ジェフリー・フェファー 著/佐藤洋一 監訳

「人材を生かす企業」

トッパン



 この本の原題は「the human equation」、直訳すると、人間の方程式、人間の法則、といった題名になるのだろうか。「buildingprofits by putting people first」、人間優先で利益を構築する、という副題がついている。
 アメリカにおける人事管理研究の現在位置を確認しておくと、これも最近の本で、やはり、アメリカの著名な経営コンサルタントであるエドワード・ガブマンが、「the talent solution」という本を出しており、昨年末に、
「人材戦略」という訳題で、日本語版が出版されている。この本を 読むと、企業の競争力に貢献する優れた人材を採用しようとすると、 その年俸はきわめて高額であり、また、さらに高額の報酬で引き抜かれる リスクも大きい、という問題意識が、いたるところに出てくる。そうした中で、いかにして優秀な人材を、できればあまり高いコストを支払わずに、自分の会社にとどめておくか、という観点から、動機づけや、人事考課、処遇などの施策について論じている。これが、アメリカにおける人事管理論の、現時点での平均的な姿であろうと思う。
 それに対し、フェファーのこの本は、さらに踏み込んだ考え方を提起している。企業の競争力を決定づけるのは 人材であり、人材の活用と育成がはかられる企業のしくみである、という 考え方に立って、そのために最も重要なのが長期雇用と良好な労使関係で あると云う。その上で、自由市場における投資家のビヘイビアは 必ずしも企業に最適な人事管理を行わせるものではなく、投資家、経営者、 一般従業員の間に良好な関係を維持させるのが行政の役割であると述べて いる。そして、結びとして、このような人材活用型の経営を実践 できるか否かは、一般通念に抵抗してこれを貫徹する勇気が経営者に あるかどうかにかかっている、と述べている。
 この本の特徴的なところは、長期雇用で、企業内で人材を育成することを 提唱しているところにある。ガブマンの人材戦略は、優秀な人を 採用してきて、いろいろな手段で引き止めることで、結果として長期間 雇用しようというところにとどまっているが、フェファーは、 そうした人材を企業内で育成しようというところまで踏み込んだ。  そして、とりわけ注目すべきこととして、株式市場など、自由市場の 評価に従うことは必ずしも企業の競争力を強化しない、と断言している点があげられる。  アメリカにおいても、すでに、一部では、短期利益重視、投資家重視の 経営に対して、反省が始まっているのだろうか。
 フェファーが奨励した、企業内での人材育成は、わが国においては、 ほとんどの企業において、すでに職場のしくみとして、さらには風土として、 成立しているものであろう。これはおそらく、他国の企業と比較して、 わが国の企業が大いに優れている点ではあるまいか。
 であれば、われわれは、この強みを失うことのないように、あるいは、 さらに生かすことのできるようにしていかなければならない。
 企業においても、自信をもって、「人間尊重」と「長期的視野に 立った経営」を基本理念とする日本的経営に、市場原理の持つ強みや活力を とりこんで、よりよいものとしていく努力を続けたいものだ。  なお、著者のフェファー教授の姓はpfefferで、このhpの書評で紹介している「変われる会社、変われない会社」の著者ペッファー教授と同一人物です。pfはドイツ語で頻出する子音ですが、日本語で表記するのは難しく、ここでは訳者の表記に従っています。

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