■2003/07/10 (木) 官業にも多少の役目はある

 もうひとつ、8日の日経新聞朝刊の記事を取り上げたい。5面に、厚生労働省が公共職業安定所で失業者に情報一括提供する方針であるという記事がある。具体的には、職安の機能を大幅に強化して、年金や税務関する相談や住宅ローンの借り換え、奨学金の紹介、メンタルケアなど、要するに失業で収入が減少し、生活面で困ることについてのさまざまな側面からのフォローを行なうというものだ。
 ところがこの記事、最後に「民間には職業紹介業務の一層の民間開放を求める声が強く、ハローワークの業務拡大には警戒感も残っている」としており、明言はしていないものの明らかにこの施策に批判的な姿勢が伺われる。
 しかし、今回の職安の機能強化は、職業紹介機能そのものを強化するものではないのだから、民間職業紹介業者が警戒しなければならない直接の理由はないはずだ。もちろん、民間業者が同様のサービスを提供することで付加価値を高めようとしたときに競合するという理屈はありうるが、あまり現実的ではない。今回検討されているのは、たとえば税務相談であれば「納税が滞ったときの手続きなど」であり、対象者層と民間職業紹介業者のターゲット層とはあまり競合しそうにない。逆にいえば、有料職業紹介が利用できない、職安の無料職業紹介をセーフティネットとして利用せざるを得ない不熟練・低賃金層に有益なサービスなのであり、これを職安が行なうことはむしろ合理的であるといえるのではないか。
 おそらくは官業拡大だからけしからんという単純な発想なのだろうが、もうすこし勉強して書いてほしいものだ。

■2003/07/09 (水) 根拠なき妄論 その2

 昨日の続きです。
 さて、それではどうすればいいのか、というと、「四季リゾーツ」という会社の例を持ち出して、「日本企業の活力が低下した一因は、硬直的な人の使い方にある」のだという。
 まあ、それも多少はあるだろう。しかし、この事例をみると、内容は「親会社からの出向や転籍は一切受け付けず」「意欲のある従業員の抜擢人事」「努力次第で敗者復活」という程度のものだ。現実には、「親会社」のない中小企業ではこれは当たり前のことで、これに該当する企業は山ほどあるだろう。その中には、長引く経済低迷で苦境にあるところも少なくない。「親会社からの出向・転籍を一切受け付けない」というところに惚れたのだろうが、少なくとも主張に対する根拠にはまったくなっていない。
 しかも、記事の細部はきわめていいかげんだ。「成績を管理」して「意欲のある」人を抜てきするというのだが、成績は上がらないが意欲だけはすばらしい人はどうするのかね。努力次第で敗者復活というが、この会社は2001年設立でまだ3年めだ。はたして、「努力して敗者復活」した人が本当にいるのだろうか。
 個人の力を活かすことは云われるまでもなく重要に決まっているが、そのために大組織が悪いとは思えない。むしろ、それなりの大組織を必要とするケースも多いだろう。同じ日の5面に掲載された関連のインタビュー記事では、企業経営者が「個人の創造を種子として、それをしっかり育て、成果に結びつける組織の創造性」や「異能を大事にし、集団で支援する体制」「いくら独創的でも個人のアイデアだけでは最終製品は作れない」などと、組織や集団の力を重視する必要性を指摘している。さすがに、現場の経営者はよくわかっている。米国企業でも、大組織が創造的な成果をあげているケースは数多い。スペースシャトルを飛ばすのがどれほどの大組織で行なわれているのか、日経の記者はご存知なのだろうか。
 なんの根拠もない感情と思い込みを、あたかも根拠があるかのように偽るのはやめてほしいものだ。

■2003/07/08 (火) 根拠なき妄論

 それにしても、雇用問題となるとなぜ日経はこれほどまでに理性を失ってヒステリックになるのだろうか。
 今朝の1面の「デフレが蝕む」は「個の力を解き放て」ということで、提言なるもののポイントは「一律の賃金抑制は活力奪う」「付加価値向上へ個人を主役に」「大組織を見直し、機動力を」ということなのだそうだ。
 まずいきなり、韓国のサムスン電子が「全従業員の3割賃下げ」という提案を却下して「従業員の三割削減」を実施して高収益を実現したのに対し、日本企業は「みんなで我慢」の方針で人材流動化が遅れた、と非難する。そして、「長引く賃金抑制は社員から活力を奪い、消費不振とともに日本のデフレをより深刻にした」と主張する。とんでもないデタラメだろう。
 そもそも、通貨危機でIMFの管理下にはいり、財閥同族支配の排除などの資本の近代化に迫られた韓国企業と日本企業を比較することがおかしい。また、現実に売上や生産高が激減し、明らかに仕事のない人があふれていたサムスン電子と、人件費負担は重いにしても従業員は必ずしも出来高が減って仕事がなくなっているわけではない日本企業とでは、対応が違うのが当然だ。サムスン電子の事例が「一律の賃金抑制は活力奪う」という主張の根拠にならないことは明らかだ。そして、それ以外の根拠はなにも示されていない。一律の賃金抑制を選択した企業は、そのほうが活力を維持できると判断したからそうしたのであって、それで活力が奪われたという証拠はない。
 さらに、賃金抑制がデフレを深刻にしたというが、一律の賃金抑制だろうが人員削減だろうが、マクロでは同じことではないのか。実際、人員削減に踏み切っている企業もすでに多く、それによる雇用機会の減少がデフレを招いている部分も大きいはずだ。また、「活力」にしても、仮に人員削減で残った人の活力が向上したとしても(怪しいものだが)、マクロでみれば削減された人の活力低下はそれを帳消しにしてしまうのではないだろうか。
 また、日本が「豊かな頭脳を生かしきれない閉そく状況」にあるのだというが、一方で日経は大学教育批判の記事などでは日本の頭脳は貧困だといいたてているのだから、主張の内容以前にその相変わらずの二枚舌ぶりにあきれさせられる。
 久々の大物トンデモ記事なので、明日に続きます。

■2003/07/07 (月) 自治体による臨時雇用の意義

 今朝の日経の29ページ地域総合欄に、自治体による雇用対策の努力を紹介した記事がある。記事はいくつかの自治体の取り組み事例を紹介したうえで、産業振興策の成否が重要であることや、地域が独自の政策を進められるように規制緩和が必要であることなどを主張している。大筋では同感できる。
と ただし、それ以前の段階で気になる点がある。中高年と若年の二面作戦を迫られているということで、定年退職者の再就職支援と若年雇用対策の事例が紹介されている。しかし、定年退職者には現時点ではまだ60歳から厚生年金の支給があり、61歳で基礎年金もあわせてけっこうな額の年金が全額支給される。将来的にはともかく、いま現在は中高年の中でも生計費の高い「中」の部分のほうが大問題のはずだ(そもそも、雇用対策で「中高年」といえばそういう意味ではないのか)。「経験が生かせる事務職」のような「いい仕事があれば働きたい」という定年退職者のニーズが、この経済不振、雇用失業情勢悪化のなかでミスマッチになるのは当然で、過度に深刻視する必要はないはずだ。
 若年に関しては、新卒未就職者を自治体が臨時職員として採用する取り組みが紹介されており、八王子市の臨時職員が定員20人に対して11人しか応募がなかった事例をひいて、こうした「支援策を昨年度に実施した都道府県・政令市は二十近くに上る」が、「総じて低調」であると述べている。ところが、この「低調」というのは、臨時職員のなかで(臨時職員以外の)就職が決まった人が少ない、という意味(埼玉県の事例がひかれている)にすりかえられていて、臨時職員としての採用そのものはどうなのかはわからない(実際、インターネットでざっと検索したかぎりでは、記事で紹介されている八王子市の事例のように、臨時職員の採用そのものが予定数に大きく足りないというケースはすぐには見あたらない)。自治体の臨時雇用は、少なくとも職のない若年が無為に時間を費やすかわりに、それなりの就労体験を得られるという意味で一定の政策的意義を有しており、そこからの再就職が進まないから無意味だという批判はあたらないし、ましてや、一例のみをひいて臨時雇用そのものが全国的に低調だという印象を与えるような書き方はフェアではない。
 行政による直接雇用が気に食わないのかも知れないが、これではなにかと制約が多いなかで努力している自治体が気の毒だ。

■2003/07/04 (金) 問題をあいまいにするな

 今朝の社説は、「外国の資本・人材に門戸広く」として、通商白書をふまえて外資や外国人労働者導入の必要性を訴えている。対内直接投資と、それにともなう外国人経営管理層受け入れの増加がわが国の大きな課題であることに異論はない。
 ただし、外国人労働力の受け入れについては若干論旨に混乱がみえる。日本の外国人受け入れ方法について、「ある分野で労働力の需要が増えて国内で採用できないとき人手が足りなくなるという「量」の問題にこたえられない。」と批判する。そこで、「アジアでは情報技術など様々な能力を持った人が増え、しかも意欲的だ。所得の高い日本は魅力的であり在留資格の条件を緩めれば多くの人が来日を希望するとみられる。それは日本の労働力不足部門の人手を補うし、競争を通じ日本の労働者への刺激にもなる。」ので、米、英、独などが採用している「それほど高い専門能力を持たなくても、国内で調達できない労働力については審査したうえ働く資格を与える制度」の導入を示唆している。
 なにより、これではあまりに記述があいまいだ。最後に「失業率が高いからといって外国人の受け入れ拡大に慎重にならなくてもよいのではないか。」と述べている以上は、失業率が高くとも労働力不足の分野があるということだろうが、それは具体的にどの分野なのか。本当に日本人の失業者ではカバーできないのか。
 「情報技術などさまざまな能力」というからには、情報技術分野では労働力不足だということだろうが、本当にそうなのか。たしかに、高度な情報技術者については不足といわれるが、そうした高度技術の持ち主は現行制度下でも問題なく日本で就労できる。しかも、現行制度のいう「高度技術」というのは、大学卒くらいであれば可という程度のかなり緩やかなものである。それを下回る程度の情報技術者をわざわざ海外から招く必要があるのか。
 結局のところ、問題は技術ではなく賃金であるというのが実態だ。不足なのは情報分野ではなく低賃金分野なのだ。「競争を通じ日本の労働者への刺激にもなる。」というのは、要するに日本の労働者の賃金が競争で下がるということになる。それでもなお、「失業率が高いからといって外国人の受け入れ拡大に慎重にならなくてもよい」というのは暴論ではあるまいか。
 少なくとも、暴論か否かにかかわらず、こうした問題が明らかにならないような書き方はすべきではないだろう。

■2003/07/03 (木) 恥ずかしい「エリートの愚痴」

 きょうは「大機小機」から。匿名のコラムのため無責任な言いたい放題で、またそれが面白いわけだからあまり噛みつくのもどうかとは思うが、ちょっと目に余るので。
 「人本主義から資本主義へ」というのだが、まず「人本主義」についての認識がおかしい。まあ、著者はご自身の「人本主義」概念をお持ちなのかもしれないが、普通(新聞記事などで)「人本主義」といえば、伊丹敬之氏が著書「人本主義経営」で提唱した概念だろう。だとすると、「人本主義経営は持ち合いで資本(株主)を空洞化する一方、企業と運命共同体の関係にある人間(従業員)が出資者に近い形で企業にコミットしている」という書きぶりはどうなのだろうか。人本主義経営とは株の持ち合いである、とは伊丹氏は言っていないと思うのだが・・・。まあ百歩譲ってそういう解釈も不可能ではないとしても、いかにも一面的で偏っている。
 賞与や退職金(の一部)を自社株で支払って持ち合いを解消するというアイデアは、まあ一種の冗談のようなものなのだろうから、まともに議論することもなかろうが、このアイデアは要するに単なる現物給付なのだから、それをストックオプションやESOPの日本版というのはあまりにこじつけに過ぎる。これはさすがに知らないわけはないだろうから、一種の確信犯だろう。さらに「経営者と従業員が真の株主が現われるまでのつなぎ役に」なるというのだが、それでは世間にあまたいるオーナー経営者は「真の」株主ではないというのか?
 また、「無為に契約不履行(破たん)を待つよりはましだ」といわれるのだが、これはいったい誰と誰のどんな契約が不履行されるというのだろうか?
 まあ、いわばエリートの愚痴のようなものなのだろうが、いかに匿名だからといってこうした卑しいデタラメをエリートが全国紙に書き連ねると言うのも、なんとも恥ずかしい話ではある。書いてるご本人はこれこそが正論と信じておられるのかもしれないが。

■2003/07/02 (水) とんちんかんな「ばらまき」批判

 もうひとつ週末の記事から。29日の朝刊3面に、「つなぎ雇用」18万人という記事があり、失業者を一時的に公的部門で受け入れる緊急地域雇用創出特別交付金事業の雇用者数が2002年度に計画を4万人上回る18万人に達したことが報じられている。そのうえで、「つなぎ雇用の終了から約半年間に…新たな職に一度も就いていない人が35%いたことも分かった。」「予算規模に比べ常用雇用への移行が進まず、「ばらまき」との批判が強い。今回の調査結果に、政策効果を問い直す声が高まる可能性がある。」と述べている。
 これに関しては、トライアル雇用事業の8割が常用雇用に移行していることとの比較などから、経済産業省がかねてから同様の批判を行なっているが、しかしこの批判はまったくの見当ちがいと云わざるを得ない。
 この事業は、そもそも失業者の一時的吸収を意図したもので、「第2の失対事業としない」という理由で、原則6か月以下の有期とされ、常用化は禁止されている。もともと常用化を意図したトライアル雇用事業と比較することがそもそも間違っているのだ。しかも、トライアル雇用事業は、常用化しなかった場合には事業主に事実上のペナルティがある。常用移行の比率が高くなるのは当然なのだ。
 それに対して、つなぎ雇用事業のほうは、ハナから再就職が困難な人を救済するという色彩も強い。たとえば、建設業から失業した50代後半の失業者などは、つなぎ雇用で文字どおり「つなぎ」ながら、徐々に引退させていくといった政策も必要なのだ。
 すなわち、これが14万人の計画を4万人も上回ったということは、まさに雇用情勢の深刻さを示すものであり、こうした施策をさらに強化することが必要であることを示していると考えるべきではあるまいか。
 「ばらまき」批判というところに惚れたのかもしれないが、こうした事情を知ってか知らずか、経済産業省の受け売りをするのでは、まことに低レベルな記事といわざるを得ないだろう。

■2003/07/01 (火) みんな同じで気持ち悪いよ

 もうひとつ週末の日経から株主総会の話題を。29日(日)朝刊7面の「経営の視点」というコラムで、編集委員の水野裕司氏がやはり総会ネタを取り上げている。いわんとしていることは、三井化学と住友化学、あるいはセガとサミー、ナムコの合併が不調に終わったことについて株主総会で「長期にわたる交渉を見守ってきた株主に詳しい説明はなかった」のが「株主重視」に反していてけしからん、ということらしい。
 まあ、説明するにこしたことはないのかも知れないが、不調に終わった背後には公開になじまない事情も多々あるわけで、「合併構想を打ち出したものの結局は不調だった」ということで、それらをすべて公開するという懲罰的な処置が必要かどうかは疑問だ。
 コラムはその根拠として「他社との統合、事業再編など企業価値を左右する経営判断は、どれだけデータを集めて検討し、経営陣の間でどのように議論を重ねた結果かを株主に開示する必要があるというのが企業法務の専門家の見方。」「株主総会の特別決議に諮らずに済む簡易合併制度」で他社と合併し「吸収した側の企業は、「統合時は総会にかけなくても、その後の定時株主総会では統合の目的、経営戦略を説明するべき」(中島経営法律事務所の中島茂弁護士)という。」などと専門家の見解を引用する。しかし、これは統合や合併が成立した場合の話だ。記事は「白紙撤回の場合もこれらを示すことで説明責任を果たしたと言える。」と決め付けているが、これは「専門家」「中島茂弁護士」の見解ではなく、水野氏の勝手な思い込みに過ぎないのではないか(それにしても巧妙な書き方だ・・・。)。
 白紙撤回の詳細な事情が知りたい株主は、株主総会で質問すればいいのだし、回答に不満なら、株を売却するなり、回答した取締役の選任の議案に反対すればよいのだ。水野氏が株主がどれほど偉いと思っているか知らないが、経営者に無理やり質問への回答を強要することはできないはずだ。裁判所での訊問とは違うのだ。
 それにしても、株主重視が滑った転んだという話をめぐる日経の編集委員、論説委員の意見の一致ぶりは気持ち悪いくらいだ。うっかりワンマン経営者の意に反する社説を書いてしまったばかりに左遷されてしまったといわれる名物論説委員(だった)佐野正人氏のみせしめがきいているということだろうか。

「日経病を断つ」にもどる

ホームにもどる