玄田有史著

「14歳からの仕事道」

評論社よりみちパン!セ



 この本の「14歳からの仕事道」という書名は、ただちに大ベストセラーの村上龍著「13歳のハローワーク」を想起させる。中学生をターゲットにした(しかし大人の読者も十分意識しつつ)「仕事」の本、挿絵をふんだんにまじえた体裁といった点では、たしかに「13歳」のエピゴーネンであるともいえるかもしれない。しかし、内容についてはむしろ正反対といえそうだ。
 「13歳」は、仕事の百科全書の体裁をとりながら、むしろ著者の信念の告白に近い作品であった。その信念のよりどころとなるのは、著者自身のさまざまな体験や取材の印象、そして独自の倫理観といったものだったといえよう。是非は別として、少なくともその信念の根拠は科学的なものではなく、したがって大いなる独善ともいえるものであった。
 「14歳」もまた、信念の告白であるかもしれない。しかしそこには、その多くに著者自身が関与した調査にもとづいた、科学的な根拠がある。それが「14歳」と「13歳」の決定的な相違であり、作家と社会科学者の違いと言ってしまえばそれまでだが、どちらがより普遍的な説得力を有するかは明らかであろう。いずれ「13歳」のブームが去ったあと、「14歳」はますますその輝きを増すに違いない。
 そのほかにも、この小さな本には優れた特徴がいくつもある。なかでも第一にあげたいのは、その内容が私のような実務家の実感にもよく一致していることだ。もちろん、人事管理に非常に近い分野の本でもあり、異論を申し上げたい点も多々ある。しかし、この本の主要な主張である「やりたいことは簡単にはみつからない、わからなくてもいい」「わからなくても働こう」「やめたくなっても粘ろう」などのメッセージは、まことに私のような実務家の実感にあう。「13歳」が主張する「早く自分のやりたいことを決めなさい」「自分のやりたいことを仕事にしなさい」「サラリーマンやOLになることを考えるのはおやめなさい」といったメッセージが、私のような実務家にはひどい違和感を覚えさせることとは対照的だ。
 第二にあげたいのは、たしかに大人も意識してはいるだろうが、本気で「14歳」のために書かれているらしいということだ。それは日本の現実、実情をしっかりふまえて書かれているということでもある。だからこの本には、「日本では認められない個性ある若者が海外で飛躍する」などといった陳腐な、それでいて多くの人々にとってはおよそ非現実的なお話は出てこない。「日本の労働市場は、企業の人事管理はかくあるべきだ」といった議論も出てこない。あくまで普通の(ということばは著者は好まないようだが)14歳にとって現実的な対処が述べられる。これは実に誠意ある姿勢といえよう。ちなみに本づくりにおいても、平明でくだけた表現が心がけられ、多くの漢字にはふりがなが付されている。あまり長くないのもよい。著者独特の(悪い表現をお許しいただきたい。悪意はない)ちょっと拗ねたような語り口も、14歳にはむしろ自然に受け入れやすいものではあるまいか。これも、「13歳」が子ども向けを装いながら、妙に難解・晦渋な内容が多かったり、現実的でない事例を多用したり、すぐに社会や企業に対する批判が展開されたりするのとはまことに対照的だ。
 第三に、この本は「キャリア」という用語を避けているという(本文にはそうは書かれていないが、「オビ」には、「この本には『キャリア』というコトバは出てきません。でも、…ほんとうのキャリア教育の本です」と書かれている)。その真意は明らかにされていないので、想像するしかないのだが、しかしこれはある意味において私もおおいに共感する。「キャリア」というコトバには、「職業的成功」というイメージがぬきがたくつきまとう。実際、「キャリア官僚」という語を持ち出すまでもない。「丸の内キャリア塾」などといったセミナーの類で語られるのも、だいたいは転職成功者の自慢話ばかりだ。私は特段キャリアについて見識があるわけでもなんでもないが、しかし本当の意味での「キャリア」がそんなものではないとは思う。「キャリア」というのは職業生活だけに限らず、職業をその重要な一部として含む人生全体をいかに生きるか、ということだろうと思うし、「キャリア教育」もそうした観点から進められてほしいと思う(これは人事担当者としての願いでもある)。こうした意味で、私は著者がこの本で「キャリア」というコトバをあえて避けたことに共感を覚える。
 これらのほかにも、この本にはよい点、共感できる部分が多い(申し上げたい点も多々あるが)。多くの14歳にとってこの本は、著者のいう、目的も手段もわからぬままに「頑張る」のではなく、「冷静にファイトする」ための指針となりうるものではないかと思う。大いに売れて、大いに読まれることを期待したい。

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