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書名が「変われる会社、変われない会社」、著者はスタンフォード大教授で米国有数の経営学者とくれば、もう内容は読まないでもわかった、という気分になる。例によって、株主重視の経営をせよ、集中と選択に取り組め、過去のしがらみを断ち切り、従業員も取引先もドライに整理せよ・・・。 違うのである。 この本は、その手の凡庸な経営書ではない。敢えて極言すればこの本は事例集である。多数の成功事例、そして失敗事例。これらはきわめて示唆に富んでいる。その中から、成功と失敗を分けるものはなにかが明らかにされる。説得力にあふれた本である。 この本は、成功と失敗を分けるものは「知識」ではなく「行動」であるという。知識は成功した企業にも失敗した企業にもある。知識はビジネス・スクールで学べるし、おカネがあれば、コンサルタントにカスタム・メイドさせることもできる。失敗した企業にないのは「行動」である。 なぜ行動できないのか。この本は、知識を持つ人はたくさんいるが、行動からしか得られない本当の知識を持つ人は少ないという。優れた企業では平凡な人たちがすばらしい成果を上げている。これは、彼らが行動を通じて本当の知識を体得しているからだ。それに対して、優秀な社員をたくさん雇いながら、成果の上がらない企業もある。それは、優秀な社員たちは知識をたくさん持っているが、行動から得た本当の知識は持っていないからなのだ。 それでは、社員を行動に向かわせるためにはどうすればいいのか。ここで語られるのは、現場主義であり、失敗を許し恐怖感を与えない組織であり、社内での競争よりライバル会社との競争に目を向けさせることであり、結果でなくプロセスを評価することである。そして、長期的な経営ビジョンであり、情報共有であり、ojtであり、チームワークと人間尊重である。短期的な業績や株価の向上を求める投資家たちは、行動を促すことの阻害要因とされる。 とりわけ共感を覚えるのは、現実に行動する社員の行動に注目し、彼らが行動しやすくするような環境を整えるリーダーシップを強調していることだ。成功をもたらすのは企画部門ではなく現場で働く平凡な多数の人たちであり、彼らに前向きに行動し、知恵を出させるような動機づけを行うというのは、まさに日本企業が営々と行ってきたことではなかったか。あるいはこの本は、まず行動することが大切であり、戦略はその後で良いという。行動する前にいくら議論しても、単なる知識を超えるものはできないから、まず行動して、行動から得られた本当の知識をふまえて戦略をつくるべきだという。これは見方を変えれば、ボトムアップでの戦略づくりという日本企業の特質に近いものではあるまいか。 このところ、日本企業でも、経営戦略の策定や、マネジメントの再構築などといったことがさかんなようである。極論すれば、経営戦略を論じたりマネジメントを語ったりするのは楽しいし、楽である。しかし、現場でそれを実行するのは困難をともなう。それにもかかわらず、知識をもてあそぶ人がもてはやされるのでは、いずれ現場は行動しなくなるのではないか。最近起きている、品質をめぐる不祥事は、その前触れではないか。日本企業の抱える最大の問題点がここにあると云っても過言ではあるまい。 そしてこれは、企業に限らず、経済や社会の「構造改革」についても同じではあるまいか。「経済戦略会議」やら「経済財政諮問会議」やら、訳知り顔の「学者」たちがあれこれ「知識」をもてあそんでいるが、さっぱり行動には結びついていない。今、本当に必要なリーダーとは、ナントカ会議で高説を述べるリーダーではなく、国民が構造改革に向かって行動するような動機づけや環境づくりを行うリーダーであろう。 企業の成功、国家の発展を支えるのは、一部の「指導者」の知識ではなく、多数の現場の平凡な人の行動である。わが国経済・企業の発展の基盤となり、そして今見失われつつあるこの原点に、われわれはもう一度、この本を読んで立ち返らなければならないのではないだろうか。 ちなみにこの本は、私のホームページを見ていただいた方に教えていただいた。読書好きにとって、このような良い本に巡り会うほどうれしいことはない。こうしたことがあれば、つたない書評や書籍推薦を掲載した甲斐があったというものである。ご紹介いただいた方に深く感謝したい。 なお、著者のペッファー教授の姓はpfefferで、このhpの書評で紹介している「人材を生かす企業」の著者フェファー教授と同一人物です。pfはドイツ語で頻出する子音ですが、日本語で表記するのは難しく、ここでは訳者の表記に従っています。 |