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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成16年12月20日発行 通巻274号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 太田市、男性職員の育休義務化へ >>> =================================== 群馬県太田市では、子どもが生まれた市の男性職員全員に合計6週間の育児 休業の取得を義務づける方向で検討に入ったそうです。 新聞報道などによれば、結婚時などの特別休暇制度の取得理由に追加して有 給化し、1ヶ月につき連続1週間、1歳までに計6回の取得を規則で義務化す るということのようです。さらに休暇後には「育児研修日記」などの報告書を 提出させる予定だとか。同市の清水聖義市長は、慣例にとらわれない大胆な施 策で全国的に知られる名物市長ですが、「『育児は女性』との意識を改革する ために、大胆な一歩を踏み出したい。制度があっても男性が利用しないのでは 意味がなく、太田市から環境を変えていきたい」と話しているそうです。 まことに思い切った取り組みで、その意気込みは立派なものだと思います。 とはいえ、ちょっと考えただけでも、さまざまな問題点が浮かび上がってく ることも事実です。 まず、この制度は男性に限るということで、女性職員の育児休業は従来のま ま無給だということです。新聞報道でも指摘されていましたが、これは制度的 には明らかに男性に有利、女性に不利な差別的なものです。これについて市は 「男女平等の立場から批判はあるかもしれないが、まずは男性が育児に取り組 む環境づくりが必要」と、そこは承知のうえとコメントしています。男性の育 児参加、固定的な性役割意識の解消といった実質的な男女平等のためには、一 時的な制度的不平等は一種の男性に対するポジティブ・アクションのようなも ので、致し方ないということでしょうか。それはそれであり得ないことはない 考え方かもしれません。 次に、6週間もの有給休暇となると、費用面でもかなりのものになるはずで、 例年の実績からは30人程度の取得が見込まれるということですから、仮に月給 が30万円とすれば6週間で45万円程度、これが30人ですから1,350万円という 負担が発生することになります。決して小さな負担とはいえず、少なくとも民 間企業ではなかなかできない取り組みでしょう。自治体である以上は、これは 住民の税金でまかなわれていると考えるべきでしょうが、はたして住民がそれ に見合ったメリットがあると納得してくれるかどうかが問題です。実際、群馬 県が県内の各地域別に、住民を対象に実施している「予算編成県民懇談会」が、 12月4日に伊勢崎佐波地区で開かれましたが、そこでは太田市のこの施策に対 して「住民感情を無視している」「補助金漬けの行政は、選挙を意識している から」などという批判が出されたそうです。「教育」という位置付けを与えて いるのは、これを通じて職員がレベルアップすれば市民にもメリットがあると いう意味もあるでしょうし、清水市長は「子育てや教育環境の整備は少子化対 策だけではなく、長い目で見れば地域の力の向上につながる」と述べているそ うですが、必ずしも納得は得られていないようです。 また、この制度で父親を休ませても、それだけでは父親が育児をするとは限 らない、という問題があります。毎月1週間、という休み方では、フルタイム で働く母親に代わって父親が育児をする、という姿は求めようもありません。 となると、休みはしたものの育児は相変わらず母親まかせで、父親はすこし手 伝うだけ、ということにもなりかねません。まあ、レポート提出を求めるのは そうならないための歯止めでしょうし、とにかく育児のために休むということ がまずは大事であり、子どもとのふれあいがあるだけでも有意義、という考え 方もあるでしょう。 くわえて、そもそも休みたくない人を無理やりに休ませることが本当にいい のか、という問題もあります。まあ、形式的には、業務命令で研修をさせるの だ、ということでいいのでしょう。とはいえ、規則だから仕方なく、いやいや 休むというのでは、育児参加まではともかくとしても、少子化対策としてはど うなのでしょうか。育休というのはやはり「育児のために休みたいから休む」 というのが本来のはずで、命令でいやいや休まされるのでは、育児が幸福なも のとはなりえず、本質的な部分で問題なのではないでしょうか。下手をすると、 休まされるのがいやなばかりに、子どもをつくるのを避けるおそれすらあるの ではないか、というのは考えすぎでしょうか。 このように、問題は多々ある太田市の取り組みですが、それでも私は、直接 選挙で選ばれた市長の裁量の範囲にはなんとかギリギリで収まっているのでは ないかと思います。問題があるからといって何もしないばかりでは、首長とし ては不作為が過ぎるというものでしょう。太田を父親が育児参加する町にした い、という理想には、それなりに共感できるものはあります。そのための手段 として、まずは形から入るのだ、という考え方もあるでしょう。 こうした大胆な取り組みには、あれこれ文句をつけて妨害するのではなく、 一種の社会実験として大目にみるという寛大さも必要なのではないでしょうか。 なにも、すぐに全国的にやるという話でもありませんし、構造改革特区と同じ ようなものだと思えばいいのだと思います(太田市は特区にも熱心で、市民の 支持もあるようです)。大切なことは、こうした実験の結果がありのままに広 く公表され、多くの人がそれを見てなにかを学ぶ、ということではないでしょ うか。 ---------------------------------------------------------------------- 【作者からのおしらせ】 作者はこのたび、この9月に発足した「日本キャリアデザイン学会」の公式 メールマガジン「キャリアデザインマガジン」を編集することになりました。 各界の有識者による記事のほか、イベント案内、学会動向などを紹介してま いります。もちろん、私自身も、毎号記事を執筆いたします。「労務屋の労働 雑感」同様、ご愛読いただければ幸いです。 なお、「労務屋の労働雑感」も、若干頻度は落ちるとは思いますが、引き続 き発行してまいりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。 日本キャリアデザイン学会公式メールマガジン「キャリアデザインマガジン」 http://www.mag2.com/m/0000140735.htm 日本キャリアデザイン学会ホームページ http://www.cdi-j.jp/index.htm (次回は12月27日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |