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1.米国労働市場の現状 ▽要 約 ▼米国では、80年代末〜90年代初めには、不況下における企業のBPR推進 などにより、雇用状況が悪化していたが、その後、IT革命のイノベーションが 活発な起業を通じて経済社会全体に波及し、生産性向上、雇用創出を通じて 成長が促進され、景気が拡大した。 ▼成長軌道に乗ってからも、賃金は抑制され、資産価格、特に株価が高騰した。 賃金抑制が直接的に雇用の増加につながったほか、この資産効果が消費の拡大、 さらには企業活動の活性化につながり、企業向けサービス、小売、建設などを 中心に雇用が拡大するとともに、一層の株価の上昇、さらなる消費の拡大という 好循環をもたらした。 ▼また、新たなビジネスとして、人材派遣や医療関連サービスが拡大している。 ▼好況期に入って廃業率の低下する中で、起業による雇用創出が継続的に行われた ことも雇用増につながっている。 ▼雇用が増加し、労働需給が逼迫したために、失職者の再就職が容易となっており、 結果として労働力の流動性が向上している。これが企業の雇用調整を容易に するとともに、失業の社会的コストを軽減している。 ▼また、90年代前半の雇用情勢の厳しい時期に、エンプロイヤビリティ向上の 動きが起こり、企業もこれを支援したことも、再就職を容易にしている。 ▽各 論 ▼米国の雇用は直近でも増加を続けており、失業率も4%台前半で推移している。 米国の均衡失業率(よりよい職を求めて失業状態にある人以外は全員就労して いる状態=完全雇用状態における失業率)は6%程度から5%程度まで下がって きていると云われているが、それでも非常な逼迫状態であると云える。
(好況期に増加している米国の雇用) ▼米国では、1979年から1997での8年間で32%の雇用が増加したが、 好況期(82-89、91-97)に大きく増加し、不況期(79-82,89-91)は横ばいと なっている。90年代はじめは「ジョブレス・リカバリー」の時期であった。
(好況型産業で増加している米国の雇用) ▼米国では、92年2月から97年9月までの間に非農林雇用者で約1800万人の 雇用が増加したが、その内訳を見ると、活発な企業活動の要請に応える企業向け サービス(人材派遣、情報処理など)や、旺盛な個人消費に支えられた小売、 好況下の事業拡大にともなう建設など、好景気のために雇用が拡大していると いう側面が強い。その一方、医療・保健サービスのような新しい分野の ビジネスでも雇用が創出されている。製造業は欧州、中南米などへの海外移転の 進展もあって、雇用はあまり伸びていない。 公務員は、連邦・州レベルでは減少または横ばいだが、ローカルで大幅増。 (1992年2月〜1998年9月、千人)
▼80年代後半から90>年代前半の推移を見ると、米国における開業数および開業に ともなう雇用創出数には目立った上昇傾向は見られない。
▼むしろ、不況期に1%程度だった開業率と廃業率の差が、91年以降の好況期には 2%以上に拡大しており、廃業の減少、すなわち開業の成功の可能性が高まって いることが雇用増にも寄与しているものと思われる。
▼国際比較上も米国は開業率・廃業率ともに高く、また、開業率と廃業率の差も 大きい。日本は90年代前半〜半ばに開業率と廃業率が逆転して懸念されたが、 直近の状況は正常化している。ただしその水準は、米国だけでなく、英国や 独仏(開業率11%程度)と比較しても低い状況にある。
(開業が容易な米国) ▼このように、米国で起業が多いことの理由としては、次の点が上げられる。 1)開業に必要な資金の少なさ ◇米国では、不動産関連費用を中心に、日本に比べ開業コストがかなり低い。 2)資金調達の容易さ ◇エンジェルやベンチャーキャピタルのような、他人からの出資が、米国は 開業資金の2割以上であるのに対し、日本は1割強にとどまる。 また、金融機関の融資も、米国では日本のように実物担保を重視しない。 3)敗者復活の可能性がある ◇起業に失敗して破産した場合、日本では身の回り品を除く全財産を失うが、 米国では不動産や自動車なども一定限度までは差し押さえられない。 4)成功の可能性が高い ◇市場が大きく、成長力の高い米国では、起業の成功する確率が高い。 5)その他、米国では、ストックオプション制度や優遇税制などによる起業への インセンティブが大きいこと、起業家養成教育が活発に行われていること、 公的支援が効果的に行われていることなどが上げられる。 (it革命がビジネスチャンスと雇用を拡大) ▼米国では、IT革命=情報処理技術の画期的な進歩によるイノベーションが 他国に先行しており、これが起業の成功可能性と高めていると推測される。また、 雇用面でも、ITと関連深いハイテク関連雇用が大幅に増加しており、今後も その傾向は拡大するものと予想されている。
(賃金が上がっていない米国) ▼このような労働力の逼迫にもかかわらず、米国の実質賃金水準は過去20年間 横ばいもしくは微減傾向で推移している。企業の実質生産性向上分はほとんど 労働者に配分されず、企業価値の上昇=株価の上昇に振り向けられ、労働者の 保有する資産価値も上昇し、資産効果で消費が拡大するという循環が働いて いるものと想定される。
(好況下で容易な転職) ▼労働需給が逼迫する中で、リストラ、あるいは廃業などで失職しても、容易に 再就職が可能な状況となっている。ただし、過去の不況期には再就職比率も 低下しており、雇用の流動性は景気と労働需給に左右されると考えるべき (日本でも、バブル期に流動性の上昇を経験している)。
2.わが国に対する政策的示唆 ▼米国の現状には、わが国雇用の状況を改善する上で参考にすべき点が多々ある。 ただし、日米には、経済的・環境的に大きな相違があるため、米国の政策を そのまま日本に適用することには無理が大きいことに留意が必要である。 こうした観点から、次の政策を提案したい。 1.新規産業の育成、特に既存企業による新規事業進出の促進 ◇米国では、itをはじめとするハイテク産業の勃興をきっかけとして、それに とどまらず、サービス産業などに雇用増が大きく波及した。 わが国においても、こうした新産業が台頭する気運があるため、これを後押し するために、一層の規制緩和の推進や、起業支援策の強化が必要。 ◇また、わが国において、新規事業立ち上げに必要な信用力、人材、ノウハウ、 リスク負担力などを保有しているのは、既存企業、特に大企業である。その 中には、リストラの成果ですでに経営が改善している企業も多く、こうした 企業が積極的に新規事業に進出することを促進する政策が必要である。 ※前述のとおり、米国では日本に比べ個人が起業しやすく 成功しやすい環境があるが、日本にこうした環境を実現することは困難。 日本では、個人以上に、企業に新規事業創出を期待する方が現実的。 ◇具体的には、純粋持株会社や連結納税制度に代表される、柔軟な企業組織の 改変を可能とする制度改革のほか、行き過ぎた資本効率指標(ROEなど)の 重視により、新規投資が抑制されないようにするための施策を検討すべき。 ◇民間企業の役割としては、まずは業績の回復と経営基盤の強化に努めると ともに、十分なフィージビリティスタディによって事業分野を精選した上で、 新規事業の開拓に精力的に取り組むことが必要。 特に、既存事業の効率化によって一時的に余剰となった人員を、再教育して 新たな事業分野に振り向けていくことが重要。 2.失業なき労働移動の促進 ◇すでに、情報関連産業などを中心として求人が増加する動きがあるが、今後、 新産業育成・新規雇用創出が進んだ際には、雇用が減少する産業(金融業、 建設業、製造業など)から新産業への円滑な労働力の移動が望まれる。 ◇そのための政策として、次の施策の検討が必要。 1)新規雇用者に対する教育訓練の助成の拡大および訓練期間満了時に雇用を 継続するか否か改めて判断するtemp to permの普及 2)出向・転籍による「失業なき労働移動」を円滑に進めるため、出向等に伴う 労働条件低下を一定限度まで容認 3)出向・転籍のマッチングを行う民間サービスの育成・充実につながる 規制緩和および促進策の実施 ◇民間企業の役割としては、従業員が出向・転籍する際に必要な基本的なスキル (キーボードによる日本語入力や英会話など、確実に役立つことが見込まれる 基礎的な能力)を育成することあるいは従業員の自己啓発を支援すること、 出向・転籍先のサーチに努めること、転籍時の労働条件や転居などを支援 することなどがある。 また、出向・転籍を受け入れる企業は、OJTによって能力開発を進める 努力を行う必要がある。 3.俗説の誤り(米国の現状の間違った応用) ▼昨今、米国にならって、「解雇の規制を緩和し、職業能力開発を強化することで、 外部労働市場の機能を強化し、労働力の流動化を通じて雇用情勢の改善をはかる べき」との俗説が広く喧伝されているが、これは誤りであり、十分な留意が必要。 1)誤った俗説の概要 ◆米国では解雇に関する規制が非常に緩く、企業のリストラが容易である ことが経済の活性化につながっている。また、労働市場が流動化していて、 企業も労働者も職業能力の開発に熱心であり、そのため再就職が容易で、 また、失業者が起業に向かうほか、起業に必要な人材も調達しやすい。 ◆したがって、わが国でも、解雇の規制を緩和して企業の余剰人員を外部に 吐き出させ、こうした失業者に公的なセーフティネットを与えつつ、職業 能力開発を重点的に施して再就職や失業者による起業を促進させるべき。 それが労働市場の「構造改革」である。 2)俗説が誤りである理由 ◆市場は売り手と買い手が十分に存在することでその機能を発揮する。現在の 米国は双方が多数存在するからこそ、労働力が流動化している。それに対し、 現在の日本の労働市場は、圧倒的な買い手不足であり、解雇規制の緩和は そこにさらに売り手を増やそうとするものである。 事実、スウェーデンにおいて、同様の政策が採用され、好況期においては 非常に優れたパフォーマンスを発揮したが、最近やや景気が減速し、求人が 減少したため、訓練を受けて高い能力を持つ失業者が再就職できず、起業も 行われずに、外部労働市場に滞留するという事態が発生している。 ◆米国で失業者が新規起業に向ったことは事実だが、これは政府の軍事部門に 代表されるような優れた人材(しかも技術者)が失業したという例外的な 状況があったためであり、わが国で企業が余剰雇用を外部に出した場合、 そのような優れた人材が多く出てくることは考えられない。 ◆すでに失業している失業者の職業能力開発は必要であり、重要であるが、 失業者の能力開発は、修得した能力がすべて再就職後に生かされることは まれであり、むしろ、多くの努力が無駄となることも多い。 また、具体的な目的意識がないため、意欲の面でも問題がある。 むしろ、まず雇用されて、必要な能力・スキルを確定させた上で、それを 集中的に(OJTにより)修得することが、効率面でも意欲面でも優れた 方法である ※なお、修得状況が思わしくない場合など、訓練期間満了時に雇用継続の 可否を判断できるtemp to permの普及が望ましいことは前述の通り。 ◆解雇された人の雇用の受け皿のない現状では、失業者が労働市場に滞留し、 流動化は起こらない。かえって、失業者の増加が、購買力の低下や消費の 手控え・貯蓄の増加をもたらし、景気の悪化につながりかねない。 ◆逆に、出向・転籍による労働移動のしくみが発達しているわが国においては、 労働力の受け皿さえあれば、出向・転籍によることで、失業状態を経ること なく労働移動が可能である(すでに、鉄鋼や造船などの構造不況業種では、 企業グループ以外にも、出向・転籍による労働移動が行われている実績あり)。 出向期間中に、出向先でOJTを通じて必要な能力を集中的・効率的に 育成し、修得状況が良好ならそのまま転籍、そうでなければ出向を解除して いったん元の企業に戻るという、事実上のtemp to permを実施することも 可能。 |
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