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日本政策投資銀行の「調査」2002年7月号に「少子高齢化時代の若年層の人材育成」というレポートが載っている。それによれば、「企業の多くは収益環境が厳しさを増すなか、1人あたりの教育訓練費を減少させるとともに、教育訓練の重点を底上げ教育から経営幹部育成のような選抜教育にシフトさせつつある。また、企業は社員個人に対し、自己責任での能力開発を求めるようになっている。」のだそうだ。そこで、「企業外での職業教育機能が求められている。」のだという。これにかぎらず、こうした説はたびたび目にする。まあ、これがいまどきの企業内教育についての通説に近いのだろう。さればこそ、この6月に経済産業省主導でとりまとめられた「若者自立・挑戦プラン」に典型的にみられるように、「能力開発せよ、さすれば就職、起業が促進されるであろう」という政策が提唱されるのだろう。 * この本は論文集であり、1999年に通産省(当時)の委託で行なわれた日本商工会議所の「総合的人材ニーズ調査」の「特定ニーズ調査」をもとに収集されたデータを用いた論文が集められている。 第1章・第2章は中小起業の人材育成をとりあげる。第1章は高橋徳行氏によるもので、雇用を多く創出した中小企業の経営的特徴を分析し、「新製品・新サービスの投入」や「マーケティングの強化」より「人材育成」によって経営成果に大きな違いが生まれていることを明らかにしたうえで、さまざまな人材育成のありようを紹介している。第2章はこの本の共編者でもある玄田有史氏と佐藤博樹氏によるもので、拡大・成長している中小企業ほど能力開発に積極的であり、それを重要な経営戦略としてとらえていることを別の観点から実証的に示している。 第3章は脇坂明氏によるもので、中小企業における「右腕」人材の重要性を検証している。事業拡大意欲の強い企業で右腕人材が不足していること、大企業出身の右腕も活躍していることなどの示唆は興味深い。 第4章と第5章では転職と情報がとりあげられる。第4章は大木栄一氏によるもので、転職において転職者多くの事前情報を収集することが転職を成功させやすいこと、情報入手への意欲が多くの情報獲得を通じて転職の成功に結びつきやすいなどことが示される。そのうえで、労働市場での情報獲得の限界を指摘し、企業と転職者とが互いに多くの情報を得るための「試用期間制度」の見直しを提唱する。第5章は黒澤昌子氏によるもので、企業と転職者との間の情報伝達を中心に幅広く分析されており、きわめて興味深い。含意も豊富であるが、総じていえば企業・転職者とも情報が多いほど、そして転職者にとってその情報が賃金などの反映されるほど、満足度が高まるといえそうだ。 結章は二人の編者による解題といえよう。編者らの結論は「各章の共通の結論として、企業成長を実現するためには「人材育成」が不可欠である」と明快である。そして、その前提として企業と労働者のマッチングが重要であり、そのための企業からの情報開示が重要であるとしている。経営者は従業員に仕事を任せることで育成をはかり、働く人は幅広い人的ネットワークを通じて情報収集することが必要であるという。そのうえで、主体的に能力開発に取り組むき業に集中的に支援を行なうことと、企業グループをこえたネットワーク拡大の促進を提言している。 * この本を読むと、冒頭に書いた通説が俗説であると感じられるようになるだろう。私がとくに注目したいのは、「経営者は従業員に仕事を任せることで育成する」というOJTの考え方が、ここでも強調されていることだ。なるほど、長引く経済不振のなかで、企業の人材育成意欲は減退しているかもしれない。しかし、だから企業外の職業教育機能にそれを代替させればよいということにはならない。それはむしろ、この本が指摘するように、「人的資本への投資を過小にする」ことにつながるだろう。本当に必要なのは、企業外の職業教育機能ではなく、企業における人材育成を強化することなのだ。 この調査自体は旧通産省の委託で行なわれたにもかかわらず、こうした成果が経済産業省主導でまとめられた「若者自立・育成プラン」にきちんと織り込まれていないのは不思議だ。「プラン」は依然として企業外での能力開発に熱心であり、それを民間業者に行なわせるかどうかという点が議論になっている。民間の活力を生かすことは大切だが、そもそも議論のピントがはずれているのだ。真に重要なのは、むしろ「とりあえずフルタイムで働いてみる」方向に誘導するカウンセリングであろう。それが「人材育成に取り組む企業」への誘導であればなおさらいい。「プラン」を具体化するのは各地域ということになっているようだが、各地域が本当にやるのであれば、おそらくは現場ではこうしたカウンセリングが中心になっていくのではないかと思う。 |