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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成16年07月05日発行 通巻265号
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           <<< 宝くじつき賃金制度 >>>

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 7月5日付日経新聞朝刊に掲載された、「7月12日に発売予定の「サマージ
ャンボ宝くじ」を6割の人が購入予定」という記事を読んで、少々驚きました。
 私は競馬が好きで、ギャンブルも決して嫌いではないのですが、「宝くじ」
は生まれてこのかた一枚も買ったことがありません。「ナンバーズ」などは面
白そうだとは思うのですが、やはり買うまでには至りません。理由は簡単で、
記事でも指摘しているとおり、宝くじの払戻率は40%台とかなり低く、平たく
いえば「損」だからです。競馬にしても、払戻率は75%で宝くじよりはだいぶ
高いですが、それでもこれまた長い目で見ればまず絶対に儲かりはしないでし
ょう。ただ、競馬には推理(予想)や観戦などの楽しみがあるので、その分、
25%くらいなら胴元に巻き上げられてもいいかなと思うわけです。まあ、負け
惜しみではありますが(笑)。その点、宝くじというのは買ったあとは当たり
番号の確認しかやることがないので、これで6割方を胴元に持っていかれるの
はいかにも割が悪いように思うのです。
 ところが、日経新聞の記事によれば、サマージャンボを「買わない」4割の
人のなかで、「還元率が低い」から買わない、という理由をあげた人はそのう
ち14%に過ぎません(ちなみに、「競馬やパチンコの方が面白い」という人は
5%弱しかいません。とほほ)。これはそもそも、宝くじの還元率が4割そこ
そこという事実があまり知られていないせいもあるのでしょう(まあ、なにも
還元率が低いことをわざわざ宣伝する必要もありませんが)が、買わない人の
なかには「損をするばかりで興味を失った」という人が3割以上いますから、
買う人と買ったことがある人をあわせれば7割以上になることになります。今
回のサマージャンボ宝くじの発売予定枚数は4億2千万枚(!)とのことで、
確率的な値打ち(期待値)は120円〜150円しかない宝くじが300円で4億枚以
上売れるというのは、日本人はよほど宝くじが好きなのでしょう。
 日本人の(日本人だけかどうかは国際比較してみないとわかりませんが)こ
うした傾向を実証的に示す調査結果が、大竹文雄大阪大学社会経済研究所教授
のホームページに掲載されています(筒井義郎・池田新介・大竹文雄(2004)
「阪大における危険回避度実験および時間選好率実験」、http://www.iser.
osaka-u.ac.jp/~ohtake/jikenkekka0604.pdf)。それによれば、「当選確率が
30%以下の「くじ」に対して危険愛好的に振る舞う(一か八かに賭ける)人
が多く、それ以上当選確率が高い「くじ」については、危険回避的に振る舞う
人が多い」とのことで、大雑把にいえば、めったに当たらない(したがって価
格は比較的安い)が当たれば大きい「くじ」は期待値以上の価格で売買される
いっぽう、当たりやすい(したがって価格は比較的高い)が当たってもたいし
たことのない「くじ」は期待値以下でしか売買されない、ということです(後
者は、「めったにはずれないが、はずれたら丸損になる」といいかえたほうが
わかりやすいかもしれません)。具体的にいえば、1枚100円で、10%の確率
で1,000円当たる「くじ」は好んで買う(100円以上、たとえば120円でも買う)
のに対し、1枚9,000円で、90%の確率で10,000円当たる(逆にいえば、10%
の確率で9,000円失う)「くじ」は敬遠されることが多い(9,000円未満、たと
えば8,500円とかでなければ買わない)ということでしょう。ちなみに、サマ
ージャンボ宝くじをこれにあてはめると「1枚120円〜150円で、1,000万分の
1の確率で2億円、1,000万分の1の確率で1億円、500万分の1の確率で5千
万円が当たり、その他にも多少の当たりあり」という「くじ」なら、300円で
も買うという人が6割はいる、ということになりそうです。
 大竹教授は、こうした結果を人事管理に応用することができるのではないか、
という感想を述べられています。たとえば、最近話題になっている職務発明の
対価をめぐる巨額判決も、「めったに当たらないが、当たれば大きい」という
意味では宝くじと同じだと考えることもできるのではないか、ということです。
たしかに、先端分野になればなるほど、職務発明が成功するかどうかは研究者
の能力に加えて「運・不運」も大きなウェイトを占めてきます。これまでの人
事管理では、この「運・不運」の部分について、いわばその期待値を全員で適
当に分け合う、すなわち運良く成功しても大きな報酬は得られないが、運悪く
成功しなくてもそれなりの報酬が得られるようにするのが合理的だと考えられ
ることが多かったように思います。しかし、こうした実態をみると、「運良く
当たれば大きい」という処遇が多くの人を引きつけ、やる気を高める可能性も
あるように思われます。なにしろ120円〜150円で300円の効果があるかもしれ
ないわけですから、考えてみないのは損というものでしょう。
 ここで注意しなければならないのは、大竹教授も指摘しておられましたが、
「たいていは運悪く外れるのだから、外れてもたいしたことはないようにして
おかなければならない」ということでしょう。要するに、それなりの処遇は確
保されたうえで、オプションとして「当たると大きい」をセットするというこ
とだろうと思います。また、宝くじを買わない、買いたくないという人もいる
わけですから、いくつかの選択肢を準備して、そのなかから自分で選ぶ、とい
う選択の余地を確保する必要もあるでしょう。
 たとえば、現行の月例賃金を「それなりの基本部分」と「数万円程度のオプ
ション部分」とに分割し、オプション部分は個人が自分の判断で月例賃金と発
明報奨金などの成功報酬とに振り分ける、ということが考えられそうです。た
とえば、なにより堅実さを求めたい人は、オプションを全額月例賃金で受け取
り、そのかわり大当たりを出しても報奨金は100万円くらいが上限、という選
択をすることになります。その逆に、一攫千金を狙いたい人は、オプションを
全額報奨金に振り向け、月々の賃金を数万円犠牲にしても、100回に1回の大
当たりを出せば10億円の報奨金もありうる(月に数万円でも30年間では1,000
万円くらいの違いにはなるでしょうから、100回に1回の当たりなら10億円で
もいいという計算です)という選択をするわけです。その中間的な選択肢もい
くつか設定して、あとは個人がその中から自分がいちばんやる気になるものを
選べばいいわけです。当然のことながら、選択の結果がどうあれ自己責任であ
り、昨今の発明の対価をめぐる訴訟のような「結果論」が許されないことはい
うまでもありません。
 この選択にあたっては、本人のやる気だけではなく、ライフスタイルも関係
してくるでしょうから、独身のうちはギャンブリングな選択肢を選び、結婚し
て住宅ローンを抱えたら手堅い選択肢に変える、といった途中変更もできるよ
うにしておいたほうがいいかもしれません(成功のめどが立ったから報奨金の
多い選択肢に変える、というのはフェアとは思えないので、途中変更はギャン
ブリングから堅実の方向に限る必要はあるでしょうが)。宝くじの場合も「損
をするばかりで興味を失った」という人がかなりの割合でいましたが、こうし
た人も堅実路線に乗り換えればいいわけです(もっとも、大竹教授によれば、
いわゆる「損のこんだ」人は、それを「取り返そうとして」よりギャンブリン
グな選択をしがちだそうなので、どのくらい乗り換える人がいるのかはわかり
ませんが)。
 もちろん、組織としてのパフォーマンスを上げるためには一攫千金の人ばか
りでは困るでしょうし、かといって堅実一本槍の人ばかりでもまずいわけです
が、そこは企業の人材戦略で、採用や配属、人事異動などで対応していけばい
いわけです。
 現実にやるとなると、報奨金をどのように計算するのか、といった問題もあ
り、なかなか簡単ではないかもしれません。とはいえ、ある程度の基本的な処
遇が確保されるのであれば、自己責任による選択肢が増えることは働く人にと
ってもいいことだろうと思いますし、また、必ずしも技術者に限った話でもな
いだろうと思います。すでに類似の事例もあるようですし、より広く検討され
てもいいのではないかと思います。

                 (次回は7月8日に配信する予定です)
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