佐藤博樹編著

「変わる働き方とキャリア・デザイン」

勁草書房



 総務省統計局の「就業構造基本調査」によれば、1982年に15.8%に過ぎなかった非正規就業者比率は、2002年には29.6%にまで上昇した。これに対する評価はさまざまだろうが、いずれにしてもこれは働く人たちの意識の変化の結果と原因の両面を持つものだろう。
 この本は、(財)生命保険文化センターが2000年に実施した「ワークスタイルの多様化と生活設計に関する調査」のデータをもとにした分析結果を集めた論文集であり、さまざまな側面から働き方と働く人の関係を描き出している。
 第1章は、働く人が自分の働き方をどう評価するかに着目している。生活価値観と就業形態選択の間に一定の対応関係が見られるとともに、非正規雇用においても現状の就業形態を今後も希望することが多いことが示される。
 第2章は派遣に着目し、正社員との比較において分析する。労働条件などの大きな格差にもかかわらず、働き方の選択の前向きさや、働き方への満足度においては格差に見合うほどの違いがみられないという結果は興味深い。とくに、正社員の6割以上が「働き方を自由に選べるなら正社員を選ばない」と回答しているとの結果には意外感がある。
 第3章はSOHOに注目する。SOHOはこれを選択した人にとって適した働き方であり、今後の拡大の可能性が示唆される。
 第4章は転職を取り上げ、幸福な転職に対して貢献していると統計的にいえるのは、官民の職業紹介でも職業訓練でもなく「職場以外の会社・友人の有益な助言」だけであることを示す。文中にもあるように、この結果はたしかに実務実感とよく一致するものであるが、ここまで明瞭な結果が示せるということは興味深い。
 第5章は、女性の再就職と働き方の関係を分析する。再就職を意識する女性は子どもの数を減らすという指摘は納得できるものがある。第6章は働き方と報酬制度の関係に注目し、働き方によって望む制度の傾向が異なることが示される。第7章は自己啓発を取り上げ、その活発化が雇用のモビリティを抑制しているという、実務実感によく一致する結果が得られている。第8章はサラリーマンの副業に着目する。結果は、端的にいえば仕事や収入への不満が副業志向を高めるというものであろう。
 このように、第2章と第4章には意外感のある指摘があるものの、これらも含めて、全体としては実務家の実感に非常によくあっているように思われる。そして、なんといっても注目すべきなのは、多くの論者が多様な切り口から分析した結果、全員が働き方の多様化をさらに推進することが望ましいとの見解を示していることだろう(もちろん、必要な条件整備を行うなどの重要な留保が随所につけられてはいるが)。第1章のはじめでも指摘されているように、働き方の多様化については(不安定雇用の増加など)企業ニーズには一致しても働く人々のニーズは満たさないという否定的な評価と、働き方の自由度の高さなど、(価値観やライフスタイルに応じた選択肢が増えることで)働く人々の就業ニーズに即しているという肯定的な評価が並存している。もちろん、現実はその双方の側面を持つに違いない。そして、本書の分析が示すところは、おそらくは後者の見解をより強く支持するものではないだろうか。たしかに、この本は2000年の調査をもとに書かれており、その後の4年間に状況が変化しているかもしれない。しかし、2000年の完全失業率は4.7%であった。現在、雇用失業情勢は改善する傾向にあり、足元の完全失業率はまさに2000年と同程度の水準にある。今後さらに好転を見込むことができそうであり、多様化に対して過度に悲観的になるべきではないだろう。
 たしかに、この本が随所で指摘するように、現在の多様化には問題もあれば課題もあるだろう。しかし、それらは決して解決できないものではなさそうであり、したがって多様化には明るい将来を描くことが十分可能だといえるのではなかろうか。それを現実のデータ分析から示してくれたところに私としてはこの本の意義を感じる。

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