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「キャリアデザイン」ということばは耳慣れたものになってきたが、「キャリアデザイン学」となるとどうだろうか。法政大学にキャリアデザイン学部が開学したのが2003年、翌2004年9月には日本キャリアデザイン学会が発足し、「キャリアデザイン学」はとりあえず学問の一領域としての主張をはじめた。そして、この本は「キャリアデザイン選書」というシリーズの最初の一冊として、学会の発足と期を同じくして刊行された。続いて、この2005年2月には二冊めの佐貫浩著「学校と人間形成」も刊行され、さらに続刊が予定されている。つまり、「キャリアデザイン学」を学ぶ人たちの教科書を揃えてしまおうというわけだ。まことに遠大な構想だが、なるほど、「キャリアデザイン学」を確立するには教科書を揃えるのはいちばんの近道かもしれない。 この本は、いわば「キャリアデザイン学」最初の教科書ということになる。書名の「人材育成論入門」のとおり、人材育成論の初学者に対するまことにていねいな手ほどきの本であり、これほど「最初の教科書」にふさわしい本もなかろう。 この本はまず、キャリアとはなにか、人材育成とはなにか、なぜ大切なのか、を「キャリアデザイン学」の考え方にそって説明するところからはじまる。最初の4章がおおむねこれに該当しよう。説明はもっぱら、理屈や専門用語ではなく、逸話(事例というより逸話という語がふさわしい)や語録、語源などのエピソードによってなされる。大学の教科書という一般的なイメージには合わないかもしれないが、初学者にとっては読みやすかろうし、専門用語を使った理屈っぽい説明より説得力もあるかもしれない。それよりなにより大切なのは、とにかく楽しく読み進むことができることだ。それが人材育成論という学問への興味、関心を引き出すことにつながる。入門書の最重要の役割であろう。教科書というものは、読んで試験を受けて単位を取るためにあるものではないはずだ。 続けて、実地の人材育成において大切な考え方、概念が説明される。おおむね第8章までがこれに相当しよう。やはり逸話や語録が中心となるが、学説も紹介される。専門用語を覚えるのではなく、読み手の頭に考え方のイメージをつくることが意図されているように思われる。これまた、学問の入り口で、その中の広く深い世界へと誘うには適切な手法であろう。 第9章以降は、人材育成の実践の歴史と、現代のさまざまな局面における人材育成の実践のありさまが述べられる。さすがにこの部分になると研究成果の紹介が多くなるが、しかし事例や逸話も多く盛り込まれる。初学者でもスムーズに読み進めるうちに、アンケートや事例の調査結果を用いた科学的な議論、検討の進め方に親しみながら、人材育成論の基本が自然と理解でき、さらなる学習への興味を持てるように書かれている。 このように、この本は入門書、教科書としてまことに優れたものであるように思われる。著者の膨大な現地調査の集積に加え、単なる博識にとどまらない深い思索と、独特の秀逸な筆力のなせるわざであろう。 また、内容的にも、「将来はこうなるだろう」「こうすればもっとよくなるはずだ」といった、ありがちな空論に陥ることなく、あくまで「歴史」と「現実」をふまえた、地に足のついた内容となっている。昨今、「キャリア」あるいは「キャリアデザイン」というと、ともすれば実態を遊離した空論が展開されがちと感じるのは評者だけではあるまいが、この本はそれとは対極にある。これはまさに、「キャリアデザイン学」が学問として確立されていくうえにおいて、もっとも重要なポイントではないだろうか。 新たな学問の誕生にすばらしい最初の一冊を得たことを喜びたい。 |