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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成16年07月11日発行 通巻289号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 労働契約法制の必要性 >>> =================================== 現在、厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」で、労 働契約法制に関する検討が進められており、4月には「中間とりまとめ」も発 表されました。これは現行の労働法制をかなり根本的な部分から見直そうとい う作業で、非常に多くの論点を含んでいるうえ、すべての働く人、企業にもか かわりの深いものです。ところが、その重要性に較べると世間での周知度は著 しく低い状態にとどまっています。 こうした状況に対する危機感からは、この7月6日には連合が「緊急ミニシ ンポ7・6 厚労省・労働契約法制研究会「中間取りまとめ」を読む」を開催 し、「「労使委員会制度」「解雇の金銭解決制度」「雇用継続型契約変更制度」 「労働時間法制の見直し」などの問題点を浮きぼりにした。」ということです (連合ホームページによる)。経営サイドも、日本経団連が中間取りまとめに 対してパブリックコメントを提出したとのことで、今後、この問題についての 関心が高まってくることが期待されるところです。 非常に多くの論点を含んでいますが、そもそもなぜ「労働契約法制」が必要 なのでしょうか。6月10日付日経新聞朝刊「経済教室」では、同研究会の座長 である菅野和夫明大教授が、労働契約法制定の必要性と、幅広い議論を求める 論考を発表しています(平成17年6月10日付日本経済新聞朝刊)のでご紹介し たいと思います。 菅野氏はこの論考で、まず非典型雇用の拡大など雇用の多様化、労働者の意 識の変化、個別労働紛争の増加と紛争処理システムの整備の進展を指摘してい ます。これに対し、現行法制では労働契約上の諸問題はその大部分が裁判所の 契約解釈に委ねられ、結果として多数の判例法理が形成されてきたものの、予 測可能性の向上や、最近の大きな変化への適合という点に問題があると指摘し ます。そのうえで、「事前規制・調整型社会」から「事後監視・救済型社会」 に移行するための法的インフラ整備のためにも、「労働者・使用者間の多様化 し個別化する契約の内容を明確で適正な内容とし、紛争の防止と迅速・適正な 解決をはかる」ための、「従来の労働基準法制のように罰則・行政監督を伴う 公権的ルールと異な」る、「労働関係の民事ルールとしての『労働契約法』の 制定」が必要であると主張しています。 その具体的内容としては、「採用内定、試用期間、配置転換・出向・転籍、 懲戒、解雇、退職、労働条件の変更、有期契約など、労働契約の成立から終了 までの全体にわたる体系的な、契約の標準的ルールを定める」としており、さ らに「労働契約のひな型である就業規則の法的効力を明らかにすることも望ま れる」としています。そして、「労働契約法におけるひとつの焦点は、労働条 件の決定システム」と指摘し、労組の組織率が低下し、団交の機能が低下して いる中では、労働者と使用者の交渉力格差をより小さくする実際的なシステム として、労使の代表委員で構成する労使委員会制度を整備し、その合意につい て契約上の一定の効果を与えることを提案しています。さらに、いわゆる「変 更解約告知」に類似の概念の導入や、解雇の金銭解決などにも触れています。 なぜかここでは触れられていませんが(厚生労働省の意向が働いたか?)、研 究会の「中間とりまとめ」においては、「労働契約に関する包括的なルールの 見直しを行う際には、併せて、労働者の働き方の多様化に応じた労働時間法制 の在り方についても検討を行う必要がある。」と述べられていることも重要な ポイントだろうと思われます。 さて、連合はもともと独自の「労働契約法案要綱骨子(案)」を作成するな ど、「労働契約法」そのものについては導入を強く主張してきました。ところ が、今回の「中間とりまとめ」については6月8日に「意見」を発表し、「労 働者や労働組合のためにならない労働契約法」である、として反対の見解を示 しています。労働契約法は必要だが、「中間取りまとめ」のようなものではダ メだ、というわけです。 実際、連合のホームページで公開されている労働契約法の連合案をみると、 原則として期間の定めのある契約はダメ、求人広告の記載を下回る契約はダメ、 3か月を超える試用期間を定める契約はダメ、労働者の承諾なく労働条件(就 業規則)を変更できる契約はダメ、労働者の承諾なく出向や転居つき配転を命 じうる契約はダメ、……といった調子で、たしかに労働契約に関するものだと 言えば言えるかも知れませんが、現実には労働契約の内容を規制するもの、そ れも事実上「最低基準」的なものがズラズラと並んでおり、どちらかといえば 「労働基準法」ではないかという代物です。こういう「労働契約法」でなけれ ば労働契約法を導入してはならない、と言われても関係者はちょっと困るでし ょう。そもそも、具体的な内容以前の問題として、連合は「多様化・個別化」 に批判的で、「事前規制」を重視するなど、今回の「中間取りまとめ」とは基 本思想からして全く異なっています。 いっぽう、経団連も基本的に法制化は規制強化であり反対、というスタンス のようで、これまた経済活動の自由を求める立場からは当然のことかもしれま せん。 とはいえ、私は労働契約法制については経営サイドも入口から全否定するの ではなく、むしろ一定の必要性は認めてしかるべきではないかと思います。労 働契約においては、労働者は必ず自然人であること、使用者と労働者に圧倒的 な交渉力格差があることなどを考慮すれば、まったくの契約自由でよいとは考 えにくく、一定の規整がなければ、労働市場や労使関係は混乱し、労働意欲や 能力開発、生産性などの面でも悪影響があるだろうことは想像に難くありませ ん。であれば、採用、配置転換・出向・転籍、解雇、退職、あるいは労働条件 の決定・変更といった基本的な事項については、それなりに常識的な社会的ル ールを法定しておくことはやはり望ましいのではないでしょうか。とりわけ、 昨今のように就労形態や雇用契約の多様化が急速に進展しするなかでは、秩序 を維持していくためにそれなりのルールの明確さが求められるでしょう。実態 が複雑化するほど、ルールは明確化されなくてはならないという、一種のトレ ードオフ的な関係があるのではないかと思います。 その際に重要なのは、連合がいうような労働契約法ではなく、本当の意味で の労働契約法制、すなわち契約自由の原則を基本としたものとすることではな いかと思います。菅野氏の「経済教室」では「多様化し個別化する契約の内容 を明確で適正な内容と」するとされていますが、多様化・個別化に適切に対応 していくためには、一律的なルールを決めてそれに形式的にあてはめていくの ではなく、それぞれの個別の事情に十分配慮して、適切に判断していくことが 必要です。したがって、労働基準法のような実体規制は避けて、契約における 双方当事者の対等性を確保するための手続規制を中心とすべきでしょう。 すなわち、労働契約法制の導入は労働基準法の見直しと一体のものであり、 労働基準法で労働契約に関する部分は労働契約法に移行するだけではなく、労 働基準法の各規制についても、必要最小限に見直していく必要があるものと思 われます。また、手続規制についても、個別の実情を最もよく知っているのは 各企業の労使ですから、各企業レベルでの労使関係をベースとした手続を重視 していくことが重要でしょう。なにをもって「適正な内容」と考えるかは、結 局のところは当事者が適正と判断するかどうかによるのではないでしょうか。 また、そうした中で「予測可能性」を高めていくためには、一定の手続要件 を満たしていれば「適正」とみなすという、一種のいわゆる「セーフ・ハーバ ー・ルール」的な考え方を極力導入していくことが必要ではないかと思います。 もちろん、繰り返しになりますが、それは対等性の確保が大前提であることは 言うまでもありません。 このような形で、労使の対等性が確保されたうえで、労使双方のニーズに応 じたより多様な労働契約が可能となり、かつ、予測可能性が高まって紛争が予 防されるということになれば、これは労使双方にとってメリットが大きいので はないでしょうか。そして、今回の「中間とりまとめ」は、たしかにまだ全体 として踏み込み不足であったり、あるいは個別論点にはさまざまな問題点があ るわけではありますが、基本的にはそうした方向性にあると評価できるのでは ないかと思います。 労働契約法制には一定の必要性があることは認めつつ、それをよりよいもの とする努力を重ねることが必要なのではないかと思います。研究会はすでに最 終報告の検討を進めており、行政当局は来年には公労使による審議会で法案の 検討に入りたいとの意向だと言われていますが、いささか拙速の感は免れませ ん。根本的かつ広範な問題であるだけに、あわてることなく、しっかりと検討 を進めることが望まれるのではないでしょうか。 =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。 ◆作者は、日本キャリアデザイン学会の公式メールマガジン「キャリアデザイ ンマガジン」(ID=0000140735)を編集しています。あわせてお読みいただ ければ幸いです。http://www.mag2.com/m/0000140735.html ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋ホームページ:http://www.roumuya.net のブログ「吐息の日々」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |