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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成16年04月21日発行 通巻281号
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 先日、某学会の研究会で、女性のキャリア形成に関する報告を聞く機会があ
りました。その中で、日本は国連開発計画(UNDP)によるHDI(人間開発指数)
が上位にあるにもかかわらず、GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)が
低位にあり、女性のキャリアの向上が望まれるとの話がありました。ちなみに、
HDIは平均寿命、識字率と高校進学率、1人あたりGDPから算出され、GEMは国
会などの議席、管理職や専門職などの数、勤労所得のそれぞれの男女格差から
算出される指標で、2003年の結果をみると日本はHDIが9位、GEMが44位となっ
ています。
 そこで、女性に対するキャリア教育が重要であろうとの議論になるわけです
が、報告者の調査によると「女子高校生のキャリアに対する意識が非常に貧し
い」という結果が出ているそうです。具体的には、「たいへんできる子で医師
か弁護士、できる子で教師か看護師」というように、「将来の職業のイメージ
が画一的で貧困」ということなのだそうです。なるほど、言われてみればその
とおりなのかもしれません。
 報告後の参加者をまじえてのディスカッションも、この話題で盛り上がりま
した。労組関係者は、「医師、弁護士、教師などは、女性が出産・育児のかた
わら継続し、あるいは中断した後に再開することができる職業だ」と指摘し、
「女性が仕事と出産・育児を両立することの支援が重要だ」と主張しました。
「キャリア・コンサルタント」であるという参加者は、「女性が企業内で管理
職になるというロールモデルがないのが、そうしたキャリアをイメージできな
い理由であり、まずは企業が女性だからと言って昇進させないのではなく、積
極的に登用すべきだ」と述べました。さらに「企業は成果主義人事を導入して
おり、女性でも成果次第で昇進できる環境にあるので、短期で退職せずに勤務
し続けることが重要だ」との意見も出されるなど、全体として「女性は出産・
育児などでキャリアが中断されるため、企業の管理職になるのは難しく、医師、
教師など限られた職業しか選択できず、男性に較べてキャリアが貧しい」とい
う論調で議論が進んでいました。
 こうした議論を聞きながら、私は違和感を覚えずにはいられませんでした。
もちろん、報告者がいうように、女子学生のキャリア意識を膨らませることは
大切だろうとは思うのですが、そこから「女性のキャリアは男性に較べて貧し
い」という議論に展開していってしまうのは、それこそ「貧しい」のではない
かと思うのです。
 私はむしろ、男性のキャリアのほうがよほど貧困ではないかと思いました。
男性の中にはたしかに企業で勤続して管理職になる人もいますが、しかし日本
の男性の多くは、育児をするわけでもなければボランティア活動をするわけで
もなく、PTAに参加するわけでもなければ地域活動にもたいして参加しない、
というのが実態でしょう。それでキャリアが豊かでしょうか。しかも、誰もが
管理職になれるわけではありません。
 これは結局、「キャリアの豊かさとは、仕事で成功して偉くなること」だと
考えるか、「仕事はキャリアの重要な一部だがすべてではなく、生活を、人生
をトータルでみるのがキャリア」だと考えるかの違いではないかと思います。
職業も人生を豊かにするためのものであるとするならば、とりわけわが国のよ
うに(経済的に)豊かになった社会においては、キャリアについてどちらのと
らえ方をするのが望ましいかは明らかではないでしょうか。しかし、残念なが
ら、学会(しかもキャリアに深く関係する学会)の研究会でおいてすら、まだ
まだ「キャリアとは職業的成功」という意識はきわめて強いようなのです。
 もちろん、私も女性のエンパワーメントを進めることは非常に重要だと考え
ています。しかし、逆説的ですが、男女がともに持っている、そしてとりわけ
男性において強固な、「キャリアとは職業的成功、エンパワーメントされるこ
とこそ豊かなキャリア」という価値観が、かえって女性のエンパワーメントを
妨げているのではないでしょうか。
 社会的地位というのは相対的なもので、女性のエンパワーメントと男性のエ
ンパワーメントには一定のトレードオフがあります。もちろん、高度専門職の
ように男性女性ともに増えることが可能なものもありますから、トレードオフ
は「一定の」ものにとどまります(しかし高度専門職にしても無際限に増やせ
るというものでもないでしょうが)が、しかし国会議員には定数があり、企業
の管理職ポストも限られているのですから、女性が増えれば男性が減るという
のは理の当然でしょう。このとき、大多数の男性が「豊かなキャリアとは職業
的エンパワーメントであり、管理職になれない人は敗残者」というキャリア観
を持っているとしたらどうでしょうか。出産というハンデのある女性はエンパ
ワーメントにおいて非常に不利になるでしょう。しかもこれは、男性にとって
も決して幸福なこととは思えません。しかし、現在の日本で起きていることは
これに近いのではないでしょうか。
 女性のエンパワーメントは、迂遠なようでもまずは男女ともに「エンパワー
メントされないキャリア」を「豊かな人生の選択肢」として認めるところから
スタートするのが、結果としては近道ではないでしょうか。現在でも、仕事で
はたいして成功しなかった、職場では万年係長、万年ヒラだったけれど、地域
のために貢献し、趣味や特技、ボランティアなどを楽しみ、家族や友人に囲ま
れた人生を「幸福で豊かだ」と感じている人はたくさんいるはずです。若者の
意識調査の結果をみると、そうした人生を志向している人の割合は決して低く
ありません。しかし、そういう人は、よほど特技やボランティアなどの世界で
認められていないかぎり、議員や弁護士や、企業の部長や重役のようには敬意
を払われないのが現実のようです。まことに不思議な現象であると言わざるを
得ません。
 こうした生き方、とりわけ男性が職業的成功より育児や家事を選択する生き
方が社会の尊敬を集め、男性が「エンパワーメントを目指さない生き方」を選
べるようにすれば、結果として女性がエンパワーメントされるチャンスは大き
く拡大していくのではないでしょうか。それが「豊かなキャリア」であり、
「豊かな社会」ではないかと思います。

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