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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成16年08月19日発行 通巻267号
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        <<< スウェーデンに学ぶ出生率回復策 >>>

        〜 その1 行政に求められる取り組み 〜

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 いささか旧聞となりますが、さる6月25日、内閣府経済社会総合研究所の第
18回ESRI経済政策フォーラムが、「出生率の回復をめざして−スウェーデン等
の事例と日本への含意−」というテーマで開催されました。今回はこれをおも
な材料として、出生率回復策について考えてみたいと思います。論点は多岐に
わたりますので、2回に分けて書きます。
 スウェーデンは先進諸国の中ではとくに出生率が高いことや、育児に対する
政策的支援が非常に手厚いことでよく知られています。まずはフォーラムの資
料や講演等をもとに、スウェーデンの育児環境、育児支援のポイントを概観し
てみたいと思います。
 まず育児のための時間的な側面では、育児休業が子が8歳になるまで、両親
について各240日、合計480日確保されています。まずまず2年というところで
しょうか。うち各195日、合計390日については、給与の80%が「両親保険」制
度から補填されます。各195日ではありますが、そのうち各135日は他の親に譲
渡することができます。残りの各60日は譲渡できず、それぞれが取得しないと
所得補填がないため、これが男性の育児休業所得を促進しているといわれてい
ます(もっとも、後述のようにスウェーデンでは1歳から就学前学校で公的な
保育が受けられるのに対し、育児休業は子が8歳になるまで取得できますから、
育児休業を取得しているといっても、日中は必ずしも育児をしているという保
証はなさそうです)。
 労働時間は、女性が週当たり平均32.7時間、男性が41.2時間と短く、通勤時
間も女性が往復(!)平均27分、男性は40分となっています。帰宅時刻も男女
とも6時前というのが一般的なようです。育児のための時間は確保しやすいと
いうことになりましょう。
 金銭的な支援としては、16歳未満の子がいるすべての親に非課税(スウェー
デンの所得税率は高いので、非課税のメリットは大きなものがあります)の児
童手当が支給されます。金額は第1子、第2子はそれぞれ月950クローネで、
およそ14,000円(現在の為替レート1クローネ=約14.7円で計算、以下同じ)
くらいなので、といったところでしょうか。さらに第3子以降は累進的に金額
が高くなります。これとは別に住宅手当の支給もあるようです。金額は思った
ほど高くはない感もありますが、日本の児童手当制度に較べるとあらゆる面で
手厚いといえそうです。
 保育所に関しては、なぜかフォーラムでは「1歳から就学前学校があり、費
用も9割は税金でまかなわれている」という程度の話しか出なかったのですが、
他の資料などでみると、1歳から6歳までの子どもの83%が公的な保育を受け
ているということです。スウェーデンの女性の労働力率は70%台のようですか
ら、男性の労働力率を考慮しても、これは希望する人全員が公的な保育サービ
スを受けられるという状況と考えていいでしょう。さらに、保育料は大勢とし
て世帯所得の3%で、上限が1,140クローネ(17,000円くらい)とかなり安価
に抑制されており、前述の児童手当でほぼカバーできてしまいます。
 こうした手厚い施策により、スウェーデンでは女性の労働力率が高く、しか
もフルタイム雇用の比率も高いという状況にあります。それによって、男女が
ともに正規雇用の職を得て、出産後の復職を含め労働市場での身分と収入を安
定させることができると、出産を計画しはじめる、ということのようです。な
お、フォーラムではこのほかにも社会的な側面、たとえば事実婚や婚外子が一
般的で不利益がないことや、成人した子は親と同居しないことなども話題にの
ぼりました。
 さて、こうしたスウェーデンの実情から、日本に対してどのようなヒントが
得られるでしょうか。私なりに考えてみたいと思います。
 フォーラムのパネルでは、日本でも及ばずながら育児休業も義務化され、育
児休業給付も引き上げられ、育児時間も拡充されている、日本とスウェーデン
がいちばん違うのは働き方ではないか、との指摘がありました。たしかに、働
き方の違いは大きなものがあります。スウェーデンのように、両親がともに育
児に参加することは育児の喜びを大いに高めるでしょうから、それを可能にす
る働き方を実現することが出生率の回復につながるとの意見には説得力を感じ
ます。
 とはいえ、ともすれば働き方の問題がもっぱら企業の問題であるとされ、企
業が一方的に悪者にされるような傾向があるのはいささか理不尽だろうと思い
ます。現実には、企業だけがいかに努力してもスウェーデンのような働き方が
実現できるとは思えませんし、むしろ行政や個人の努力や意識改革のほうが重
要であるとも思えます。
 まず、行政については、日本で本当にスウェーデンのような働き方を実現し
ようとするならば、保育所の大幅な拡充が必要なことは明々白々でしょう。こ
れは、現在のような、女性労働力率50%台の状況下で待機児童をゼロにすれば
いいというレベルの話ではありません。これがスウェーデン並の70%台に上昇
しても不足しないだけの保育所を、しかも1歳から就学前まで準備しなければ
ならないわけです。厚生労働省は企業内託児所に並々ならぬ期待を寄せている
ようですが、これはおよそ企業の役割をかけ離れており、公的に確保されるべ
きものと考えるのが当然でしょう(現実にスウェーデンでは公的保育でこれに
対応しています)。もちろん、その財源もやはりスウェーデンのように国民負
担によるしかないものと思われますが、そのコンセンサスを得るのも行政の役
割でしょう。
 また、スウェーデンの働き方を実現するには、女性65分、男性80分という日
本の長時間通勤を解決することが必要なことも、やはり明白でしょう。これま
た、企業にできるのは事実上遠距離通勤に対する奨励金になっている通勤手当
を廃止するくらいのことしかなく(まさか、出生率回復のために事業所の近辺
に社宅を作れとは、さしもの厚生労働省もおっしゃらないでしょうね)、基本
的には行政の政策的取り組みが主役となるべきもののはずです(もちろん、通
勤時間を直接的に短縮するのではなく、公的保育の対応時間帯を拡大するとい
う方法もあると思います)。
 さらに、フォーラムのパネルでは、在日スウェーデン大使館の外交官も参加
してスウェーデンの実態を紹介していましたが、そのなかに「帰宅後も携帯電
話で仕事の問い合わせを受けたりしている」という話がありました。まあ、良
く言えば在宅勤務、悪く言えば風呂敷残業ということで、いずれにしても在宅
しているわけですから育児するにはいいわけですが、今の日本の労働法規だと
割増賃金の支払いといった問題が起きてしまいます。育児に限らず、ワーク・
ライフ・バランスの観点からは労働時間や就労場所の自由度が高いほうがいい
ことは間違いないわけで、工場労働を念頭においた法規制をホワイトカラーに
もあてはめている労働法制の見直しや、最近とみに目立つ硬直的な監督行政の
修正は必要不可欠といえましょう。
 このような、働き方を変えるために不可欠な施策を放置したまま、企業に対
してやいのやいの言うのは、行政の責任転嫁、責任放棄と言われても致し方な
いのではないでしょうか。
 脱線しますが、そもそも、育児と仕事の両立の困難さやキャリアの中断によ
るさまざまな損失が出生率低下の原因として最大のものなのかどうかも、必ず
しもはっきりしているとはいえないのではないでしょうか。育児は人生に大き
な喜びをもたらしますが、いっぽうでその負担がいかに大きなものであるか
(費用面に限らず、自由時間の消滅や行動の制約なども含めて)についても大
いに喧伝されているところであり、その負担の大きさそのものが少子化の最大
の原因である可能性も十分あると思われます(もちろん、これらを含むさまざ
まな要因が複合して現状があるわけです)。もし、育児負担の大きさが出生率
低下の原因として大きいとすれば、働き方を見直さなくても、専業主婦の利用
や休日の利用、一時利用なども含めて公的保育を大幅に拡充することで、出生
率が相当程度回復する可能性もあるのではないでしょうか。こうした観点から
も、公的保育の強化は最重要の取り組みになるのではないかと思います。
 次回は、働き方の変化が仕事や社会に与える影響と、そこで求められる働く
人の意識改革について考えます。

                (次回は8月23日に配信する予定です)
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