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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成17年11月21日発行 通巻293号
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         <<< 「なぜあなたは不幸なのか」 >>>

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 平成17年11月18日付産経新聞朝刊の1面トップで、「最も幸せな日本人像は
−30代都会暮らし専業主婦」という記事が掲載されました。大阪大学の筒井義
郎教授らのグループが日本人の幸福度について調査した結果、そのような結果
が出たのだそうです。
 この調査は、性別や年齢、学歴、職業、居住地、所得や資産などといった個
人の属性や、飲酒、喫煙、ギャンブルといった嗜好、さらにはさまざまな性格
傾向などによって、「幸福感」の感じ方がどう違うか、ということを分析した
ものです。新聞記事では詳しいことはわかりませんので、元ネタの論文(筒井
義郎・大竹文雄・池田新介(2005)「なぜあなたは不幸なのか」大阪大学社会経
済研究所ディスカッション・ペーパーNo.630)から、結果の要約を引用してご
紹介したいと思います(p48,p50)。

1)男性は平均的には女性より不幸であるが、喫煙習慣をコントロールすると、
 有意に不幸であるとはいえない。
2)全ての属性をコントロールすると、20歳代から60歳代まで、年齢が高い
 ほど不幸である。
3)世帯所得と一人あたり所得が大きいほど幸福であるが、その増加は逓減的で
 ある。平均的な幸福度を見ると、高い所得階層では幸福度の飽和が観察され
 る。
4)資産が多いほど幸福であるが、平均的な幸福度はかなり低い資産額で飽和す
 る。
5)所得などを調整しても、学歴が高い人ほど幸福である。ただし、短大卒は高
 卒よりも幸福度が低い。
6)所得などを調整しても、求職中の人は不幸である。
7)所得などを調整しても、パートで働いている主婦は無職の主婦より不幸であ
 る。このことは労働が負効用をもたらすと解釈できる。
8)都会に居住するものは幸福である。とりわけ、13大都市居住者は幸福である。
9)いろいろな属性を調整しても、地域による幸福度の違いが観察される。
10)「他の人の生活水準を意識している」人ほど、「できるだけ質素な生活を
 したい」と考える人ほど、「お金を貯めることが人生の目的だ」という人ほ
 ど、有意に不幸である。利他的な人は有意に幸福である。 
11)消費は所得ほど明確に幸福度に影響しない。このことは貯蓄も効用を生む
 ことを示唆する。
12)所得より生活水準のほうが幸福度に強い影響を持っている。このことは、
 絶対所得水準より相対所得水準の方が幸福度に重要であることを示唆する。
13)主婦になった人は高学歴なほど幸福度が低い。
14)時間割引率が高い人ほど不幸である。
15)危険回避的な人ほど不幸である。
16)時間割引率については、選択する行動変数を通じて幸福度に影響するが、
 危険回避度はそのような経路による影響は小さい。
17)環境(生活水準)が高くなると、時間割引率が高い人ほど、また危険回避
 的な人ほど、より幸福になったと評価する。

 これだけではわかりにくい用語などもありますが、ご関心のある向きには詳
細は論文をごらんいただくとして、「なるほど、なるほど」と思わずうなって
しまうような結果になっています。もちろん、これは「こういう傾向がある」
ということであり、「努力してそういう人になれば幸福度を感じるようになる」
というものではないでしょうが、それにしても興味深いものがあります。
 1)は、男性が不幸なのは男性に喫煙者が多いことと、喫煙者が不幸なことに
よるものだ、ということでしょう。ただ、喫煙するから不幸なのか、不幸だか
ら喫煙するのかはわからないので、後者だとすればやはり男性のほうが不幸な
可能性もある、ということになるのでしょうか。
 6)と7)もなかなか面白い結果です。仕事そのものが喜びであり、働くこと自
体が幸福をもたらす、というのはわれわれ人事屋としては大切な考え方ですが、
6)をみると所得が同じでも仕事がなくて探している人は仕事のある人より不幸
だというのですから、それは当たっているといえそうです(ちょっと違うかも
しれません)。いっぽうで、7)をみると主婦のパート労働についてはこれが成
り立っていない(所得が同じなら働かないほうが幸福)ということがわかりま
す。主婦のパート労働にはあまり働きがいの高くない仕事が多い、ということ
でしょうか。これは13)とも平仄がとれているように思われます。高学歴な人
ほど、結婚後は学歴を生かせる仕事につきにくいことが幸福度を低下させるの
ではないかと思われます。
 9)は、所得や都市規模などといったさまざまな要素がすべて同じだとしても、
地域によって幸福度の差があるということで、具体的には近畿、九州、東北、
北海道の順に幸福で、最も幸福でないのは四国、その次は関東ということです
(統計的に優位でない甲信越、東海、北陸を除く)。なかなか解釈に悩む結果
ですが、どう考えればいいのでしょうか。
 10)と14)、15)は、「幸福と感じやすい性格がある」ということを示してい
て非常に興味深いものがあります。いろいろな見方があるでしょうが、私には
直観的にたいへん納得がいくものがあります。要するに、分相応、足るを知る、
他人のことは気にしない、ケチケチせず、自分のことばかり考えず、新聞記事
のマンガにもあるように「細かいことは気にしない、のんびり屋」というのが
「幸福な」性格だ、ということのようです。「時間割引率」というのは耳慣れ
ないことばですが、ごく荒っぽく言ってしまえば、これが高い人はせっかちで
がまん強くない(impatient)だ、というところでしょうか。「危険回避度」
はリスクを避ける傾向のことで、「降水確率が何%以上なら傘を持って出かけ
ますか」「電車の指定券を持っているとき、発車何分前に着くようにしていま
すか」などといったユニークな質問で計測されています。せっかちな人、リス
クを嫌う人ほど幸福度が低く、呑気でリスクをいとわない人が幸福度が高いと
いうことのようです。ちなみに、高橋伸夫(1997)『日本企業の意思決定原理』
東京大学出版会では、「職務満足を感じるかどうかはほぼ個人の性格のみに依
存する」という分析結果が紹介されていますから、幸福の感じ方にも性格は大
きく影響するのでしょう。
 とはいえ、他人を気にしない、というのは現実にはなかなか難しいものなの
でしょうか。12)は要するに、自分の所得が上がることより、他人に較べて自
分の所得が高いことのほうが幸福度を上昇させる、ということで、まことにも
って「他人の不幸は蜜の味」というメンタリティが存在することを意味するの
でしょう。ちなみに、全員の所得を増した場合は個々の幸福感は向上しないと
いう調査結果もあるそうです。
 これは人事管理にとってもなかなか示唆に富んだ結果です。たとえば、賃金
を上げるときには、従業員が社内での格差より社外との格差に目を向けるよう
に誘導するのが賢明だ、といったことです。社員が社内格差を見ているときは、
全員一律では幸福度が上がりませんし、かといって差をつければ上がった人は
幸福になりますが、下がった人逆に不幸になるので、トータルするとどうかは
わかりません。であれば、社内では一律にせよ差をつけるにせよ、社員の目を
外に向けさせて、たとえば周辺企業や同業他社との比較では高い(多く上がっ
た)、といったことに関心を持たせれば、全体の幸福度を上げることが可能だ
からです。まあ、外をみても上をみればきりがない、ということにもなりかね
ませんが…。
 また、17)をみると、幸福度の低い性格の人ほど、生活水準が高くなったと
きに、より高くなったと評価するということです。これを利用するには、幸福
度の低い性格の人はできるだけ小刻みに、何回にも分けて賃金を上げる、とい
った方法が有効だ、ということになりそうです。賃金であれば、そういう操作
は比較的容易です。いっぽうで、幸福度の高い性格の人は、賃金を上げるより
はより高度な仕事を与えるといったインセンティブのほうが有効だ、というこ
とになるかもしれません。
 性格の違いによって人事制度を変えるのは難しいでしょうが、優れたマネー
ジャーは、日々の職場管理においてメンバーの性格の違いをよく考慮している
ものです。こうした調査結果はなにかと参考になるでしょうし、人事担当者も
勉強しておいて損はないのではないでしょうか。

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