|
■2001/12/14 (金) それは「改革の痛み」ではない 厚生年金には物価スライドというしくみが組み込まれています。これ自体は、 たしかに年金給付で生活水準を維持するには必要なものと言えるでしょう。 さて、このところのデフレ傾向で、物価(指標)は下落しています。という ことは、厚生年金法どおりに運用すれば、物価スライドはマイナスになること になります。今年もまた物価はマイナスということで、年金もそれに見合って 減額されることになりました。ということは、すなわち受け取る年金の額はそ れだけ減るということになります。とはいえ、物価も下がっていますから、年 金が減ったとしても買えるものには変わりはないということになるわけです。 何を言いたいかというと、この年金減額については「法律の定めどおり、ル ールどおりであって、特に何らの新しい作為があるわけではない」ということ と、「金額は減っても、同じだけのものが買えるのだから、『実質』としては 『痛み』はない」ということです・ ところが、昨日は、この「物価スライドによる減額」について、東京新聞が デカデカと「改革の『痛み』」という大見出しを打っていたのです。まことに ミスリーディングな報道と言わざるを得ません。 まあ、確かに、このところ物価スライドを規定どおり運用すれば年金もマイ ナスになるべきところを、「景気に配慮」という大義名分で据え置きしていた ことは事実です。こうした恣意的な運用をやめて、ルールどおりの運用にする ことは、変革であると言えば言えないこともなく、であればこれが「改革」に ともなって「痛み」が出た、とも言えなくはありません。 とはいえ、ルールどおりに運用することを「痛み」というのは、少なくとも 大新聞が大見だしにできるほどまでに正統性のあるものとは思えません。しか も、それが「改革の」ということになると、二重の意味で疑問になります。す なわち、ルールどおりの運用が「改革」と云えるかどうか、という問題も出て くるからです。 まあ、年金受給者にとっては不利益だという解釈はあり得る(私は与しませ んが)でしょうし、それがけしからん、というのもマスコミの態度としてはあ り得るのかも知れません。それにしても、いささか理屈においてはお粗末であ るように私には思われます。 ■2001/12/13 (木) 象の生き方・ライオンの生き方 ある資料を読んでいたら、オリックスの宮内義彦氏とjr東海の葛西敬之氏 が社員の採用・育成に関してこんなやりとりをしていました。 宮内「当社は今日来たら明日から専門知識を使って働いてもらいたい。だから 当社はよそで鍛えてもらった人を中途採用するのであって、わが社で教育しよ うとは思わない」 葛西「当社の採用方針は健康で人に好かれコミュニケーションの能力の高い者 である。その後は座学と現場で各3ヶ月の教育、その後も実務で訓練させてい る。鉄道という仕事は強い個性よりもチームワークが必要なのだ。宮内さんの 会社とは象の生き方とライオンの生き方の差だと思う」 宮内「葛西さんの会社は大変うるわしい企業風土だが、当社でそれをやってい たら競争に勝てず潰れる。企業は働く人がアウトプットするところであって座 学でインプットするのは発想が逆だ」 象とライオンという対比はなかなか面白いですが、葛西氏の発言に関しては、 jr西日本の松田昌士氏も日経ビジネス誌の取材で「安全は終身雇用でなけれ ば守れない」といった趣旨の発言をしており、チームワークとロイヤリティ重 視の姿勢に共通するものがあります。日本の鉄道の安全運行・定時運行はわが 国の誇りですが、こうした日本の鉄道の優れたサービスが長期雇用から生まれ るものであることは非常によく納得がいきますし、現実には民営化以降一貫し て実力主義を推進しているという事情があればこそ、経営者としては「象」ぶ りを大いに強調したいところでしょう。 これは宮内氏も同じで、氏はこのような公式・公開の場でこの手の発言を繰 り返しているにもかかわらず、事実はこれと全く異なっています。事実、オリ ックスはこの4月に135人の新卒採用を行っており、来年3月卒についても 新卒の求人を実施しています。しかも求人広告には「研修制度」として「新入 社員研修、部門別研修、海外トレイニー制度および国内外の大学等外部機関の 派遣制度」と麗々しく記載されています。「よそで鍛えてもらった人を中途採 用し、わが社で教育はしない」なんて、良く言うよという感じですが、宮内氏 は総合規制改革会議の議長という要職にあることから、発言もそれをふまえた、 「ライオン」ぶりを強調したものにならざるを得ないのでしょう。社内向けと 社外向けの使い分けは今後ますます経営者には重要という点では、象もライオ ンも共通のようです。 ■2001/12/12 (水) 消防士の心意気 11日、ワシントンの米運輸省で、米国同時多発テロで殉職した消防士の家 族を支援するため、全国消防長会からの義援金が全米消防殉職者基金に贈呈さ れたそうです。義援金は日本全国の消防士約15万人から寄せられたもので、 総額約6500万円にのぼるとか。一人当たり400円をこえる義援金は、殉 職者に対する国境を越えた共感を示すものでしょう。贈呈式にはミネタ運輸長 官も出席し、「日米親善を消防士の特別な同志関係を示した」と日本語(!) で謝辞をのべたとのこと。たしかに、日米親善という意味でもおおいに有意義 ですし、なによりプロフェッショナルとしての誇りと意地を感じさせるエピソ ードだと思います。nhkの「プロジェクトx」でも、ホテルニュージャパン の火災で66人を救助した特殊消防隊の決死の活躍が紹介されて感動を呼びま したが、わが国でも、年間に二千件弱の消防士の公務災害があるということで、 その中には殉職もあるでしょう。その使命感にはまことに頭が下がります。 「消防白書」を見ると、わが国の消防体制は、ごく一部を除いて消防本部・ 消防署によってカバーされ、地元の消防団への依存度もどんどん低下しており、 かなりの充実が進んでいるようです。広域応援体制の整備も進み、かなりの大 事故・大災害の際にも迅速な対応が可能となっているといわれます。とはいえ、 やはり現場の声を聞けば、依然として人手不足を訴える意見も多いようです。 最近では、救急搬送における人手不足、施設不足の問題を感じさせる事件も目 立つように思います。 たしかに、すべての拠点で常に大災害に対処するための能力を持つことはた いへんなムダにつながることは間違いないわけですが、それにしても、消防は 国民のセーフティネットとして最も重要かつ基幹的な公的サービスの一つであ ることはまちがいなく、予算の制約ゆえに人手不足があるのであればしかるべ く補充されるべきものではないでしょうか。 今、雇用失業情勢が悪化し、若年雇用はとりわけ厳しい状況にあります。こ うした中で、消防士をめざす使命感の高い若者は多く、消防吏員の採用は軒並 み数十倍という高倍率だといいます。消防士は青年が目指すに値するプロフェ ッショナルな職業であることは間違いなく、公共サービスの充実という意味で も若年雇用対策という意味でも補強を考えていいのではないでしょうか。財源 はくふう次第だと思います。 ■2001/12/11 (火) またも期待はずれの規制緩和 本日の日経新聞によれば、有期雇用契約と裁量労働制に関する厚生労働省の 規制緩和案が固まったそうです。それによれば、有期雇用は期間の延長は見送 られ、対象者の範囲を拡大する方向とのことで、具体的には一定年収以上であ れば大卒で5年の実務経験をもつエンジニアの大半が対象に加わるなどとなっ ているようです。裁量労働制に関しては、現行の対象職業に加えて、テレビゲ ーム用のソフト制作、金融工学を使用した金融商品の開発などが加わるもよう です。 評価できる点もありますが、全体としては相も変わらず小出しの規制緩和で、 まったくの期待はずれと言わざるを得ません。 評価できる点としては、何と言っても大卒5年、高卒7年のエンジニアに対 象が拡大されたことです。プロジェクト型業務では、有期雇用の技術者のニー ズも多いと思われますので、ここの使い勝手がよくなることは歓迎すべきでし ょう。また、「一定以上の年収」ということで、収入の概念が入ってくること も歓迎したいと思います。有期契約に限らず、裁量労働などについても、収入 と本人合意で割り切ってしまえばいい部分は大きいはずです。 逆に評価できないのは、有期雇用の期間延長が見送られたことや、職種の拡 大が限定的なものにとどまったことです。もともと、有期雇用規制は足止め・ 強制労働禁止の趣旨ですから、労働者の意思であれば自由でいいはずです。 裁量労働制に関してはまったくの期待はずれといわざるを得ません。そもそ も、派遣労働の期間規制と裁量労働のふたつは、まったく実態とかけはなれた 規制となっており、規制の体をなしていません。今の規制があるからかえって 合理的な管理方法が出てこないというところもありますし、今のような非常時 において建設的な議論を妨げているという面もあります。 労働サイドの抵抗が強いというのが規制緩和の進まない理由でしょうが、現 実をふまえて真の労働者の代表としての建設的態度を期待したいものです。無 理でしょうが。 ■2001/12/10 (月) 米失業率、さらに悪化 アメリカの11月の失業率は、10月からさらにコンマ3ポイント悪化して 5.7%となったそうです。これで株価が下がったそうですから、予想以上の 悪化だったということになるでしょう(実際、時事通信社の米国エコノミスト の事前予測の調査では、平均で5.6%という予想になっていたそうです)。 米国のエコノミストの間では、これで底入れするという見方と、12月にはさ らに悪化して6.1%に達するだろうとの見方とが並存しているそうです。失 業給付を新規に申請する人数は減少しているのだそうで、新たな失業の発生は おさまりつつあるということでしょう。その一方で、クリスマス商戦に向けた 臨時雇用が今年は例年になく少ないという話もあり、失業の発生以上に就業が 進んで失業率が低下するかどうかは余談を許さない感じです。 米国の失業率は、10月に5.4%となり、日米最逆転したわけですが、そ の後、日本の10月末の失業率も5.4%に上昇して、もう一度追いついた? という形になっていました。これでまたもや「引き離された」ことになります が、アメリカの雇用調整速度の速さを感じさせられます。日本でも、首相や経 産相がさらに悪化すると言っている(考えてみれば変な話ですが)わけですが、 それでも調整速度は遅いでしょうから、当分の間は再逆転状態が続くと見てい いものと思います。 アメリカの場合は、労働移動が活発なので、基本的に失業率は高く出る傾向 がありそうですし、80年代の不況期には失業率は7%台だったことを考えれ ば、まだまだそんなに悪い状況ではないという見方もできますし、在庫調整が 進んでいることなどから、早期に改善するとの見方もあるようですが、はたし てそう楽観できるかどうか。アメリカの労働市場は80年代後半に大きく変わ ったといわれており、その後ずっと好況が続いていましたので、基本的には好 況適応型のマーケットになっているのではないでしょうか。となると、案外失 業増の局面では心配も大きいようにも思われます。 ちなみに、ドイツの11月の失業率は9.2%、旧西独地区でも7.4%で す。カナダも11月は7.5%に達しているということですから、過去最悪と は言えわが国の5.4%は国際比較上高いとまではなかなか言い切れないよう にも思います。 |