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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成17年10月24日発行 通巻292号
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           玄田有史 著  NTT出版

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 「働く過剰」とは凝った書名だが、世間で若者が語られるときのことばはむ
しろ「不足」だろう。能力不足、職業観不足。我慢が足りない、ハングリー精
神が足りない……あるいは、自信不足、希望不足、さらには根本的な問題とし
ての求人不足。そして著者が主張する「大人の理解不足」。この本は、「大人
のための若者読本」という副題のとおり、大人に若者の現在を語りかける本で
ある。著者はこの書名について「若者にとって働くことや生きることが、これ
ほど難儀で複雑なものになってしまった…若者が晒されている、さまざまな過
剰に対する違和感を、私なりに表現したもの(pp.274-275)」と説明している
が、私にはこの「過剰」ということばが、世間に氾濫する「不足」という言説
に対する著者の直観的なアンチテーゼをふくむように感じられる。
 第1部では、「働く若者」の実情が語られる。第1章では「企業は即戦力を
求めている」という事実と異なる俗説に対し、企業にとっての人材育成の重要
性を訴える。第2章、第3章では、正社員として就職した若者たちがおかれた
労働条件の実態、とりわけ長時間労働とその弊害について述べられる。第4章
は小中学校時代の仕事への希望と、就労後の仕事のやりがいとの関係から、キ
ャリア教育のあり方が語られる。
 これに対し、第2部は「働けない若者」の内実にあてられる。第5章はいわ
ゆる「フリーター」問題・「ニート」問題の手短な概説で、第6章から第8章
は「ニート」に関する最新の行政による研究会の成果を紹介している。「ニー
ト」のうち、求職型・非求職型は90年代を通じて増加したのに対し、非希望型
は一定数で推移していること、非求職型の増加の要因として職務との不適合に
よる健康問題が考えられること、非希望型に低学歴・低所得家庭が多いことな
どが指摘される。
 第3部では、これらを受けて、大人たちの「向き合い方」が述べられる。第
9章では多様な若者への多様な支援の現場の状況が紹介され、各人にマッチし
た支援を受けることの大切さが語られる。また、「大人」とはいうが、支援の
担い手の多くは支援される若者と同年輩の若者であり、「若者を支援する若者
への支援」の重要性が説かれる。第10章は親子関係の記述にあてられる。終
章は、「大人は若者になにを伝えなければならないか」を述べる。世間でたび
たびいわれる「働く意味」「やりたいこと」「安定」といった言説ではなく、
リズム=生活習慣や、「やってはいけないことは何か」という価値観を伝える
こと、そして「親本人の充実」の大切さが述べられる。
 この本は「日本の〈現代〉」と題するシリーズの一冊であるという。著者は
たしかに、若年労働という観点から「日本の〈現代〉」を大胆かつ鮮やかに描
き出している。もちろん、見る人、見る角度によって見方はいろいろだろうし、
大胆な所論であるだけに論争的な内容を多く含んでいるだろう。私自身も、若
年雇用問題の多くは長期にわたる経済低迷などによる大幅な求人不足によると
考えているので、この本における著者の所論はいささか構造要因を強調しすぎ
ていると感じる(もっとも、著者は前著『ジョブ・クリエイション』において
は若年雇用問題はまずは需給の問題だと述べているし、本書でも循環要因への
言及がある)。私は同感しないが、関係者のなかには、著者が「フリーター」
や「ニート」といった概念を煽情的に(?)用いていることへの批判、反発も
あるという。しかし、著者が『仕事の中の曖昧な不安』などによって、それま
でともすれば「中高年失業」の問題ばかりに目が向きがちだった世論に対して
若年雇用問題を説得的な形で指摘したことは明らかな事実だし、その後の著者
の活動が、多くの人々の取り組みとあいまって、この問題に対する世論を高め、
現実の成果として行政などによるさまざまな施策を実現してきたことも否定し
ようがないだろう。こうした著者の行動が、若者に対する強い共感と、この問
題に対する真摯な熱意によるものであることも疑いない。批判はたやすいし、
もとより自由でもあるが、それでは現実に他のだれがこれ以上の成果をあげら
れたかと考えると、批判が説得力を持つことは難しいだろう。
 著者自らが「私なりの現代仕事論の集大成」と述べるこの本においても、著
者の若者への共感と熱意は横溢している。虚心に読めば、それは率直に読み手
の心に響くだろう。そして、著者が「集大成」としたこの本の意図が、「必要
なのは若者への働きかけだけではなく、大人への働きかけ」「働こうとする若
者に向き合うべき大人に対し、現代の若者を取り巻く状況を知っていただくた
め、私の知っていることを、書いてみようと思う」(まえがきii)であること
を、日本の「大人」たちにはぜひ受け止めてほしいと思う。たしかに、いまの
「大人」たちの若者時代をも含めて、若者たちはつねに「大人」たちから「今
の若者は」と言われ続け、それでもたくましく成長してきた。しかし、現在の
若者をとりまく状況は、それではすまない、大人たちの理解と共感を必要とす
る、かつてない事態に本当に立ち至っているのかもしれないからだ。おそらく
それは、これまで「大人」たちがめざしてきた「豊かさ」というものが「そう
いうもの」だったということの帰結でもあり、であればその「豊かさ」をより
よいものとしていく努力が、これからの私たちに求められるのだろう。私もい
ささか、一種の「構造要因」がごときものを強調しすぎだろうか?

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