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■2002/03/29 (金) 「業績は賞与に反映」の時代へ 1週間シリーズで書いてきた「今次春季労使交渉を振り返る」ですが、一応 の最終回の今日は、これまで書いてこなかった産業にふれたいと思います。 まず電機ですが、一応jcの回答指定日に形式的に定昇確保の回答を出した ものの、すぐさま定昇実施時期の延期や各種手当見直しなどを経営サイドが逆 提案し、「延長戦」で事実上のベダ交渉に突入しました。昨日のニュースによ れば、早くもnecが定昇実施を6か月延期することで事実上合意したようで、 おそらく各社とも同様の解決が相次ぐのでしょう。電機連合春闘とはいったい なんだったのか、まことに考えさせられるものがあります。 次に電力ですが、大手各社ともベアゼロとなりました。賞与も軒並みダウン で、さらに東電では賃金制度の改定について引き続き交渉するということです。 これで電力のベアゼロは3年連続ですが、かつては民間企業業績とはあまり関 係なく横並び賃上げを繰り返してきた電力も、電力料金値下げを迫られる時代、 かなり様変わりしてきたようです。東電は笹森連合会長の出身母体ですが、笹 森氏の柔軟路線は電力のこうした変化と無縁ではないかも知れません。 ntt労組も、厳しいリストラが続く中で2年連続でベア要求見送り、各社 ごとの状況を反映して決めるとされる「成果手当」についても、グループ8社 中5社が要求見送り、要求したnttコミュニケーションズでも1000円の 要求に対してゼロ回答となり、6社がベアゼロとなりました。さらにnttド コモが2000円の要求に対し300円の回答で、昨年の1000円を大幅に 下回ったほか、1000円を要求したnttデータは500円での決着となり ました。賞与についても、ドコモとデータが6ヶ月近くを獲得したのに対し、 他の6社は4.4ヶ月と明暗を分けました。 こうして見ると、日経連が主張している「ベアゼロ、業績は賞与に反映」と いう考え方がますます広がりつつあるように感じられます。連合は、昨年の春 闘で「春闘改革」を掲げて「相場形成力・波及力の回復」を打ち出したわけで すが、今年はさらにパワーダウンしてしまったと言わざるを得ません。 もちろん、デフレ下の春闘でベアゼロでも実質ベア、さらには雇用安定協定 で一定の前進と、労組があげた成果は決して小さくはありません。しかし、 「横並びでの波及」という春闘の意義はますます薄れてきたといえそうです。 ■2002/03/28 (木) 雇用の場の維持・確保に関する確認書 春季労使交渉回顧シリーズ、4回目は鉄鋼労連が取り組んだ「雇用安定協定」 についてです。 鉄鋼労連は今次春闘で、隔年春闘の来年の分までベア要求を断念してまで、 「雇用安定協定」の締結を求める交渉を展開しました。今次春季労使交渉が世 に「雇用春闘」といわれたゆえんでもあります。 これに対して、経営サイドは「経営の制約になるもの」として難色を示しま したが、交渉中盤になって「労使双方の努力義務をなんらかの文書で出すこと はあってもいい」などと軟化、結果としては標題のとおりの「雇用の場の維持・ 確保に関する確認書」をとりかわすことで決着しました。 高炉5社ともほぼ同様の結果となったわけですが、新日鉄の回答を見ると、 妥結日から2年間の確認書を締結するとなっており、確認書の概略としては、 まずは経済環境、経営状況の厳しさを再確認しています。次に、「会社は雇用 の場の維持・確保は経営としての責務と認識し、労組は雇用と生活の礎である 企業基盤強化の必要性を認識し、ともに真摯に努力してきた」とこれまでの取 り組みを総括しています。そして、「今後とも労使はこうした取り組み姿勢を 推進し、誠意をもって協議にのぞみ、企業基盤を磐石のものとすることをとお して雇用の場の維持・確保に向けて最大限努力する」ということを「努力義務 として確認する」となっています。他の4社もニュアンスの違いはありますが ほぼ同様の内容といっていいでしょう。 経営サイドは、日経連もふくめて「協定ではなく確認書であり、拘束力を持 つものではない」というのが統一見解のようですが、回答を見るかぎりは労使 双方が記名押印することを前提としているようなので、そうであれば形式的に は協定にほかなりません。努力義務であることをうたっていますので、強行的 な拘束力はないでしょうが、それにしても雇用維持のために相当の努力を行な わなければ信義則に反するということになるでしょう。「雇用安定」ではなく 「雇用の場の維持・確保」となったのは、出向・転籍などの方法であっても、 雇用の「場」があれば若干は「不安定」でもいいということでしょう。 全体的にこれまでの取り組みを再確認したに過ぎないともいえますが、ここ で改めて文書化したということは、組合員の安心感には大いに寄与するでしょ うし、路線変更はないことを明文化したわけなので、今次春闘の大きな成果と 評価できると思います。 ■2002/03/27 (水) ゴーン流パフォーマンスの面目躍如 春季労使交渉回顧シリーズ、3回目は日産ゴーン社長の派手なパフォーマン スについてです。 昨年の春季労使交渉では、日産のゴーン社長は、回答指定日の一週間前にフ ライングで賞与の満額回答を示すというパフォーマンスを見せてくれました。 満額回答といっても5.2ヶ月で、本田の5.95ヶ月、トヨタの5.9ヶ月 に較べれはかなり低いわけで、回答指定日に一斉に回答したのでは埋もれて目 立たなくなってしまったでしょう。それをフライングして示したことで、大い に世間の耳目を集めると同時に、「出すときはグズグズ言わずに出す」という 実行力を示し、さらには組合員のモラルアップにもつながるという、これはな かなかのパフォーマンスだったわけです。 そのゴーン氏、今年はなんと賞与のみならず昇給までベア1000円の満額 回答というパフォーマンスをやってくれました。これまたたいへんなサプライ ズで、まことにもって千両役者という感じです。 これには連合の笹森会長もいたく感銘したようで、「日本人経営者より外国 人経営者の方が日本的経営を大切にしている」と絶賛していました。とはいえ、 これはいささか持ち上げすぎという感はあります。自工会の奥田会長は先週の 記者会見で「日産は過去ベアを見送った経緯があり、今年は他社との格差を調 整したに過ぎない」という見解を示し、「今回調整してもまだ格差はあり、笹 森氏の言い方はまったく見当はずれ」と述べました。現実に、日産は3年前に ベアゼロをやっており、その後もトヨタや本田に較べるとベアが少なかったた め、ここ数年間だけでも格差は千数百円拡大しているものと思われますから、 奥田発言の方が正確な事実認識と言えるでしょう。 もちろん、笹森氏にしても、普通ならそんなことは当然わかるわけですが、 今回ばかりはトヨタ、本田のベアゼロで冷静でないところに、ゴーン氏の鮮や かなパフォーマンスが炸裂したわけなので、ついつい足元のことだけしか目に 入らずにこのような発言になったのでしょう。 日産の業績のv字回復も、会計上のテクニックを最高度に駆使して演出した ものだと言われています。来年はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、 今から楽しみなどと言っては不謹慎でしょうか。 ■2002/03/26 (火) トヨタは労使関係を否定したか 「今次春季労使交渉を振り返る」2回目は、ベアゼロの今年もやはりパター ンセッターだったトヨタについてです。 連合の笹森会長は、トヨタのベアゼロ回答に対して、「史上最高の連結経常 利益を出しながらベアゼロというのは労使関係の否定だ」などと述べて、トヨ タのベアゼロ回答を強く批判したそうです。 今次春季労使交渉では、春闘相場のリード役となる金属労協においても、鉄 鋼労連(しかも2年分)や電機連合がベアゼロの方針を取り、産別で唯一業績 好調な自動車には労働界の強い期待が集まっていました。自動車総連の加藤会 長は「自動車産業は他産業と比較して生産性の高さにふさわしい賃金水準にな い」と主張、「ベアゼロはデフレを促進する」と強い決意を示しました。事実、 交渉中盤では、トヨタは一定のベアを出すだろうとの観測が有力視されてもい ました。 ところが、結果としてはベアゼロ回答ということになり、笹森氏の「労使関 係の否定」発言となるわけですが、マスコミの報道などでは、この発言の意図 するところは必ずしも正確に伝わっていない感があります。笹森氏が言いたか ったことは、「春闘は生産性運動における適正配分を労使で決める場でもある。 史上最高益を記録したにもかかわらず労働者にまったく配分しない(ベアゼロ) というのは、これまでの生産性運動を通じた労使関係を否定するものだ」とい うことではないでしょうか。 日経連の奥田会長は「利益は賞与で還元」と主張、トヨタの労担幹部も同様 の発言をしているようです。結局のところ、適正配分の考え方は否定しないが、 将来にわたって固定的なコストアップになる賃上げでの配分はやめ、変動費的 な要素の強い賞与で配分するというのがその意味するところでしょう。実際、 トヨタも、賞与はやはり業績好調な本田などとともに200万円をこえる突出 して高い水準の満額回答を出しています。要求がもっと高くても満額回答だっ たかも知れません。 トヨタは決して笹森氏が言うように「労使関係を否定」しているわけではな いでしょうし、労組もそれを理解しての妥結だったのでしょう。笹森氏はじめ 連合は、単純に批判するのではなく、今後ともベアを取りにいくのか、思い切 って賞与重視に転換するのか、真剣に議論すべきではないでしょうか。 ■2002/03/25 (月) 前代未聞、労組みずからベダ要求 今週1週間の「吐息の日々」は、連載企画で「今次春季労使交渉を振り返る」 を書いていきたいと思います。まず第一回めは、ある意味今次労使交渉を象徴 すると言えそうな建設機械大手のコマツの交渉から。 コマツ労組が、今次交渉において定昇を大きく下回る2900円の賃上げを 要求し、経営も満額回答して決着していたことが、先週水曜日(20日)に発 覚しました。定昇相当分は6200円だということですから、実に3300円 のベダを労組みずから要求したことになります。まさに前代未聞の事態といえ るでしょう。 しかし、これは労組の考え抜いた戦術だったのかも知れません。コマツ労組 は例年2月中旬に行う要求の提出を遅らせて3月期決算見通しの発表を待ち、 3月に入って連結赤字見通しとなったのを見てから要求案を作りなおし、3月 18日になって要求を提出、翌日には満額回答というスピード決着となったも のです。ちなみに賞与も昨年の4.57ヶ月を大きく下回る3.92ヶ月を要 求、やはり満額回答とのことです。もちろん、水面下では労使トップレベルで の折衝が事前に行われていたことは想像にかたくありません。そして、この回 答は「暫定的なもの」とした上で、回答後も引き続き、会社業績や個人の成果、 役職などを重視した新賃金制度についての協議を行なうとのこと。労組だけで はなく、経営も合作の高等戦術だったのでしょう。 これがある意味今次交渉を象徴しているというのは、なんといっても名目ベ ダでも実質ベアということを意識させずにおかないケースだからです。ちょう ど定昇相当分くらい物価が下がる中では、これでも実質では立派なベア要求で、 それも満額とったのですから立派なものではないでしょうか。 それに加えて、電機各社で見られたような「回答後の再交渉」がここにも見 られることに注意が必要でしょう。というよりは、電機各社もこういう対応を しておけば、そんなに不自然ではなかったかも知れません。このあたりは上部 団体の方針にもよるのでしょうが。 そして、要求の翌日に満額回答が出て、春闘方式らしい表舞台での交渉が行 なわれなかったというのもある意味象徴的かも知れません。少なくとも春「闘」 というイメージは完全に抜けていると言えるでしょう。 |