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Amazon.co.jpでタイトルに「人事管理」を含む本を検索したら、169件ヒットした。トピックに「人事管理」を含む本は実に1116点に上る。重複もあるだろうが、いかに多数の人事管理の本が出ているかがわかる。 昔からあるのは、求人票の書き方とか、就業規則の作り方、労働時間管理のルールなどといったことを解説したごく手堅い実務書だが、これらの本は人事管理の考え方や理論的側面には踏み込んでいないことが多いようだ。 それと対象的なのは、このところ目につくコンサルタント本である。これらは成果主義やコンピテンシー、あるいはエンプロイヤビリティなど、多くはアメリカ直輸入の理論で重武装している。しかし、結局は商売だから、売れることが最優先で、売りたいことはたくさん書いてあるが全体像は見えないし、目をひくけれど実態から乖離しているし、自分の利益が第一でお客の利益は二の次だ、といったようなことが多いらしい。そもそも、常識的には人事制度を改めれば業績がめざましく改善するなどということはありえないわけだが、溺れるものは藁をもつかむということか、あるいは単なる流行だからということか、とにかくよく売れるらしい。 もちろん、この手のコンサル本がたくさん出てきたということは、現実に人事管理の改定が必要な企業が多いということだろうし、お手軽にその解を見つけたいというニーズも強いということには違いあるまい。しかし、たかが数千円の本を読めば事足りるのなら誰も苦労はしない。現実には、それぞれの企業のビジネスや仕事の進め方、風土、環境などさまざまな与件の中で、最も効果的で実行しやすい人事管理を考えるしかない。そのために必要なのは、最新流行のカタカナ言葉ではない。人事管理の全体像を、そのバックボーンとなっている考え方をしっかりとおさえながら、体系的に理解することが前提になるだろう。そのために必要なのは、これまで多くの企業が実践してきた人事管理の具体例について、なぜ、何のために、どういう考え方でそうした人事管理が行われてきたのかを整理し、理論的に体系化した教科書であろう。 今野浩一郎・佐藤博樹著「人事管理入門」は、こうした期待に応えるまことに優れたテキストであると思う。人事管理の体系に従いながらそのしくみや考え方などの基本的な知識を経済学や社会学の成果をふまえて幅広く記述するとともに、最新の事例や調査結果を数多くまじえながら、いかなる環境変化の中でいかなる意図をもってこれらの施策が採用されているのかを解説している。 とりわけこの本が優れているのは、わが国の企業経営や労使関係、人事管理の実務の実態をしっかりふまえて書かれていることである。そのため、記述が上滑りすることがなく、実務家にとっても現実感を持って読み進むことができる本になっている。ともすれば企業は利益にしか関心がなく、人事管理ももっぱらコストダウンと労働強化のために行われるという思い込みの目立つ本も多いが、この本は実務家の努力と苦心に応分の評価を与えてくれている。 もう一つ、この本の優れた点をあげるとすると、リアルタイムから未来志向の本だということだ。最新の事例がコラムとして多数紹介されるほか、ファミリー・フレンドリーやワークシェアリング、ダイバーシティ・マネジメントなどの新しい動向も紹介され、人事管理の将来を考えるための豊富な材料を提供している。常に最新動向をフォローするために、次々と増補版、改訂版が出されることを期待したい。 なお、細かな点だが注文もないではないので、三点だけあげておきたい。第一に、若干性格は異なるかも知れないが、労働安全衛生は人事管理の重要な一分野であるから、これに関する記述がほしかったと思う。第二は、わが国における解雇の法的規制についての記述で、いわゆる「整理解雇の4要件」を満たさなければ「正当な解雇」とならない、と読めるような記述がされている点である。ここは同種の誤解をしている人が多いだけに、慎重に書いてほしかったと思う。第三に、企業の人事管理施策が、行政による規制のために十分な効果を得られていないことがあることを指摘してほしかった。これも本書の範囲を超えるのかも知れないが、人事管理の将来を考えるには重要なポイントのはずである。 とはいえ、これらは些細な問題点にすぎない。教科書であるから、小説を読むように面白いというわけにはいかないが、図表も数多く使われ、読みやすく理解しやすいように配慮されて書かれている。学部生を念頭に書かれた教科書であろうとは思うが、企業の人事担当者にもぜひ通読し、座右においてほしい。自社の人事管理を考えるにあたり不可欠の基盤を提供してくれる一冊である。 |