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(1)はじめに ここ数年の新卒就職戦線は、「超氷河期」などと言われる厳しい状況が続いており、新卒就職に関する世間の意識や、学生の行動などにも変化が見られる。 本稿では、新卒採用に関する世間の認識と、供給側である学生・学校の認識・行動、および需要側である企業が求める人材像とがどのくらい一致しているのかを、学歴・職種別に、企業実務の立場から検討してみたい。特に、最近の目だった傾向として、商業高校などの職業科の学校にとどまらず、普通科高校の学生や大学生にもさまざまな公的資格を取得する動きが広まっているので、これらの資格が企業にとってどのような意味を持つのかに着目している。 検討に利用するデータは、供給側については主に本研究会が2000年2月に実施した高校・短大・大学の進路指導担当者へのアンケート(以下学校調査という)を用いる。需要側については、簡単な調査をふたつ実施している。一つは、企業の採用担当者を対象とした、各企業の採用活動に対する実務担当者個人の感想を聞くアンケート調査であり、2000年6月に、某製造業界経営者団体の全面的なバックアップを得て、同連盟加入企業53社の実務担当者53人を対象に実施し、42人から回答を得た(以下某団体調査という)。某製造業界を対象としたのは、高校、短大、大学卒のそれぞれから、事務、技術、現業の各職種のまとまった数の採用を行っているからであるが、業種・業界によるバイアスが当然発生すると思われるので、もうひとつ、主に人事担当者や管理職、組合役員などが参加しているパソコン通信のフォーラムおよび同様のメーリングリストを活用して、一種のヒヤリング調査を実施し、6月8日から17日までの間に、14人の回答を得た(以下ネット調査という。なお、ネットワークの特性上、これらの回答の多くは匿名であり、属性も不明な点が多い)。ネットワーク利用者を対象とすることで、情報通信関連やネットビジネスなど、某製造業界とは対称的な業種・業界に従事する人の回答を得ることを期待した。 (2)大学卒・総合職 まず、大学卒の総合職について見ていく。 大学卒の採用についての世間一般の認識としては、2000年5月8日付全国紙の新卒就職特集が、「企業側は『即戦力』となる人材の選別姿勢を強めており、学生にとって就職戦線のハードルは依然高い」と総括しているように、これまでは主に中途採用について言われてきた「即戦力採用」が、新卒に対しても広がっているとされているようである(注1)。 これを反映して、学生たちが資格取得への熱意を見せている。たとえば、同志社大学の調査では、同大学の1〜4年生の学生の約6割が何らかの資格取得に取り組んでおり、その理由も、「就職に有利」とか、「希望する職種と直結」といったものが多くあげられている(注2)。これは、「即戦力」たりうる能力を身につけるとともに、企業に対して自らが「即戦力」であるらしいことを示そうという意図であろう。 こうした世間や学生の意識に対して、大学はどう見ているのかを学校調査で確認してみたい。まず、就職できない理由から見てみる(図表1)。 [図表1]就職できない学生にあてはまるもの(大学)(%)
「自分に向く仕事がわからない」という回答は、職業適性にとどまらず、能力的な意味も含んでいると考えれば、回答の上位には能力的な問題を指摘するものが並んだ。 次に、逆の観点、就職できる学生はどんな学生であると考えられているかを見ると、上位から、「自分の意見や考えを明確に表現できる」「性格が明るい」「自分の適性や能力を理解している」「従事したい仕事内容が明確である」「就職したい産業や企業が明確である」「社会人としてのマナーがある」「相手の状況を考慮して話ができる」「一般常識がある」「社交性がある」ここまでが複数回答で半数を超えている。一方で、「学業成績が高い」は17.7%に過ぎず、「社会的・公的資格がある」は9.0%と、1割にすら満たない(図表2)。 [図表2]内定をたくさん得る学生のそうでない学生に比べた特徴(複数回答、%)
この結果を見ると、学校は、企業は能力の高い人を求めているとは考えていても、『即戦力』を選抜していると考えているかどうかは、かなり疑わしいと考えざるを得ない。本研究会がヒヤリング調査を実施した大学の就職指導担当者も、「今は厳選採用が行われている」との見解であり、「即戦力」という言葉は出なかった。また、こと資格に関しては、先ほど引用した同志社大学の機関紙でも、大企業の人事担当者2人の談話を掲載しているが、いずれも資格と採用の因果関係には否定的である。 企業の実感はどうかを、まず某団体調査で見てみる(なおこの調査は、業界の採用実務の実情に合わせて「大学卒・総合職」について聞いているので、学校調査とは必ずしも対照はできないことをお断りしておく)。まず、世間で「即戦力採用」と言われていることに対する採用担当者の実感をきいてみた(図表3)。 [図表3]「即戦力採用」に対する実務担当者の実感(%)
次に、資格についても聞いている。 [図表4]資格と採用との関係(%)
次に、ネット調査を見て見たい。まず、「即戦力」採用については、次のような意見が寄せられた。 新卒採用で『即戦力採用』なんてのは、幻影ですよね。大学を出た途端に戦力になるなんてのは、お茶くみくらいではないでしょうか。でも、現場に出して、まもなく力を発揮しはじめる人というのもいるもので、そういう人を求めているということはあると思います。 即戦力採用というのは中途採用にはある程度あてはまりますが、新卒採用ではほとんど意味をもたない、というのが現実だと思います。新卒にも一定の戦力性を求めたいという気持ちはあり、それを売りにできる人が応募しないものかという期待はありますが、幻想に過ぎないのかも知れません。 また、資格に関しては、次のような意見が寄せられた。 情報処理技術者について言えば、猛勉強して合格してなんの意味があるの、って感じです。免許制度でないんだから猛勉強して合格してもなんの意味もないのと違うかな??なにも勉強せずに、日ごろの実力だけで合格してこそ意味があると思います。 実際に『長期雇用熾蝿逅x要員の採用面接をやっていて、『頑張っていろんな資格を取りました』という涙ぐましい履歴書や人物を見ると、『君のケースでは、そんなことは大して評価しないんだよ』と可哀想になることがありますし、そういうケースが最近増えている、というのが実感です。 英検1級合格して、通訳になれるわけないし、簿記1級合格して、税理士事務所が顧客を担当させるわけにはいかないし、試験と実務は、ぜんぜん違うはずです。いかなる業界でも。だって、簿記検定の試験委員は、学者ですよ。実務家じゃないんです 公的資格や専門学校で教えている中身があまりにも教科書的で、実務と遊離していることも事実。 資格等を勉強するよりも、『会社に入って学ぼう』という姿勢が大事ではないか。 以上の結果をみると、まず、「プロ野球の開幕戦でヒットを打つ」といったようなイメージでとらえられている「即戦力」採用という世間一般の認識は、企業サイドのニーズの実態とは明らかにずれがあることが認められる。企業が仮に「即戦力」という言葉を使ったにしても、その実は潜在能力重視が大半を占めているということが言えるように思う。これは、図表1・図表2に示された学校の認識とも整合していると思われる。 また、公的資格についても、それが採用に直結することは少ないようであり、学生が資格取得に熱意を傾けることはあまり合理的ではなさそうである。前出の同志社大学の調査では、実際に就職活動をした4年生に、資格が就職活動に役だったかどうかを聞いているが、肯定的な回答は3分の1に過ぎない。ただし、資格を、能力を示すシグナルと受け止めている企業も4割程度あるので、難度の高い資格を取得することには一定のメリットもあると考えられるし、それが3分の1の肯定的評価につながっているとも考えられる。 次に、企業が求めている人材に関する学校の認識と企業の認識の違いを確認してみたい。図表2に示した学校調査に対応した設問を、某団体調査でも設定してみた(図表5)。 [図表5]企業が大学卒・総合職の採用で重視するポイント(複数回答、%)
おおむね、学校調査と整合的な結果となっており、学校は毎年の就職の状況から、企業の姿勢をよく了解していることが伺える。 ネット調査で示された求める人材像は、次のようなものである。 新卒であれば、いわゆる『地アタマの良い人』を、どの学部とかに関係なく採用することになるでしょう。そして自社の固有の技術やスキルに深くインボルブさせて、流動性を防ごうとします。 うちらのような中小企業の場合、その人のスキルがどうこうであるというよりは、どのくらい商人かで決まってくるものがあって、どちらかというと『地頭の良さ』みたいなのがどうしても必須で、金勘定がうまいとか、商売引きが良いとかそういったものを求めています。 【欲しい人材(例えば経理)】 ◆経理を覚えたい ◆まずは現金から覚えよう ◆書類の書き方はわかった ◆書類を書くのが面倒 ◆じゃ機械を使って管理できないか? ◆パソコンで管理できるからやってみよう ◆エクセルが便利な気がする ◆エクセル教室で勉強しよう という順番でエクセルを勉強し、そして徐々に経理のプロになっていくわけです。で、こういった人材は各社総じて欲しいハズなのです。 二番目・三番目の意見は、二人とも20代後半のベンチャー経営者であり、三番目は特にネットベンチャーの経営者である。どちらも「即戦力」指向ではなく、特に二番目の意見は、明かに潜在能力重視であることが注目される。 それでは、要するに頭が良ければよいということなのか、ということになるので、某団体調査では、あえて「頭が良い」という項目を追加してみた。ところが、図表5に示したとおり、これは「学業成績が良い」ともども、あまり支持を集めなかった。 企業の求める潜在能力、ネット調査にある「地アタマの良さ」というのは、勉強ができるとか、先天的な知能指数の高さばかりを意味するものではないらしい。むしろ、「金勘定がうまい」「商売引きがよい」などといった資質を包含した高い知的能力が求められているようである。これを、「自分の意見や考えを明確に表現できる」ことをほとんどの企業が求めており、ほとんどの学校が内定のたくさん取れる学生の特徴として上げていることと組み合わせて考えると、「ものの見方・考え方が論理的でしっかりしている」ことが大切だとも言えるように思う。また、「新しいことへの関心が高い」が、某団体調査では学校調査をかなり上回っている。知的好奇心の高さは、学校の認識以上に企業は高く評価するということであり、注目されてよいと思われる。さきほどのネットベンチャー経営者の意見と合わせて考えると、単なる新しいもの好きというだけではなく、自分の仕事に目標、目的を持って、それを達成・実現するために、新しいものを探し、取り組んでいくという姿勢が、きわめて高く評価されると考えられる。実務家的な表現を使えば、「問題発見・問題解決」といったこととも通じるものがあるだろう。 なお、「国際的な感覚を身につけている」が学校調査の4倍にも達しているのは、某製造業界というバイアスが強いものと思われる。また、「自分の能力や適性を理解している」「就職したい産業や企業が明確である」「従事したい仕事内容が明確である」については、軒並み某団体調査が学校調査を大きく下回っている。前2者については、学生の就職活動全般について考える学校と、応募してきた学生について判断する企業との立場の違いによるものであろうが、「従事したい仕事内容が明確である」については、それに加えて、長期雇用・内部育成の枠組みの中では、あまり歓迎されない一面もあるかも知れない。 さて、ここまで、企業の求める人材は潜在能力重視であり、それを長期雇用・内部育成で活用していくという人材戦略に大きな変化はないと述べてきたが、その一方で、図表3において、「すぐに活躍できる人を選別」が14.8%、図表4でも「優先的に採用」が12.8%を占めているということは、それだけの割合で、世間でいわゆる「即戦力」が求められているということであり、これはこれで注目に値する。 たとえば、三洋電機では、2001年4月入社の大学新卒採用の中で、公認会計士補や弁理士などの資格を持つ新卒者を、「オーナーマインド社員」として、新入社員の年収を相当程度上回る年俸の一年契約(一部出来高払の特約もあり)で採用したという(注3)。こうした動きが拡大しつつあることは事実であり、学生がそれをめざすことも意味がある。 ただし、このような「即戦力」に関しては、ネット調査で次のような意見が寄せられているように、長期雇用ではなく、短期的な労働力による別のカテゴリーを形成するのかも知れない。オーナーマインド社員が1年契約であることもそれを示唆しているように思われる。 当座使える社員は派遣社員、という企業が増えていき、おいしいときだけ使…うというのが一般化されるのかなと思っています。 一方、付加価値は高くても、コア・コンピタンスではない業務、例えば会計士、法務、情報システムなどは、むしろ市場価値の高い人材を市場調達し、市場価値で処遇する、つまり、そもそも市場価値が高く流動性が高い人材なので、長期的雇用は前提とせず、あくまでニーズベースでお付き合いするということになります。 上智大学の八代尚宏教授は著書の中で、「成績優秀な学生は、調査部でただちに役立つだろう」と述べられている(注4)。こうした人材が活躍できるのは、多岐にわたる企業の仕事の、おそらくはホワイトカラー職種の一部に限られるだろうし、どこまで拡大するかは不確実であるが、しかし、こうした分野をめざして、「市場価値が高く流動性も高い人材」となろうとする学生も増えているだろうし、そうした新卒者を採用する企業も増えているということではあるまいか。 とはいえ、三洋電機の2001年の大卒(高専卒をふくむ)の採用計画が190人であるのに対して、オーナーマインド社員は5人にすぎない。したがって、あたかも「即戦力」の採用が大勢であるかのような世間一般、マスコミの論調は事実に符合していないことに変わりはない。 また、ネット調査では、次のような業種による例外を主張する意見も寄せられている。 (金融業界では)外資系が人材の引き抜きを仕掛けてくる中で、家族主義的にojtで『会社が育てる』という発想が通じなくなり、労働者には『自分で自分を育ててもらう、育てる』というのが『即戦力』という言葉でくくられているのだと思います。 外資系では、私の知る限り、ずっと『即戦力』の採用だと思います(日本に根付いている大手企業は別として・・・) 金融産業については、わずかな新陳代謝はあるにせよ、労働市場の実態は限られたスターの奪い合いになっており、別扱いが適切と考えます。 小嶺敦子女史が、外資系・金融業界を中心とした転職・失職に関するルポルタージュを発表している(注5)。これを読むと、金融関連やシンクタンクなどの業界では、外資系を中心として、局所的ながらかなり流動的な労働市場が成立しているようであり、そこでは、ネット調査で寄せられた意見のように、流動的な市場の中で文字どおりの「即戦力」採用が行われている実態もあるらしい。 とはいえ、金融業界についても、たとえば生命保険会社における資金運用業務において、長期雇用を前提したojtによる社内育成が行われているとの実証的研究もある(注6)。決して全面的に「即戦力」採用となっているわけではない。したがって、やはり、あたかも「即戦力」の採用が大勢であるかのような世間一般、マスコミの論調は事実に符合していないことに変わりはない。 (3)高校短大等卒・一般職 高校短大卒・一般職についても、新卒採用の状況を簡単に見てみたい。まず短大について、就職できない理由を学校調査で見てみると、大卒とほとんど同様の傾向を示している(図表6)。特徴的なのは、最もあてはまるもの一つの選択については「就職機会がない」が最多となっており、市場要因の影響が非常に大きいと考えられていることである。昨今、短大卒の最も一般的な職種である一般職(事務補助職)の採用は、oa化などによる合理化の進展によって減少しており、構造的な問題があると考える必要がある(注7)。 [図表6]就職できない学生にあてはまるもの(短大)(%)
また、内定をたくさん得る学生の特徴を学校調査で見てみると、やはり大卒とほとんど同様の傾向を示しているが、特徴的なのは、「自宅が勤務地に近い」が大卒の3倍以上に上っている点である(図表7)。 [図表7]内定をたくさん得る学生のそうでない学生に比べた特徴(複数回答、%)
次に高卒についてだが、学校調査ではこちらは大卒・短大卒のような「就職できない理由」「内定をたくさん得る学生の特徴」といった設問はない。現実に、学校による就職指導が大きな影響力を持ち、学校推薦による一人一社制(単願制)が一般的な高校新卒採用においては、そのような設問は大卒ほどの意味はないのかも知れない。 むしろ、本研究会の実施した、高校の就職指導担当教諭2人からのヒヤリング調査から、興味深い指摘がなされている。一般職に関しては、都立の名門商業高校教諭からの、資格に関する次の指摘が注目される。 「珠算、簿記からコンピュータ関連など、資格の取得を積極的に奨励している。難しい資格を複数取得する生徒も多い。企業から『何もできない大学生よりは』と言ってもらっている」 これについても、学校調査で職業資格に関わる指導について訊ねており、95%の学校が資格取得の指導を行い、72%の生徒が現実に資格を取得していることが確認されている。また、資格と就職との関係については、約8割の学校が「有利」と判断しており、大学とは際立った違いを示している。 学校調査およびヒヤリング調査で示されたこうした見解について、実務担当者の実感はどうか、某団体調査で追跡してみたい。なお、某団体調査は、調査対象の実務の実態に合わせて、「高校短大等卒・一般職(事務補助職)」と「高卒・技能職」とについて設問している。 まず、高校短大等卒・一般職について、採用の際に高く評価するポイントについて聞いた結果を見ると、「明るい、元気、協調性などの性格面の良さ」が95%と集中的であり、他は「適性検査の結果がよい」がなんとか半数を確保したにとどまっている(図表8)。 [図表8]高校短大等卒一般職の採用にあたって高く評価するポイント(複数回答、%)
能力の高さより性格や意欲を重視する企業の姿勢が明かに見て取れるが、これは、一般職(事務補助職)という職種の性格上、潜在能力の高さより、職務に適した性格面の長所を重視していることの現れであろう。 ネット調査においても、次のような意見が寄せられている。 「付加価値がそれほど高くない仕事でも、即戦力になる人材、例えば体力やスタミナがあるとか、我慢強いとか、几帳面であるとか、いわれたことをちゃんとやる人材とかも当然必要」 なお、「自宅通勤である」は5%の企業しかあげておらず、大学の認識とはずれがある。筆者の感覚でも、均等法以来、「一般職は自宅通勤」といった方針を持つ企業はどんどん減少しており、多くの企業が、「自ら住居を確保・維持すれば、自宅通勤にはこだわらない」という方針に転換しているように思われる。 資格に関しては、やはり「優先的に」との意見は少数派である(図表9)。 [図表9]資格と採用との関係(短大・高校等卒一般職)(%)
しかし、少数派とは言え、大卒や高卒・技能職に比べるといくらか高い数値を示しており、商業高校教諭の指摘した「何もできない大学生よりは」というのはこのあたりに出ている言えるかも知れない。 むしろ興味深いのは、「まじめに粘り強く勉強した」というシグナルとして受け止めるという回答が65%近くに達しているのに対し、「頭が良い」というシグナルとして受け止めるという回答が皆無だったことである。これは、図表8で見られるような、企業が重視する職務に適した性格を持っていることのシグナルとして、資格が非常に有効に機能していることを示している。ここに、学校調査で、約8割もの学校が「資格取得は就職に有利」と回答した根拠があると考えられる。前出の商業高校教諭も資格取得、特に簿記について「ひとつのことに集中して取り組む姿勢を養う」ことを目的の一つと述べている。 (4)高卒・技能職 最後に、高卒・技能職の就職について考えてみたい。本委員会のヒヤリング調査では、都立の新興普通高校教諭から、次のような指摘がなされた。 「現行の一人一社制(単願制)においては、現在のような求人不足の時期には特に、求人数より希望者が多い場合には、成績や欠席日数など、本人や親の納得の得られやすい基準によらざるを得ず、本人の適性や能力が反映できないことがある。また、生徒によっては、学校の推薦が得られないためにまったく就職試験を受験できないというケースが発生する」 高卒の採用では、事実上企業は学校に対して求人を行い、各高校では、進路指導の教諭が中心となって、本人の希望や適性、保護者などの意向などについて話し合いや指導を行い、最終的に、学校が企業の求人に対して学生を推薦する。この時、一人につき一社だけを推薦することで、合格した場合は必ず就職する(辞退しない)ことを保証しようというのが一人一社制である。単願制ともいう。企業は学校推薦のない生徒には受験させないかわりに、学校から推薦された生徒は相当の難点がない限りは採用する。これによって、企業は辞退のリスクを大幅に軽減し、必要数に辞退と不合格の安全値を加えただけの求人と試験を行えば良いことになり、効率的な採用業務が可能となる。学校も、まだ成年に達しない生徒に、多数の受験という負担をかけずにすみ、また、全員に一社ずつ推薦を行うことで、安定的に就職口を確保することができる。このような企業と学校の長期的信頼関係にもとづく調整が長年にわたって行われてきた。こうした慣行は、高卒に限らず、短大卒や大卒の技術系などの一部にも見られる。 この慣行下においては、ある企業の求人数に対して希望者が多かった場合、誰を推薦するかについて学校内で選考を行う必要が出てくる。この時の選考基準について、学校調査で聞いており、成績、欠席日数などが重視されていることが確認されている(図表10)。 ![]() [図表10]生徒の就職希望先が重なった時の選考基準 (資料出所)学校調査。最も重要ものから3つ選んでもらい、1位=3点、2位=2点、3位=1点として数値化。 次に、某団体調査で、高卒・採用に際して高く評価するポイントを見ると、「明るい、元気、協調性などの性格面の良さ」であり、次いで「高校の欠席日が少ない」「課外活動でリーダーシップを発揮した」となっている(図表11)。チームワークを乱さず、作業労働に地道に取り組むといった、性格的な特徴が重視されているものと考えられる。図表10と比較すると、最も重視される性格面の良さ、人柄は、学校の推薦基準では軽視されている。一方で、学校が最も重視する成績は、企業はあまり重視していないというミスマッチが観察される。欠席日数については、双方が一致して重視しており、これについてはうまくマッチしていると言える。 [図表11]高卒技能職の採用にあたって高く評価するポイント(複数回答、%)
これはもちろん、某製造業界というバイアスがかかっていると考えるべきであるが、それにしても前出の普通高校教諭の指摘は当たっていると言えると思われる。 このようなミスマッチが発生する理由として、学校側の情報不足、企業側の情報提供不足が考えられる。 しかし、学校調査によれば、およそ7割の学校が、「職場環境や実労働時間」「職務内容」について、「継続的に採用のある企業については良く知っている」としているし、約3割は「同じく一部についてはよく知っている」としている(図表12)。 [図表12]高校進路指導部がつかんでいる求人企業の情報(%)
一方、某団体調査を見ても、大多数は仕事について「イメージは持っている」と評価している(図表13)。 [図表13]新入社員(高卒・技能職)の仕事に対する事前理解(%)
このように、学校も生徒もそれなりに企業、仕事についての情報は持っていると推測されるため、ミスマッチの発生する原因は、情報不足というよりは、普通高校教諭の指摘した「納得のいく理由」などが大きいのではないかと思われる。 (5)小括 以上述べてきたことを簡単にまとめてみる。 大学卒・総合職の採用については、潜在能力の高い人を採用し、長期的に育成するという企業の姿勢は基本的に変化していない。いわゆる「即戦力」を求める動きも一部に見られるが、それが主流となったと考えられているのは誤りである。 短大、高校卒・一般職の採用については、企業は潜在能力より性格的長所を重視しており、学校や学生の認識にも違いはない。ただし、この職種はoa化やアウトソーシングなどで代替され、構造的に需要不足となっている。 高卒・技能職の採用については、企業は学校の成績より性格面の長所や適性を重視する傾向がある。一人一社制(単願制)の慣行のもとで、企業のニーズと学校の推薦にミスマッチが発生している可能性がある。 資格取得については、大卒に関しては企業のニーズとマッチしておらず、非合理的なものが多い可能性が高い。高校短大等卒一般職については、資格のスキルが生きるというより、企業の求める性格を示すシグナリング効果が高く、その面で合理的である。 (6)政策を提言するとしたら 1.需給の改善 以上から、若年層の就業状況を促進するために、どのような施策が考えられるだろうか。 まず何より、需給を改善するということである。企業の求める人材に関する基本的な思想は大きな変化がないのだから、就職先が減っているのは採用人数が減ったことの影響が大きいと考えるのが自然である。労働需給の改善には景況の改善がなによりであり、これに向けた政策運営が望まれる。また、若年層には、将来にわたって活用できるスキルを蓄積することが望ましいことは言うまでもなく、今後、雇用吸収力の向上が期待できそうな成長分野に対して、その育成や雇用増のための施策をより一層集中していくことも効果的ではあるまいか。 2.求める人材像の明示 企業が求める人材像について、正しく理解されていないことがミスマッチの原因となっている可能性は否定できない。特に、大卒に関しては、マスコミなどの影響で「即戦力」採用が主流という誤ったイメージが広がり、学生がこれにもとづいて不合理な行動を余儀なくされている可能性が高い。企業はその求める人材像を明確に提示することが望まれる。 これは、「市場価値が高く流動性も高い人材」を採用しようとする場合にも、同様である。むしろ、企業としてもどのような人材をどれだけ必要としているのか、雇用契約はどのような場合に更新され、あるいは更新されないのか、労働条件はどのように決まるのか、などを、さらに明確に開示することが必要である。もちろん、学生も学校も、これらの内容を正しく理解した上で就職活動に、ひいてはそれ以前の能力形成にのぞむ必要がある。 その他、比較的よく周知されていると思われるが、それでも、高校短大等卒・一般職については一般事務職のニーズが構造的に低下していることや、高卒・技能職については、成績は比較的重視されず、他に重視するポイントがあることなど、十分な理解が得られるよう、企業は自らの人材ニーズについて情報を発信することが求められる。それがまた、学校によりよい対応を促して行くことにつながるのではないかと思う。 3.大学生らしい勉学と生活 第三に、大学卒については、企業の求める人材像を正しく念頭に置いた能力形成を進めることがあげられる。これまで見てきたように、一般に信じられている「即戦力採用」については、誤解の部分が大きく、したがって、これを念頭においた資格取得や、専門学校での学習は、それ自体は有益なことであるにしても、こと就職のマッチングという面では不合理な可能性が高い。 企業の求める人材像の最大公約数的な部分を取り出すと、潜在能力が高い、具体的には、「自分の意見や考えを明確に表現できる」「ものの見方・考え方が論理的でしっかりしている」、そして、大学にはあまり認識されていないが、「仕事上の目的達成に向けた知的好奇心」「問題発見・問題解決」といったものである。 これらを形成するための方策については、一介の実務家に過ぎない筆者の到底論じうるところではない。しかし、あえて力不足を承知の上で申し上げるならば、やはり「大学の勉強にしっかり取り組む」ということではないだろうか。もちろん、企業実務の立場から大学教育に申し上げたいことはいろいろある。とはいえ、大学の勉強は受験勉強のような詰め込みの暗記教育とは明らかに異なる。それは知識の吸収ということ以上に、知的能力のトレーニングとしても有用なものであるはずである。とりわけ、演習や論文などは、「自分の意見や考えを明確に表現できる」能力を高めるにも役立つように思われる。優れた指導者であれば、「仕事上の目的達成に向けた知的好奇心」をも育てることができるであろう。性格面で望ましいとされる「明るい、協調性・社交性がある」といった要素も、勉強でも趣味でも、積極的に他の人たちと関わるような活動に打ち込んでいくことで、自然と身についてくるものではなかろうか。これは、学生時代でなければできないようなことも多いはずである。 「仕事上の目的達成に向けた知的好奇心」については、ネット調査でこんな意見が寄せられている。先ほどのネットベンチャー経営者の意見の続きである。 が、逆に国のやってる政策は、 ◆経理にはパソコンが必須だからエクセルを覚えなさい ◆エクセル勉強しました ◆経理は過去にやってました ◆だから御社でもpcを使った経理が出来ます こんな人材の教育です。間違っても人事は欲しくないタイプですね。手段と目的がバラバラ、というか極論を言うと、目的無く手段ばかり。最悪ですよね、ハッキリ言って。職業訓練校の卒業生のうち8割がたはそんなヒトばっかです。面接する気にもなれません。何故pcが便利なのか?何故勉強したのか、したいのかすら、目的無く、単に就職したいから勉強しました、といわれると溜息しか出ません。 これは国の能力開発政策に対する注文だが、「経理は過去に」を「大学で会計を」に、「職業訓練校」を「専門学校」におきかえれば、大学生にもそのままあてはまってしまうような話である。本稿で見てきたように、日本企業はまだまだ内部育成で行こうという気持ちが強い。大学では大学生らしい勉学と生活に打ち込むのがよさそうに筆者には思えるのである。 4.一人一社制(単願制)の再検討 高卒・技能職について、学校推薦の選考基準と企業のニーズとにミスマッチが発生している可能性があることについて言及した。 これについては、基本的には、企業がそのニーズをより明確・詳細に学校に伝えるとともに、学校も、生徒や保護者などの一層の理解を得ながら、企業ニーズをふまえた推薦を行うといった、進路指導の強化を行うことが望ましいことは言うまでもない。しかし、こうした努力はすでに相当程度行われていることも事実であり、また、こうした人為的な調整には限度があることも間違いない。 また、一人一社制(単願制)ゆえに、需要不足時には就職試験の受験のチャンスすら得られない生徒がいるという声にも耳を傾ける必要があろう。 そこで、一人一社制(単願制)を改め、大卒の文科系に典型的に見られるような、自由応募・自由採用を取り入れてはどうかというのが、前出の都立普通高校教諭の意見であった。 これに対して、都立商業高校教諭は、一人一社制(単願制)の維持が必要との意見であった。「一人一社制(単願制)を廃止すると、企業はどんどん不合格を出せるようになる。優れた生徒はたくさん内定を得る一方で、内定を得られない生徒も現状以上に増えることになり、進路指導の責任が果たせなくなる」といった理由であった。 某団体調査でも、一人一社制(単願制)の是非について聞いている。 [図表14]一人一社制(単願制)についての企業担当者の意見(%)
一人一社制(単願制)については、継続を望む意見が大半を占めた。 企業にとっては、一人一社制(単願制)は効率的である一方で、自由に採用できれば、さらに良い人材、ニーズに合った人材が採用できるかも知れないという思いもある。また、心情的に、企業の採用担当者は、特に高卒については「できれば落としたくない」という気持ちも持っている。これらが「併存」という選択肢を選ばせた理由であろう。 とは言え、一人一社制(単願制)が学校と企業の信頼関係をベースに成り立っている以上、併存はなかなか簡単ではない。 一つのアイデアとしては、一次募集は一人一社制、二次募集は自由応募と、時期をずらすという考え方もある。一次募集で内定した生徒は二次募集に応募しないというルールで運用すれば、信頼関係を大きく損ねることもあるまい。他にもいろいろなアイデアは考えられると思う。最終的な実施の可否はともかく、検討は必要ではないかと思う。 (5)おわりに 本稿で見てきた、長期雇用・企業内育成重視の中で、一部専門的な仕事では短期的な労働力を活用していこうという企業の姿勢は、日経連が1995年に発表した報告書「新時代の『日本的経営』」で提唱している、いわゆる「自社型雇用ポートフォリオ」の考え方の一部に沿ったものである。報告書は、採用についても、「新規学卒者の一括採用が今後も中心となる」が、「中途採用などの通年の募集・採用等が試みられるべき」であり、また、「雇用期間、労働時間・労働日、職種、プロジェクト、勤務地等々による柔軟な採用も検討されるべき」としている。これも、本稿で見てきた企業の姿勢とかなり一致しているように思われるし、また、今後の方向性を示しているようにも思われる。 幸いにも、雇用情勢にも少し明るいきざしが見えてきたようである。今の若年層は、文科系の学生であってもインターネットやeメールは当たり前のように使いこなせるようであり、活躍の場が広がればどんどんいい働きをしてくれそうである。需給が逼迫してくれば、今度は企業の側が若年層の意識に合わせて魅力的な仕事と労働条件を提示しなければならなくなるだろう。若年者の意識は多様化していると言われる。それに対応して、日経連の報告書が示すような多様な働き方のメニューを準備することが、今後のわれわれ実務家の課題になりそうである。 (以上) 注1 2000年5月8日付日本経済新聞朝刊第2部「新卒就職特集」 注2 同志社大学広報部による同大1〜4年生の学生600人を対象としたアンケート調査(回答163人)、 同志社大学広報誌「one purpose」1997年6月号所載 注3 2000年8月15日日本経済新聞 注4 八代尚宏「人事部はもういらない」講談社、1998 注5 小嶺敦子「転職失敗私たちの地獄体験」文芸春秋1999年11月号、同「外資系社員“首切り” 拷問物語」文芸春秋2000年3月号 注6 飛田正之「資産運用の技能形成」日本労働研究雑誌2000年5月号 注7 労働省編「平成12年版労働白書」日本労働研究機構、140頁 |
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