ひとつは「自殺が業務 に起因する労災かどうか」、もうひとつは「割増賃金不払いなどの労基法違反 があったかどうか」ということになるでしょう。報道や遺族の主張はこれらを 一体に混同しているようですが、本来はまったく別の問題のはずです。 第一の「自殺が労災か」という点に関しては、就労の実態が重要な判断材料 になるわけですが、報道されているのは遺族などの一方的な言い分なので、必 ずしもうのみにはできません(遺族などが同僚や「退職した社員」などから聞 き取りをしたのですから、無意識のうちにそこに誇張などが含まれてくるだろ うと考えるのがむしろ自然だろうと思います)。とはいえ、スタッフサービス も「思い当たる事実を確認できていない」とはいいながら、「今後とも誠意を もって対応させていただく」といっているところをみると、就労実態に問題が あったという意識はもっているように思われます。遺族などの主張が大筋にお いて事実であるとすれば、最近の労基署や裁判所の判断などをみるかぎり、こ れも労災と判断される可能性が高いのではないかと思います。 問題は、会社や上司の責任をどう考えるかですが、遺族などの主張にもある ように、とりあえずは「残業100時間」という勤務をこなしていたことも事実 であり、会社が「思い当たる事実を確認できていない」というのもわからない ではありません。副支店長から営業社員への降格も、一見過酷な仕打ちにみえ ますが、業務負荷、負担の軽減のためにはそれなりに意味のある対応といえる でしょう(もっとも、それが結果として自殺の引き金を引いてしまったという 主張もありうるでしょうが)。とはいえ、このところ行政や裁判所は、企業に 対して、管理職であるか否かにかかわらず、従業員の健康管理をかなり強く求 める傾向を示しているようです。職場で見たところ元気そうだった、というだ けでは就労実態や健康状態を十分に管理していたとは評価してもらえないので はないかと思われます(しかも、現実に降格という対処をしているのですから、 なんらかの異状は確認されていたのではないかと思われます)。タイムカード がないからすなわち就業管理が不十分、ということにはならないと思いますが、 それならばそれなりにきちんとした管理が行われていたのでないかぎり、会社 は一定の責任を問われることを免れないように思います。 上司に関しては、会社だけでなく上司も名指しで告発しているところからみ て、遺族の個人的怨念がかなりあるように思われます。まあ、遺族にしてみれ ば、直属上司に対して「あいつに殺された」といった感情的な怒りを覚えるだ ろうとは思います。ただ、営業である以上は目標があるのは普通であり、管理 職が目標の達成に一定の責任を求められることもまた普通です。中間管理職は しょせんは会社の方針や目標に従って動くしかありません。明らかに健康状態 に大きな不具合が認められるにもかかわらず放置していた(今回はとりあえず 降格して仕事を軽減してはいるようなので、これには該当しないでしょうが) とか、会社が勤務実態や健康状態の把握を指示していたにもかかわらず無視し ていた、といったことであれば責任は重いでしょう。いっぽうで、ときに厳し すぎる叱責があった、という程度であれば、あまり大きな責任を問うことは過 酷に失するように思います。 次に、第二の「労基法違反か否か」という点です。 遺族などは「時間外勤務手当も支払われておらず、労基法違反は明らか。男 性の自殺は、過酷な業務による精神的、肉体的疲労が原因だ」と主張している ようです。 すこし脇道に逸れますが、労基法違反があれば会社の責任をさらに追及でき ますから、遺族などがこうした論法をとるのは作戦としてはわかります。しか し、本質的には長時間労働などの「過酷な業務」が問題なのであって、割増賃 金が支払われたとしても、長時間労働は長時間労働であり、過酷な業務は過酷 であるに変わりはありません(まあ、多少は気分的な違いはあるかもしれませ んが)。繰り返しになりますが、労基法違反があることは会社の管理体制の不 備を示す事例ではあるので、作戦としては有効かもしれませんが、理屈で議論 する上においては、就労実態の把握と割増賃金の支払とはきちんと区別する必 要があると思います。 そこで、この元副支店長のケースが労基法違反(割増賃金の不払い)にあた るかどうかですが、これはひとえにこの元副支店長が労基法の一部の適用を除 外される、「管理・監督の地位にあるもの」に該当するかどうかにかかってく る問題だろうと思います。これは「名称にとらわれず実態に即して判断」すべ きとされていますので、今回もこの元副支店長の業務や責任・権限の実態によ って判断されるものと思います。 実態がわからないのでなんともいえませんが、遺族なども元副支店長は部下 の管理や指導を行っていたと主張していますから、それなりに指揮命令する部 下もあり、管理職としての実態もあったものと思われます。もちろん、部下が いればすなわち「管理・監督の立場にあるもの」であるとはいえない(たとえ ば、駅の助役は管理・監督の立場にあるものにあたらないという判決もありま す)わけですが、この支店には専任の支店長がおらず、この元副支店長が事実 上の支店長として運営されていたらしいという話もあります(これは確実な情 報ではありませんが、元副支店長の上司が関西営業本部副本部長だったらしい ので、一応その可能性はあるように思います)。スタッフサービスのホームペ ージによれば、同社の社員は約4,200人、登録している派遣スタッフは79万人 (うち稼動71万人)、拠点数は168ということですから、単純計算で1拠点あ たり25人程度の社員がおり、4,700人以上の派遣スタッフが登録し、4,000人以 上が稼動していることになります。これだけの規模の拠点を任されていたので あれば、これは「管理・監督の地位にあるもの」に該当する可能性が高くなる でしょう。 繰り返しになりますが、労基法違反か否かは実態として管理・監督の地位に あるかどうかによって判断されるべきものであり、一部のマスコミにみられる ような、「100時間も『残業』があったのだから不払いであり、労基法違反で ある」といった単純な論調は明らかに誤った理屈だろうと思います。 スタッフサービスの2002年の売上高は1998年の3.5倍ということで、この間 に市場が1.7倍程度に拡大していることを除いても、たいへんな急成長といえ るでしょう。ベンチャー企業が成長する過程においては、従業員はとにかくが むしゃらに働くという時期もたしかにあるのでしょう。とはいえ、そこにはや はり一定の管理が必要なことも間違いないのではないかと思いますし、スタッ フサービスにも誠意をもって対応との姿勢はあるようですから、今後は改善さ れるものと思います。いっぽうで、だからといって管理・監督の地位にあるも のの範囲を不適切に狭くすることはあってはならないでしょう。行政の適切な 判断を期待したいものです。 (次回は4月15日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |