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この本は、電機連合が2001年1月に設置した「働く女性の21世紀研究委員会」の最終報告書ということで、同年10月に実施された電機連合傘下の組合員に対するアンケートの分析を中心にまとめられている。副題に「いま、働く女性に労働組合は応えられるか」とあるとおり、電機連合の今後の女性労働政策に生かしていこうという趣旨のものであろう。 調査・分析の結果は非常に興味深いものを含んでいる。電機産業といえば、わが国でももっとも過酷な国際競争を闘っている産業のひとつであり、そうした背景もあって、人事諸制度や雇用管理などで最先端の取り組みが進められている。女性の採用、登用そのものも進んでいる方の産業であろうし、裁量労働や類似の勤務制度も広く取り入れられ、育児休業もさかんに取得されている。こうした新しい動きがどのように受け止められているのか知るためには格好の調査対象ということになりそうだ。その先進ぶりを象徴的に示しているのが、女性の43%が「職場で男女差を感じない」と回答しているという結果であろう。男女別の雇用管理が深く根付いてきたわが国において、ここまで男女差の感覚が解消されているのは驚くべきことではなかろうか。 その「男女差のない」職場に着眼した第1章、職務における男性優位・女性優位に注目した第2章の分析は、われわれ実務家の実感にもよく一致しており、組合運動のみならず、人事管理にも有益な参考となるものであろう。 その一方、賃金格差に着目した第3章は、入念な分析にもかかわらず、実務的にはピンとこないものになっている。この章の著者のいうとおり、この調査では「コース」が調べられていないことは重要な問題である。しかし、実務的には問題はそれにとどまらない。現実の企業の人事管理においては、必ずしも明示的でない(かつ固定的でない)「コース」が存在し、それが資格昇格や賃金におおいに影響する。そのときの実力よりすこしストレッチした仕事を与えられ、能力を伸ばし、幹部候補として育成されるコースに乗った人とそうでない人との間には、長期間には大きな差が出てくる。こうしたコースに乗るのに男性であることが有利なのかどうか、これをトレースするには、たとえば回答者が主任昇格において同期の何番手であったのか、係長昇格は何番手だったのか、といった生々しい経歴が重要な情報になるはずである(しかし、そこまで踏み込んだ調査もなかなかないようだ)。 第4章についていえば、育児休業を取得した人のサンプル、しかも取得中の職場の対応についての情報をふくむサンプルがこれだけの数まとまった調査はあまりないのではないかと思う。したがって、執筆者の練達した手腕とあいまって、分析は非常に興味深いものとなっている、具体的な対応方法もさることながら、ほとんどの職場で、育児休業を取得する人が出ても「なんとかなる」ものだ、ということ自体が有益な結果だろう。裁量労働やフレックスタイムがファミフレか否かを考察した第6章も、女性の職場進出が進んでいるうえ、これらの制度が広く普及した電機産業ならではの分析といえる。オランダモデルをめぐる調査結果からは、「仕事で活躍する」こと以外に人生の意義と幸福を見出す生き方が広がりうるかどうか、という課題を見ることができそうだ。 さて、第5章は育児休業を取得した男性に注目している。この調査で、育児休業を取得した男性はわずかに7人。調査方法から判断して、育休を取得した男性にはまず間違いなく調査票が行っているはずである。まことに貴重なサンプルであるといえよう。 ところが、この章は、アンケート調査の統計的な分析に終始している。この章の執筆者は労組専従者らしいのだが、だとするとこれはまことに物足りない姿勢ではあるまいか。この際、その分析がいかなるものかは問題にはしない。どうして、この貴重な7人に対して、突っ込んだ聞き取りを行わないのか。育休取得にいたった家庭の事情、職場の状況、上司や周囲の受け止め、自身のキャリアの将来設計との折り合い、などなど訊ねて得ることは多いはずだ。さらには、その上司からも、休業中の対応などにとどまらず、取得者についてどのような期待を持ち、どのような評価をしているのかなどを聞き出してほしかった。労組の活動家たるもの、そこにある個別の悩みや苦しみに正面から向かい合わずに、それを数字に置きなおして分析していて何の存在意義があろうか。 似たようなことは、やはり労組幹部の手になる第8章、第9章にも多かれ少なかれあてはまるように思う。編者は各章の背景に「熱き思いがある」と述べており、たしかに研究者の執筆した章にはそれがひしひしと感じられるのだが、労組専従者の執筆した章はその点はなはだ物足りないのである。筆者は個人的に電機連合にはおおいにシンパシーを感じており、その活動に声援を送っているものであるだけに、こうした印象を持つことを悲しく思わざるを得ない。それにとどまらず、調査全体を見てみても、労組の活動家が参加しているにもかかわらず、本当に職場の実情、人事労務管理の実態をふまえているのかどうか、若干疑わしく思えるところがある。電機連合を高く評価するものであるだけに、電機連合すら現場を離れてしまっているのか、という失意は深い。 とはいえ、執筆者たちは今現在は電機連合総研というシンクタンクのメンバーであり、こうした「現場に距離をおいた」分析を期待されている立場にあるということなのかもしれない。そうしたスタッフをおけること自体が、電機連合の底力を示しているということかもしれない。いずれにしても、今回の調査が貴重な情報であることに違いはなく、今後も労働組合運動の展開に資する調査に取り組まれることを期待するものである。 |