佐藤厚・上西充子・小川慎一・金野美奈子・佐野哲・千葉隆之ほか著

佐藤博樹・佐藤厚編

「仕事の社会学」

有斐閣



 近年、日々の人事管理にあたる職場のマネージャーや、それを助ける人事担当者の仕事は、日増しに忙しくなっているらしい。その理由は「成果主義」の導入であったり、「非典型雇用」の増加であったり、「若者の退職」であったりするようだ。
 こうした変化は、当然ながら「社会」の変化と深く関係する。日々の仕事に没頭しているかぎり、マネージャーや人事担当者は社会とのかかわりを意識することは少ないかもしれない。しかし、職場の変化に対応し、今後の変化を予測し、人事管理をよりよいものとしていこうと考えるのなら、社会の動向に対して無関心ではいられないだろう。それは忙しいマネージャーに対するサービスを最大の使命とする人事担当者の大切な役割かもしれない。
 さて、この本は産業・労働社会学の基本的な教科書を意図しているとのことで、そのさまざまなテーマについて、歴史的経緯や国際比較を織り込みながら、基本的な概念や代表的な先行研究を紹介し、通読すれば全般的な基礎的知識が得られるとともに、さらに進んだ学習への関心を喚起するよう編集されている。そういう意味では典型的な教科書という趣の本だが、それだけではない。次の3点において、人事担当者、あるいは職場のマネージャー、ひいてはすべての働く人にとって、人事管理や「仕事」の現在と将来を考えるうえにおいて、非常に有益な参考書ともなりうる本だろうと思う。
 第1に、この本は「人事管理と社会とのかかわり」の具体的なテーマを適切に網羅している、ということがあげられる。とりわけ、研究という側面からは近年ではとかく軽視されがちに思える「労使関係」についても1章をさいて取り上げていることは非常に好ましい。人事担当者の仕事という側面からは、労使関係は依然として大きなウェイトを持つ仕事だからだ。もちろん、労働安全衛生や労働保険なども人事管理の重要な分野だが、これはおそらく「社会学」の守備範囲を超えて、ないものねだりというものなのだろう。
 第2に、この本がかなり最近の動向までフォローしていることがあげられる。学生の教科書としては必ずしもそうではないのかもしれないが、実務家の参考書としては最新動向の重要性は高い。さらにこの本では、実務家の関心が高い「政策動向」についても多くを紹介してくれている。
 第3に、カバーの惹句にもあるように、「簡易・平明でバランスよい」という点は重要であろう。労働研究はとかく著者の価値観が出やすい傾向があると言われるが、この本はバランスへの配慮がかなり行き届いているように思われる。とりわけ、第4章(性別職域分離)や第9章(非典型雇用)などは著者の価値観が出やすい、出したいテーマではないかと思うが、非常に冷静・客観的でバランスのよい記述となっているのには感心させられた。
 唯一残念なのは、第7章(学校から職場へ)の記述が他の各章と比較して著者の価値観がかなり強く感じられ、均衡を欠くように思われることだ。企業の人事管理に対する理解に若干の疑問を感じざるを得ないし、社会学の最新動向という意味では、否定的にではあっても「パラサイト・シングル」には言及が必要なのではないかと思う。
 以上に加えてもう1点あげれば、この本は読み物としてもなかなか面白く、読みやすい。通勤電車の中でも十分読み進められるのではないかと思う。忙しい人事担当者やマネージャーにとってはこれは重要なポイントだろう。
 実務家にとっても優れた本だけに、ぜひとも短いサイクルで改訂を行い、最新動向を反映していただくことをお願いしたいと思う。それにより、いずれは新任人事担当者必読の一冊として定番となる本ではないかと思う。

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